青春の匂い
「好きって……。え?」
「本当だよ。武藤」
「ちょっと……。おいっ」
九条が、いきなり抱き着いてきた。
そして、俺の首元に、鼻を擦りつけてくる。
そのこしょばい感触に、何とも言えない感情が湧いてきた。
「武藤……。良い匂いする」
「ま、待ってくれよ。どうしてそんな」
「……気が付いてないの、武藤くんだけだよ」
布団から、低い声がした。
「そうだね~……。結構私、わかりやすかったと思うんだけどな」
照れくさそうに、九条が笑った。
嘘だろ……?
全然、そんな素振り、見た覚えがない。
「でも、本格的に匂わせだしたのは、最近だけどね。直美と急接近しちゃってさ。そろそろこれは、絡んでいかないとって、思ったんだ」
「……なるほど?」
「あ~。武藤、まだピンと来てないんだ」
「そりゃそうだろ……。九条と俺って、対極の存在って感じだし」
「理由とか、特に無くてさ……。私、ちょっとモノ好きなのかな」
「おいおい。本人前にして、それはないんじゃないか?」
「あはは。ごめんごめん」
「あと……。いつまで抱き着いてるつもりだよ」
「いつまでも?」
「……」
犀川に抱き着かれた時とは違う、この、じっくりと、異性との違いを感じさせられる感覚。
肌の質感とかもそうだし。
匂いも……。
九条は、俺の匂いが良い匂いだなんて言ったけど。
九条の方が……。よっぽど良い香りがする。
突然の出来事で、パニックになりかけていたが。
段々と、状況が認識できるようになってきて。
とにかく……。恥ずかしい気持ちで、いっぱいだった。
「ほら、武藤さ、髪切ったじゃん?」
「あぁ……。うん」
「その新しい髪型が、私的に超好みで……。余計好きになっちゃった」
「やめてくれよ……」
「えへへ……」
ぎゅーっと。
より、抱きしめる力を、強められた。
「大好き……」
呟くように、そう言われ。
思わず、抱きしめ返しそうになった。
だけど……。
「……ごめん。九条。俺は」
「いいの。言わなくて。わかってるから」
九条が、ゆっくりと俺から離れて行った。
そして、再び犀川に向き直る。
「布団、外したら?」
「無理。失神しちゃうよ」
「何も見えないでしょ?」
「見える。ギリギリだけど」
「今、私たち、キスしてるよ?」
「えっ!?」
九条のそのセリフで。
犀川が、布団を投げ捨てた。
「へへ~ん。騙されてやんのっ」
いたずらっぽく笑う九条。
そして……。
久しぶりに見る、犀川の姿。
……やっぱり、とんでもなく可愛い。
「うっ!」
うっかり、ガン見してしまったせいで、足元がふらついた。
「武藤!」
そんな俺を、九条が、抱きしめるように、支えてくれた。
すると、不思議なことに、飛びそうだった意識が、すーっと戻ってきた。
「……あれ? 失神しない?」
犀川が、不思議そうに首を傾げる。
「もしかして……。異性に抱き着かれてる間は、失神しないのか?」
「そんなバカみたいな対処法、ある?」
「あっ……。私、わかったかも」
「なに?」
俺に抱き着きながら。
九条が、犀川に言った。
「私の方が、直美より愛が深いから、魅了が効かないんじゃない?」
それを聞いた犀川は……。
「……そんなこと、ないでしょ」
なぜか、張り合ってきた。
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