《聖女パーティー》エルマ視点10:絶対にあり得ない!


 えっ? えっ?


 今この子なんて言ったの?


 ラフラ武器店の娘――フィオの言葉に、あたしは呆然と両目を瞬かせる。


 と。



「――ああ、聖女さま! こちらにいらしたんですね!」



「ちょっと黙ってて、豚」



「え、あ……えっ? あ、あの、今……?」



「ふふ、どうしました? 何か急用でもありましたか?」



 いつもの慈愛に満ちた微笑みで振り返るあたしに、豚も何かの勘違いだと思ったのだろう。



「い、いえ、お取り込み中のようですので、もう一回りしてきますね!」



「あら、わざわざお気を遣わせてしまったようで申し訳ございません」



「いえ! では行って参ります!」



 びっ、とギルド式の敬礼をし、豚が世に解き放たれていく。


 危ない危ない。


 あまりに突然のことに動揺して、思わず素が出てしまった。


 聖女にあるまじき失態である。


 これからは気をつけるようにしないと。


 ともあれ、そんなことより今はこの子の話だ。


 何かの聞き間違いということもあるし、きちんと正確な情報を聞かなければ。



「騒がしくてごめんなさいね。それで、ヒノカミさまの御使いさまは本当に〝イグザ〟と名乗ったのですか?」



「えっと、その御使いさまというのはフィオにはよく分からないのですが、お母さんの武器を使って武神祭を優勝してくださったのはイグザさんに間違いありません」



「なるほど……」



 え、マジであの馬鹿イグザが槍の聖女を倒した御使いだっていうの?


 てか、おかしくない?


 あいつのスキルは人のダメージを肩代わりすることしか出来ない無能スキルなのよ?


 それがあたしと同等……なんてことは絶対にあり得ないでしょうけど、それでもレアスキル持ちの聖女を倒したなんて信じられるわけないじゃない。


 大体、御使いは火の鳥に変身したり火属性の術技を得意としてるんでしょ?


 でもあいつ、術技はおろか武技だってまったく使えなかったのよ?


 印象が180度違うじゃない。



「!」



 そこであたしははたと思う。



 そうよ――〝違う〟のよ。



 あたしの知ってるイグザは馬鹿で無能で出来損ないの冴えないダメ男。


 対してこっちのイグザはヒノカミさまの御使いで聖女すら倒せる本物の豪傑。



 つまりはそう――こっちのイグザは〝真イグザ〟なのよ!



 ……まあネーミングについてはさておき。


 あーやだやだ。


 なんであたしったら、これだけの偉業を成し遂げた人をあの馬鹿イグザと混同しちゃったのかしら。


 同じ名前の人なんてごまんといるし、別人に決まってるじゃない。


 まあでも、せっかくだから一応聞いといてあげるわ。


 そう思い、あたしはフィオに真イグザがどういう感じの人なのかを尋ねる。


 すると。



「えっと、ご年齢はたぶん聖女さまと同じくらいだと思います。黒髪でお優しい目をしていて、ご自分のことよりも他人のことを第一に考えるとても素敵なお方ですっ」



「へ、へえ……」



 あ、あれ?


 それってやっぱり馬鹿イグザのことなんじゃ……って、いやいや!?


 そんなの絶対あり得るわけないでしょ!?


 そもそもあいつ素敵な人なんかじゃないし!?


 あーもう意味分かんなーい!?


 そう内心あたしは頭を抱えるのだった。

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