《聖女パーティー》エルマ視点2:なんで誰も知らないのよ!?


 たった一人で飛竜を倒したというドラゴンスレイヤーに会うため、あたしは港町ハーゲイを訪れていた。


 この町ではかなり有名な人物のようで、誰に尋ねても皆彼を知っているかのような口ぶりだったのだが、



「なんで誰も名前を知らないのよ!?」



 というように、誰に聞いても「ドラゴンスレイヤーさんのお名前? え、ドラゴンスレイヤーさんじゃないんですか?」みたいな回答ばかりだったのである。


 そんな名前のやつがいるかという感じなのだが、本当に誰に聞いても名前を知っている人がいないため、あたしは彼自身がそう名乗っているのではないかと思い始めていた。


 まあ飛竜を短剣一本で倒すような猛者である。


 恐らくは対竜種に特化した戦闘術を身につけ、それを生業としているのだろう。


《剣聖》のスキルを持ち、聖剣に選ばれた聖女のあたしでさえ、竜種を相手にするのは骨の折れる作業なのだ。


 それを単身かつ短剣のみで成し遂げる技量を持つなど、まさにあたしのパーティーに入るために生まれてきたようなものである。


 ゆえに、なんとしてでもパーティーに加えなければ!


 そしてばったばったと竜種を薙ぎ倒して、あの馬鹿イグザに目にものを見せてやるんだから!


 そう拳を握り、あたしはドラゴンスレイヤーの所在を荷物持ちの男性とともに手分けして捜し続ける。


 が、なかなか成果は上がらず、あたしの苛立ちも加速度的に募っていった。


 てか、そもそもなんで聖女のあたしが汗水垂らして聞き込みしなくちゃいけないのよ!?


 荷物持ちのあんたも少しは空気読んで「聖女さまは宿でお休みになっていてください」とか言いなさいよ!?


 何聖女を差し置いてがばがば水飲んでんのよ!?


 あー、もうこれだから気の遣えない男は……っ。



「おや、どうされました? 聖女さま」



「い、いえ、今日はとても天候に恵まれているなと」



「そうですね。おかげで汗が止まりませんよ」



 はっはっはっ、と男性が鷹揚に笑う。


 いや、何笑ってんのよ!?


 こっちはあんたの暑苦しさで余計滅入ってるってのに!?



「おや、どちらへ?」



「もう少し聞き込みをしてみようと思います。そろそろギルドの方も戻ってきていると思いますので」



「分かりました。では私は一足先に宿でお帰りをお待ちしておりますね」



 ……はっ?


 いや、あんたも足動かしなさいよ、足!?



      ◇



 完全に人選ミスだと頭痛を覚えそうになりながらも、あたしはギルドへと赴く。


 もちろん町に来て早々ギルドには足を運んだのだが、その時は担当者が不在だったのである。


 が、どうやら戻ってきているらしい。



「――失礼。私は聖女エルマと申します。こちらにドラゴンスレイヤーさまがいらっしゃると伺ってきたのですが」



「これは聖女さま、ようこそおいでくださいました。私はクエストの担当をしております、リサと申します。以後お見知りおきを」



 受付の女性――リサが深々と頭を下げてくる。


 この町の冒険者に一番詳しいという彼女ならば、きっと何かしらの手がかりを知っていることだろう。



「ええ、よろしくお願いいたしますわ。それで、ドラゴンスレイヤーさまはいずこに?」



「はい。あの方でしたら、先日船で南の火山島――マグリドへと向かわれました」



 ほら、ビンゴ!


 さすがあたし!



「なるほど、そうでしたか。ありがとうございます。あ、それと――」



 名前……はどうせ知らないでしょうし、聞かなくていいか。



「?」



「いえ、なんでもありません。情報、ありがとうございました」



 聖女らしく丁寧にお礼を告げ、あたしは足早に宿へと戻っていったのだった。


 待ってなさいよ、ドラゴンスレイヤー!


 このあたしが直々にパーティーに加えてやるんだから!

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