第二章 闘争
1 波涛
サバタリアン・ファーマスティカル社長室。
そこは、円形をしたビル中央塔の最上階にあり、フロアーの南側約三分の一がひと部屋にあてられている。窓を背にして社長用の机がすえられており、その前にはガラスのローテーブルとそれを囲むようにソファーがおかれている。
窓からは、延々と広がる平野がみわたせる。
この地方には高層ビルが少なく、背の低い建物が視界一面にひろがっている。背を伸ばせば遥かに離れた海さえもが見えるのではないかと思えるほどの平面的な大地が広がり、その中央には、二十キロメートル離れたナツキ駅周辺の高層ビル群がそびえているのが展望できた。
社長室のなかには数人の男女が参集していた。
社長席には壮年の男がすわっており、そのかたわらに、まだ高校生とみえる制服姿の少女がひとり、寄りそうようにしてたっている。そしてその少女と同じ学校の制服を着た少年が、部屋の入口の近くに無表情に立って部屋にいるひとたちを静かなまなざしで見ていた。
「まさか、マウスが倒されるとは、な」
苦々しげに社長がつぶやく。
一見すると、どこにでもいそうな壮年の男であるが、その声音には他者を圧するような威圧感があり、その挙動にはある種の風格がそなわっていて、体全体からはにじみでるような威厳をただよわせていた。
社長席の前のソファーには、四人の男がすわっている。足を組む者、腕を組む者、ひじ掛けに持たれるもの、ソファーの背に腕をかけるもの。それぞれ、スーツ姿をしているものの、皆が皆、只者ではない、異様というしかない雰囲気をまとっている。
彼らはSRシリーズと呼ばれる、
そのなかで、社長席に一番近くにすわる、チームのリーダーで、長髪の黒いコートを着た男が、組んだ足をゆすりながら、口を開く。
「マウスはもともと、人数合わせでチームに加入させた出来損ないでしょう。そう気になさる必要はありません」
「女相手に、性欲をおさえきれなくなるなど、性格プログラムに欠陥があったとしか考えられませんな」
コートの男の正面にすわった男が、嘲弄するような口ぶりで話す。スーツの上からでもわかるほど、筋肉が隆々と盛り上がった体型をしている。
コートの男の隣にいる、痩せて長身の男が、くくく、と喉をふるわせて、いやらしく笑う。
残りひとり、中肉中背の男が、
「出来損ないとはいえ、マウスも我らと同じ
とサングラスを指でおしあげながら、理知的に話す。
「その女の情報は他にありませんか」
コートの男が社長にむかって問う。
「キヨミ」
社長が横に首をまわして声をかける。それに応じて、
「はい」
と事務的に答える少女。
「調査によれば、その女は、最近この界隈でわが社の社員に聞き込みのようなことをしていたそうです。姉をさがしていると言い、名前を、モモサキ・フユミと名乗ったそうです」
少女は、長い漆黒の髪を微動だにさせず、抑揚なく報告する。
「それは先日聞いた。他には?」社長がいらだたしげに、先をうながす。
「はい、ですが、モモサキ・ハルコに、フユミという妹は存在いたしません。モモサキ・ハルコの血縁自体、かなり遠縁までたどらねばおらず、そのなかにもフユミという女性はおりませんでした」
「ふむ、それだけか?」
「申し訳ございません、まだそこまでしか」
「うむ、調査を続けろ」
「はい」
社長は男たちに顔をむけ、
「お前たちは、調整を急げ。調整が終わったものは別命あるまで待機」
男たちは、はいと口々に言ってたちあがり、出口に向かう。
「せっかく戦地から帰還したばかりだというのに、面倒なことですな」
コートの男が不承不承といった口ぶりで言う。
「そうぼやくな。休暇の延長と特別手当を約束する」
コートの男は苦笑し、社長室をでていく。
残った少年に対し、
「お前も行っていい」
社長は思いやりのかけらも感じさせない粗略な口調で命じる。
少年は不安気に少女の顔をみる。少女は少年に目くばせするようにし、こくりとうなずいた。
「なにをしている」
社長が怒気をふくんだ、しかし冷淡な叱声を放つ。
「私の前で
「申し訳ございません」
少女が頭をさげる。
「まったく、薄気味の悪い
社長は吐きすてるようにつぶやいた。
少年は深々と頭を下げると、部屋をでていった。
「キヨミ」
社長は疲れたように椅子の背に体をもたれさせ、少女の名を呼ぶ。
「はい」
「今日はお前が上になれ」
「はい」
切れ長の目を伏し目がちに、少女は無機質な返事をすると、スカートの中に手をいれ、下着をおろす。脱いだ下着はそのままに、社長の前にまわると、彼のズボンのファスナーをさげ、すでに怒張したものを細く白い指でとりだし、椅子のぼると、その生殖器のうえに腰を落とす。そして、社長の首を抱くようにして腕をまわすと、腰を使いはじめた。
少女の瞳にうつる。
窓からみえる広大で虚無的な街と、それをつつみこむ真っ青な空――。
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