7 戦闘スタイルを決めよう
「あ、あの、是非またこちらにいらしてくださいね。私、いつまでもあなたさまの来訪をお待ちしておりますので……」
ぎゅっと両手で俺の手を握ってくれるカヤさんにドキッとしつつも、俺はそれを気取られないよう頷いて言った。
「え、ええ、もちろんです。町長さんもお元気で」
「はい。カヤともども旅の安全を祈っておりますぞ」
「ありがとうございます。では――お世話になりました!」
ごごうっ! と火の鳥化し、俺はまだ夜の帳が下りている空へと舞い上がる。
ドラゴンスレイヤーの時もそうだったが、さすがに有名になりすぎたからな。
そろそろ場所を移動した方がいいだろうと考え、本日出立を決意したのだ。
もちろん住民の皆さんは俺をヒノカミさまだと思っているので、このように人目を憚っての出発になったわけだが、夜の海というのは静かでいいな。
なんというか、周囲に人気がまったくないせいか、世界に俺一人しかいないのではという錯覚すら覚える。
ただ火の鳥化は日中でも無駄に目立つので、もう少し何か別の飛行方法を考えないといけないだろう。
下手したら珍獣扱いだからな。
気をつけないと。
ともあれ、次の目的地なのだが、そろそろ自分の戦闘スタイルを確立出来たらと考えている。
今までは雑務用に短剣を使っていただけだったので、剣や槍、弓など、とにかく自分に合った武器での戦闘スタイルを見つけたかったのだ。
でも剣だとエルマと被るのか。
まあ剣を使ってるやつなんてごまんといるし、気にすることでもないとは思うのだけれど。
さて、そんなわけで俺の目的地についてだが、それはマグリドから東にあるラスコラルタ大陸の武術都市――〝レオリニア〟であった。
◇
町長さんの話によると、武術都市レオリニアには、冒険者たちが互いの技量を競い合うための闘技場があるといい、世界中からたくさんの猛者たちが集まってくるという。
つまり多種多様な戦闘術が見られるというわけだ。
しかも町には参加者用に多数の武具店が存在するといい、俺好みの武器もきっと見つかるだろうという話だった。
「というわけで、噂のレオリニアにやってきたわけですが……」
――がやがや。
「人多いなぁ……」
何かお祭りでもあるのか、通りを埋め尽くす人々の波に、俺はほえーと口を開けたまま固まっていた。
しかし皆さん実に血の気の多そうな方々ばかりである。
そういえば、闘技場で勝つとお金がもらえるらしいので、それ目当てで来ている人も多いのだろう。
そして恐らくは、あの中央に見える石造りのでかい建造物が、件の闘技場だと思われる。
どうしようかな。
やっぱり闘技場が一番気にはなるのだけれど、その前にどんな武器があるのかを見てみようかな。
お店もいっぱいあるって言うし。
というわけで、俺は近くにあった武具店に入ろうとする。
が、店の前には『準備中』の看板が掛けられていた。
もう昼すぎのはずなのだが、珍しいこともあるものだ。
だがまあそういうことなら仕方あるまい。
別の店を探すとしよう。
◇
「いや、なんでどこも〝準備中〟なんだよ!?」
10件目の『準備中』を目の当たりにし、俺は思わず突っ込みを入れてしまう。
もしかしてこの町の武具店は夜から開くのだろうか。
いや、でも夜は皆闘技場に向かいそうだし、それはない気がするんだけど……。
「はあ……。武器見たかったなぁ……」
そう俺がしょんぼり肩を落としていると、
「――あ、あの!」
「うん?」
ふいに誰かに声をかけられ、俺は声のした方を見やる。
そこにいたのは、12歳くらいの女の子だった。
エプロンのようなものを身につけている、可愛らしい感じの子だ。
俺に何か用でもあるのだろうか。
怖がらせないよう目線の高さを合わせて尋ねる。
「どうしたんだい?」
「そ、その、お兄さんは武器を探しているのですか?」
「えっ? あ、うん。そうなんだけど、どこもお店が閉まっててね」
俺が苦笑い気味に言うと、少女は「で、でしたら」と胸の前で両手を握る。
「お、お母さんのお店に来ませんかっ?」
「お母さんのお店?」
「はい。フィオのお母さんは武器のお店をやっているんです」
どうやらこの子はフィオちゃんというらしい。
「え、いいのかい? というか、お母さんのお店も準備中なんじゃ……」
「いえ、お母さんのお店はちゃんと営業中なので大丈夫ですっ」
「お、そうなんだ」
それはありがたい。
しかし〝お母さん〟のお店か。
お母さんが鍛冶師ってことはないだろうし、もしかしたら店主だった旦那さんが亡くなってしまったのかもしれないな。
そして残った武具をなんとか売って生活費を稼ごうと、こんな小さな子までもが自主的にお客さんを探しにきていたというわけだ。
全ては俺の勝手な妄想であるが、なんかそんな気もするし、少しでも協力してあげられたらいいな。
そう思い、俺はフィオちゃんに案内してもらうことにしたのだった。
が。
「おう、あたしがフィオの母親で、名前はレイアだ。まあ好きなだけゆっくりしていきな」
「……はい」
そこで待っていたのは、でかいハンマーを担いでいる姉御肌の女性で、それはもう無駄に筋肉質であった。
勝手に想像しといてなんだが、呼び込みの酒場でぼったくられる人の気持ちがよく分かった俺だった。
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