現実は厳しい
「……」
「だから言っただろ?」
マスターは即答。
羽が不衛生。
……そりゃそうだよな。
歩いてるだけでも、相当羽が抜けてるし。
料理に混入でもしたら、お終いだ。
それに、小回りも効かないから、混雑時は仕事の妨げになる。
なんていう、真面目なアドバイスまでくれた。
マスター、良い人だったな……。
「わからずやでした」
「いやいや。すごく親切な人だっただろ」
笹倉が、ため息をついた。
「だって、天使ですよ? カランコロンカラン。いらっしゃいませ~! で、天使が出迎えてくれたら、とっても嬉しくないですか?」
「なんだろう……。そういう需要ってさ、コスプレ喫茶とかが、もう満たしてくれてるんじゃないかな」
「コスプレ喫茶……。コスプレに負けるんですか? 柚、モノホン天使なのに……」
笹倉が、がっくりと肩を落とした。
……羽も、しょぼんと垂れている。
面白いな。感情と連動してるのか……。
「……今回は、たまたまだったのかもしれません」
「え?」
「他の喫茶店も、行ってみましょうよ!」
「あ、おい!」
笹倉が、走りだしてしまった。
どこに行ったって……。同じことなのに。
☆ ☆ ☆
「うえええぇえん!!!」
笹倉が……。
俺の胸に、顔を埋めて、泣いている。
ひんやりとした感触が、徐々に制服に染み出してきた。
「笹倉……。泣かなくてもいいだろ?」
「だって、だってぇ! みんな冷たいんですもん!」
俺の胸の方が、今よっぽど、物理的に冷たいけどな。
まぁ、それは置いといて。
あのあと、三軒ほど喫茶店を巡り、同じように、働かせてもらえるかどうか、尋ねていった笹倉だが……。
当然、ことごとく断られ。
中には、そこそこ強めの言葉で、拒否された店もあった。
笹倉のメンタルは、どうやらボロボロらしい。
「そもそも笹倉。昭和じゃないんだから、いきなり店に行って、雇ってくださいは、おかしいだろ?」
「だって、直接羽を見せたほうが、いいかなぁって思って」
「……わかっただろ? その羽は、確かに見栄えはいいけど。そのままにしておいたら、生活に支障が出るものなんだって」
「うぅ……」
三軒も喫茶店を回ったせいで、すっかり昼になっていた。
「笹倉。なんか食べるか? あそこのコンビニで、何か買ってくるけど」
「……チョコクロワッサンで」
「わかったよ」
コンビニに行き、チョコクロワッサンと、自分が食べる焼きそばパンを購入。
「ほらよ」
「ありがとうございます……」
元気無く、チョコクロワッサンを齧る笹倉。
「先輩。あの……。ちょっとだけ、柚の話、聞いてくれますか?」
「あぁ、良いけど」
「……柚が、まだ、あんまり元気じゃなかった時の話です」
笹倉は、静かに語り始めた。
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