28 斧の聖女は町の敵!?
お子さま問題に関してはひとまず置いておくことにし、俺たちは城塞都市オルグレンを離れ、スザクフォームで東へと向かっていた。
テラさまの話だと、なんでも東の砂漠地帯には荒れ狂う風の神――〝トゥルボー〟さまがいるらしい。
そしてそのトゥルボーさまもまた女神だという。
創まりの女神さまは言わずもがな、雷のフルガさまともう一柱の水の神さまも皆女性らしいのだが、やはりそれには何か理由があるのだろうか。
そこら辺については詳しく聞いていないのでよく分からないのだが、まあどうせ会うならむさ苦しいおっさんより綺麗なお姉さんの方がいいからな。
まあ初期テラさまことジボガミさまは凄いことになってたけど……。
「しかし砂漠地帯か。訪れるのははじめてだが、やはり暑いのであろうな」
「そうですね。いくら私たちにもイグニフェルさまのお力が宿っているとはいえ、治癒力にも限界があります。しっかり水分補給をしておかなければ」
「ああ、そうだな。ところで、マグメルは本当に俺たちと一緒に来てよかったのか? 君はオルグレンの聖女だろ?」
「ええ、もちろんです。イグザさまのおかげでオルグレンの町には笑顔と活気が戻りました。フレイルさまを含め、皆さんが姿無き英雄に心から感謝しております。であればこそ、今度は我々の方がイグザさまのお力になりたいと考えるのは、至極当然の道理でございましょう」
「そっか。ありがとな」
「いえ、それはこちらの台詞ですわ」
まあ、とそこでマグメルは頬に朱を散らして付け足した。
「たとえそうでなかったとしても、私はついて参りましたのですけれど」
「そ、そうか。まあ……うん。ありがとう。嬉しいよ」
「はい♪」
嬉しそうに笑うマグメルに、俺もふっと口元を綻ばせていたのだが、
「まあ私は二人きりの方がよかったのだがな」
「ええ、そうでしょうね! 私もそうですもの!」
というように、相変わらずうちの嫁さんたちは互いに火花を散らしていたのだった。
◇
それからしばらく飛んだ後、俺たちは砂漠地帯への入り口とも言うべきところに町を見つけた。
商業都市――〝アフラール〟である。
このまま行って人々を驚かせてもあれなので、俺たちは近くの岩場に降下してからアフラールへと赴く。
まだ砂漠に入ってもいないのだが、照りつける日差しはとにかく強く、少し歩いただけでマグメルが汗だくになっていた。
「し、死んでしまいますわ……」
「そりゃお前の服装が一番暑そうだからな。場所が場所なのだし、私みたいに軽装になればよかろうに」
「お、女はそう簡単に肌を見せるものではないのです……」
聖杖に体重を預けながら、マグメルが息も絶え絶えに言う。
俺はイグニフェルさまのおかげで火属性というか、熱にはとても強いので、とくに苦になるようなことはないのだが、彼女はまだ《火耐性》を習得していなかったらしい。
俺から分けられた力も、この暑さにはあまり意味がないようだ。
「とにかく宿を取って一度休憩しよう。トゥルボーさまの情報も聞きたいしな」
「ああ、同感だ」
「わ、分かりました……」
頷く二人を連れ、俺は近くの宿へと入っていく。
すると、商人らしき人たちの会話が耳に飛び込んできた。
「また襲われたらしいぞ? これで何度目だ?」
「さあな。しかしここのところやけに多くないか? こんなことを続けられたら、俺たちゃ商売あがったりだぞ……」
「でもあの女に勝てるやつなんているか? 自警団が雇った冒険者たちでも手に負えないってのに」
なんの話をしているのかは分からないが、どうやらかなり困っているらしい。
俺たちが揃って顔を見合わせていると、アルカがやれやれと嘆息して言った。
「どうせ話を聞きに行きたいのであろう? お前は本当にお人好しだな。まあそれがお前のよいところでもあるのだが」
「はは、ありがとな。じゃあ悪いけど宿の手配は任せていいかな? マグメルも先に休んでていいから」
「申し訳ございません……」
「ううん、気にしなくていいよ」
そう笑いかけた後、俺は二人と離れて商人たちのところへと近づく。
「あの、すみません」
「「?」」
そして詳しく話を聞いてみると、どうやらこの辺りには赤髪の若い女を首領とした盗賊団が出没することが分かった。
しかも。
「その女ってのが、めっぽう腕の立つやつでな。身の丈ほどもある斧をぶん回してとにかく暴れまくるんだ」
「へえ、そりゃまた随分とワイルドな人ですね」
「ワイルドなんてもんじゃねえよ。確かに堪らねえ体つきをしちゃいるが、俺はごめんだね。あんなのグレートオーガを相手にするようなもんだ」
ちなみに、〝グレートオーガ〟というのは馬鹿みたいに力の強い人型の魔物である。
そんなものにたとえられるくらいなのだから、よほどパワフルな女性なのだろう。
一体どんな人なのか。
一目その姿を見てみたいなと俺がぼんやり考えていた――その時だ。
「――と、盗賊団だああああああああああああああああああっっ!?」
「「「――っ!?」」」
ふいに男性の悲鳴が外から響き、俺は商人たちをその場に残して宿の外へと駆ける。
「イグザ!」
遅れてアルカも俺の隣に並び、ともに逃げ惑う人々の波を視界に捉えていると、向こうの方から魔物に跨がった赤髪の女性が、猛スピードで近づいてくる姿が見えた。
そして彼女はその輝く斧を振り上げて吼える。
「そらそらそらそら! 早く逃げねえと踏み潰しちまうぜ! この〝斧〟の聖女――オフィールさまがなあっ!」
「「――っ!?」」
どうやら次の聖女もまた一筋縄ではいかなそうなのであった。
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