告白

「……」

「……」


いつものように、布団に包まっている犀川。

それに対して、仁王立ちで向かい合っている九条。


武藤は、何もしないでね。

そう言われてしまった俺は、静かに部屋の隅で、待機している。


「直美……。私、直美のこと、友達だと思ってるよ」

「……私も。明美のこと、友達だと思ってるけど」

「けど、なに?」

「これは、私と武藤くんの問題だから、関わらない方がいいよ」

「直美と武藤の問題なのに、武藤を失神させてたら、話が進まないじゃん」


正論だな……。

犀川が、一つ、咳ばらいをした。


「だって、武藤くん……。何もわかってくれてないから」

「ううん。武藤は頑張ってるじゃん。わかってないのは直美だよ」

「私……? 冗談やめて」

「冗談で済んだら、良かったのにね……」

「また、失神させるよ?」

「そうやって、逃げるの?」

「今はそれしかないから」

「もう、やめなよ。自分の気持ちに、正直になろう?」


犀川が、ジリジリと詰め寄ってくる。


「出てって。私はちゃんと、自分の気持ちと向き合ってるから」

「気づいたんでしょ? 武藤を独り占めしたくなってる自分に」

「……え?」

「モモ先輩も、文月先生も……。柚ちゃんは、ちょっとわかんないけど、気が付いてないのは、武藤本人くらいだよ」


俺……?


「武藤。直美はね」

「やめて」


布団から、手が伸びてきて、九条を捕まえようとした。

九条はベッドの上に飛び乗り、それを回避。


「動きづらいでしょ。本気出せば、捕まるわけないから。昨日は油断しただけ」

「……」

「あのね、直美。そんな生き方してたら、絶対後悔するんだよ?」

「うるさいよ」

「好きな人に、ちゃんと好きって伝えないと……。絶対ダメだから」

「明美に何がわかるの?」

「私……。お母さんが死んじゃった日ね? 朝、喧嘩したの」


犀川の動きが止まった。


「だから、最後の会話は喧嘩。お母さんのこと、大好きだったのに、好きって言えなかった」

「……それは、かわいそうだけど、今関係ない」

「関係、あるんだよ」

「どうして?」

「……武藤」

「へっ?」


いきなり呼ばれて、油断していた俺は、変な声を出してしまった。


「そうは言ってもね。家族に対する、好きっていう言葉と……。異性に対する、好きっていう言葉は……。同じ文字なのに、全然意味が違うの」

「お、おう……」

「だから、絶対後悔したくないって、思ってた私も……。好きな人に、気持ちを伝えるまで、随分時間がかかっちゃった」

「……何の話だ?」


今日の九条は、なんだかおかしい。

いつもより、頬が赤い気がするし……。


「直美。良いの? 私、言っちゃうよ?」

「……勝手にしてよ」

「わかった。途中で失神させないでね?」


それに答えるかのように。

犀川が、九条から距離を取った。


そして、九条がこちらに近づいてくる。


「武藤」

「どうした? 九条、さっきから、何言って――」

「好きです」

「……は?」

「一年前から、ずっと武藤のこと、好きです。結婚を前提に、私と付き合ってください」

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