繋ぐ

「歩きづらいんだけど」

「俺に言うなよ……」


犀川と共に、出発したが……。

どうやら、下駄で歩くのが、思っていたより難しいらしく。


亀みたいなスピードで。俺たちは進攻していた。


「この調子だと、会場に着くころには、俺たちヨボヨボになってるかもな」

「じゃあ、先に行っててもいいけど?}

「すぐ怒るなよ……。わかりやすい冗談だろ?」

「……」


足もとがおぼつかないことが、相当ストレスらしい。

出だしでここまで不機嫌になられたら……。たまったもんじゃないな。


「今から家に戻って、靴に替えた方がいいんじゃないか?」

「やだ。せっかく探し出して……。履いてきたのに」

「頑固だよなぁ。犀川って」

「そんなの、今更じゃん。散々頑固なところ、見せてきたでしょ。許容してよ」

「……そういうところも、良いんだよな」

「……は?」


犀川が、目を丸くしている。

褒められたことに、一瞬気が付かなかったみたいで。


だけど、俺がちょっぴり、照れくさそうにしてるから。


「……バカじゃん。なんなの?」


犀川も、同じように、照れてくれた。


「やっぱりさ……。犀川って、めちゃくちゃ可愛いよな」

「キモいから。本当に。大嫌い」

「可愛いって言われたら、素直に、ありがとうって言おうぜ? 直美の直は、素直の直だろ?」

「だから何?」

「あっ、おい」


犀川が、少し歩くスピードを速くして、俺より先行しようとした。

そして、またバランスを崩しそうになったので。

俺が、そんな犀川を、再び支える形に……。


「……わざとやってんのか?」

「そんなわけないから。離してよ」

「あのさ」

「なに?」

「手を繋いで歩いたら……。歩きやすいってこと、無いのか?」

「……知らない」


俺は。

犀川の手を、握ってみた。


「……なに」


そして、犀川を見つめてみる。


「……なんなの?」


……嫌がっては、ないみたいだな。

じゃあ、このまま繋がせてもらおう。


「行こうか……」

「……」


しばらく、手を繋ぎながら、歩いてると……。

段々、犀川の足取りが、まともになってきた。


「やっぱり、手を繋いだのは正解だったな」

「……」

「な?」

「……悔しいけど、転んでも、支えてもらえるって思ったら。急にちゃんと歩けるようになった」

「つまり、俺のおかげってわけだ」

「うるさい」


思いっきり、睨まれてしまった。


「これからも、下駄を履くときは、俺を呼んでくれよ?」

「もう二度と履かない。家に帰ったら、ゴミ箱にさようならだよ」

「おいおい。来年の夏祭りがあるだろ?」

「来年のことなんて……。ていうか、受験生だし」

「夏祭りくらい、受験生でも、気休めで参加したっていいじゃないか」

「そういう油断が、他のライバルとの差を広げるんだから。一分一秒も無駄にできない」

「塾講師みたいなこと言うなよ……」


なんか、鼻息荒くなってるし。

勉強のこととなると、熱くなるのは、犀川らしい。


「じゃあ……。武藤くんも、次は下駄を履いてきてね?」

「……そうだな。うん」

「この歩きづらさ、履かないとわからないから」

「もし俺が転んだらさ……。犀川が、支えてくれるのか?」

「地面が支えてくれるよ」

「助けてくれよ」

「ふふっ」


あっ、笑った……。

やっぱり、普段はクールで、仏頂面な犀川が、笑うと……。

……マジで可愛くて、変になる。


「あっ、ちょっと。急に止まらないでよ。何?」

「い、いやすまん。犀川に……。見惚れちゃって」

「……バカじゃないの。本当に」

「今日の犀川さ……。ヤバイよ本当に。浴衣だし。黒髪が映えるっていうか。マジもんの美少女」

「それ以上なんか言ったら、怒るからね?」

「怒ってくれていいから、あと百個くらい、可愛いと思ってるところ、言ってもいいか?」

「帰る」

「わかったわかった。辞めるから……」

「今日の武藤くん、本当にキモいよ」


しっかり褒めたのに、ちゃんと貶された。

だけど、犀川の顔が……。真っ赤になっていて。


これが見られるなら、どれだけ貶されてもいい。

そう思いながら、再び歩き始めた。

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