27 必ず妊娠させる力ってなんだ……。


「それではどうぞよろしくお願いいたします」



「う、うん……」



 その夜。


 俺は結局マグメルを抱くことにした。


 一応彼女も妾というか、ともに人生を歩んでいこうと決めた女性である。


 である以上、正妻のアルカと同じ扱いをするべきだと考えたのだ。


 もちろんアルカからの抗議はあったが、マグメル以上に愛を注いで抱くことを条件にお許しをもらった。


 俺としては分け隔てなく愛していきたいと考えているのだが、どうやらそれでは満足してくれないらしい。


 なので、なんとか二人が納得してくれるよう頑張って努力していこうと思う。


 納得してくれるかどうかは非常に微妙なところなのだが……。


 とにもかくにも、俺はマグメルを抱こうとしたわけだが、そこで一つ問題が生じてしまった。



「その前に一つお願いがあります」



「お願い?」



「はい。私を――アルカディアさまよりも激しく抱いて欲しいのです!」



「ええっ!?」



 そう、彼女は彼女でアルカよりも激しく抱いて欲しいと言ってきたのである。


 当然、俺は鍛えたアルカでも足腰が立たなくなるほどだからやめた方がいいと言ったのだが、彼女はそうされるのが好きだからとにかく激しくしろと譲らなかった。


 きっと妾という負い目ゆえ、アルカよりも多分に愛を注いで欲しかったのだろう。


 だから俺もそんな彼女の思いに応えるべく、それはもうすげえ頑張った。


 一晩中アルカを抱いたことで、経験値もかなり上がっていたからだ。



 が、やっぱりちょっと激しすぎたんでしょうなぁ……。



 マグメルは途中で気を失ってしまい、それみたことかと乗り込んできたアルカの誘いに乗って、その後は朝まで彼女を抱くことになってしまったのだった。


 まあおかげで二人とも満足したらしいので、結果的にはよかったのだが。


 とにかくこれでマグメルにもイグニフェルさまの力が宿ったと思うので、アルカともども末永く幸せに暮らしていけたらと思う。


 と言っても、俺たちはこれから救世の英雄――〝勇者〟パーティーとして色々と頑張っていかなきゃいけないんだけどね……。



      ◇



 ともあれ、テラさまからいただいた力は、イグニフェルさまのものとは少々毛色が違った。


 あれは俺との相性が抜群によかったからスキルが進化したのであって、まず通常ではあり得ないらしい。


 なので、テラさまからもらった力で《不死鳥》に変化はなかったのだが、



『スキル――《完全受胎》:任意のタイミングで必ず妊娠させることが出来る』



 いや、なんなのこのスキルーっ!?


 そりゃほかにも土属性の技を色々と習得したけど、一体これはなんなのだ……。


 しかもサブスキルじゃなくてメインスキルだし……。


 もしこれが万が一にも派生したらどうなってしまうのだろうか……。


 そう一人杞憂を抱く俺だったのだが、



「なんと素晴らしいスキルだ……っ」



「こ、これはもう早々に使うしかありませんね! ええ、今夜にでも!」



 なんでめちゃくちゃ喜んでるんだろう、この人たち……。



「いや、そりゃ将来的にはそういうことも考えていこうとは思ってるけど、俺たちにはまだやるべきことがあるだろ……」



「え、ええ、もちろん分かっていますよ? ただ……」



 ちらり、とマグメルがアルカを一瞥する。



「なるほど、そういうことか」



 どうやらアルカにはマグメルの意図が読めたらしい。


 彼女は不敵に笑って言った。



「よくある話だ。なかなか子の出来づらい正妻よりも先に世継ぎを成した妾の下克上というやつだ」



「えぇ……」



 そりゃ確かにそんな話も聞くけど……。



「し、仕方ないじゃないですか!? 口惜しくも現状私の立ち位置は妾止まりなのです! ですが私だってイグザさまの一番になりたい! であればこそ、正妻の座で高みの見物をしているアルカディアさまを叩き落とすには、彼女よりも先に子を成すしかないのです!」



「いや、叩き落とすって……」



「やれやれ、まったく困った妾だ。愛する我が子を自分が成り上がるための道具として扱おうとするとはな」



 肩を竦めるアルカに、マグメルはぷいっとそっぽを向いて言った。



「なんとでも仰ってくださいまし! でもそう仰られるのでしたら、私が先に子を成しても文句はないということですよね?」



「いや、それはダメだ」



 ダメなのかよ。



「確かに私に子が出来づらいというのであれば、それも致し方あるまい。正妻の座を譲る気はないが理解はしよう」



 だが! とアルカは尊大に胸を張って告げた。



「〝必ず妊娠出来る〟となれば話は別だ。むしろそのスキルをテラさまからいただいた時点で私の正妻としての座は盤石のものとなったと言えよう」



「な、なんですって……!?」



「何故なら私は正妻! よって私の許可なく妾が子を作るなど言語道断! それこそが正妻の権限だと知れ!」



「そ、そんなの横暴です!? イグザさまもどうしてこんな方を正妻に選んだのですか!?」



「い、いや、そう言われても……」



 出会った時期が早かったからとしか……。



「ぐっ、分かりました! あなたがそういう手に出るのでしたら、私にも考えがあります!」



「「?」」



 揃って小首を傾げる俺たち(というより、むしろアルカ)に対し、マグメルはびしっと指を突きつけて言ったのだった。



「――絶対に私の方が先に子を成して、あなたから正妻の座を奪って差し上げます!」



「クックックッ、いいだろう。つまり女として先にイグザをその気にさせた方が勝ちというわけだな? その勝負受けて立ってやる!」



「……」



 いや、その気にさせてくれるのは嬉しいんだけど、それはちゃんとこの旅が終わったあとにしようね?

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