第3話 中間試験返却日③
テストをガン見する。穴が開くほどジッと見続けた。
しかし点数は変わらない。
「十点のまま」
この結果に思わず汗を流していると隣から強烈な視線が襲ってきた。
「え、点数別に悪くないよ?」
そう弁明してみたがお隣さんは、はあ、と溜め息を吐いただけだった。
「私何も言ってないけど」
とてつもない正論が都羽を襲う。
それに驚愕しつつも、しかし都羽は諦めない。
「相手に点数聞くなら自分から先言った方がいいかなって」
「いらない情報どうもありがとう」
聞いてないし。そう瞬時に切り返された。
それが皮肉だとわかった瞬間、とてつもない悔しさがこみ上げる。
「というかキミさ、隣人と呼ぶのかお隣さんと呼ぶのか、それとも名前で呼んでくれるのか統一しなさいよ」
唸っていると追撃が来た。それもかなり正確に。俺の内心筒抜けですか。
「え、名前で呼んでい――」
「キミ死にたいの?」
自分から選択肢を用意しておいて、いざ特定の選択肢を取られると逆ギレするパターンですか。
されど興味。ただその感情の為だけに都羽は命を天秤にかけた。
結果、天秤は名前を呼ぶことに傾いた。
命軽すぎ案件。
「あの、浦――」
「ねえ」
その一言に全人類が跪いた。
と言いたい衝動に駆られながらも何とか我慢。
しかし名前を呼びきることができなかったのは確固たる事実。
「もうお隣さんと呼びます…」
さして興味は無いのか――
「そ」
たった一言。素っ気ない返事が返ってきた。
自分から言い出した癖に。
とか思うものなら命が何個あっても足りません。
「いい心掛けね」
お隣さんはそう言って悠然と微笑んだ。
これぞ悪魔の微笑みか…!?
っと、どうやら生徒全員に配り終えたらしい先生が折を見て口を開いた。
「今回大問3の出来が非常に悪かった。配点30のうち、平均点が13だったぞ。宿題にはしないが各々復習はしっかりしとけー。あ、やっぱり宿題にすべきか――」
最後にそう思案した先生を見て、俺は爆速で手を挙げる。
「せんせえ!! せんせせんせせんせ――」
しっかり気付いてもらえるように連呼すると――、
「ああ!! おい、都羽、うるさい! 何だ!?」
拳を教卓へ叩きつけて面倒臭そうに応じた。
それでも俺は真っ向から――、
「うるさい奴は点下げるぞ」
立ち向かう前にその言葉に屈した。世の中なんと理不尽なことか。
大袈裟に嘆く都羽を見かねたのか、先生はしょうがないとばかりに首を振る。
「まあ宿題にはしない。今後成績を上げたいなら復習しておくことを勧めるがな」
そう言って先生は今度は違う紙袋を取り出した。
「おし、次は数学を返すぞ。数学の
そんなあ! 提出だと!? おい、山北ァ!
やべ、肝心な所聞いてなかった。
そう焦った都羽は隣を見やるが、隣の席はもぬけの殻。
「ん、そっちには誰もいないけど」
「ふぁあ!!」
右隣を向いていたので、後ろすなわち左から暖かい風が。否、吐息が耳にかかってくすぐった――、
「ねえ」
「すいません!」
『ねえ』。その一言に数多の意味が加えられている気がした。
それが怖くて反射的に返答すると、それを否定された。
「何謝ってるか知らないけど、キミ呼ばれてるよ」
お隣さんの人差し指を追っていくと――、
「だーかーらーァ!!! 時雨都羽ァ!! お前はよ来んかい!!!!」
目をキラリと光らせた先生、もとい俺らの担任
珍しく教えてくれた素直なお隣さんにおじぎをして、前へ向かう。
「ふん」
パシィィィン。
おじぎをし終わった瞬間に、紙で頭を
担任の元へ向かう道中で、そこかしこから「あいつ女帝にやられてんぞ」「女帝今日も容赦ないなあ」「ぼ、僕も叩かれてみたい…」等と私語が聞こえる。
一部おかしなことを言っている奴がいるのは気のせいだろう。
それとお隣さんが『女帝』と呼ばれていることを知ったが、聞いて即納得できるほど俺は経験値を持っていたらしい。
「ほお、お前地歴公民はまあできるのな」
ぽい、と無造作に出されたテスト。
気付けば目と鼻の先に担任がいる。
そして今度もテストを引っ掴んで、点数欄を睨みつける。
そこには――。
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