笹倉柚、天使になる。
笹倉柚は天使です
淡い金色に染められた髪は、緩くウェーブがかかっている。
背はやや低め。
そして……。
背中には、大きな羽が生えている。
「え……? みなさん、生きてますか? 大丈夫ですか? 笹倉柚で~す」
元気良く、両手を振っている。
「……入って下さい」
「あっ、は~い。失礼しまっ」
ガンっ。
と、低い音を立てて。
笹倉の羽根が、ドアにつっかえた。
「……あ、あはは。面白いですか?」
「超面白い! あはははは!!!」
モモ先輩は、腹を抱えて笑っている。
確かにモモ先輩、魔物症候群の患者には馴れてるだろうけど……。
そこまで笑うこと、ないだろうに。
「ですよね! あっはっはははは!!」
笹倉が、明るい性格で良かった。
「およ?」
ひとしきり、笑い終えたところ。
突然、笹倉の羽が消えた。
「こんな感じなんですよ~。朝からずっと。羽が生えたり、消えたりするんです」
文月先生と、モモ先輩が、顔を見合わせた。
そして、文月先生が、一言。
「それ、すぐに治りますよ」
「えぇ!? 本当ですか!?」
大きな声を出した瞬間。
再び、羽が生えてきた。
……せめて、引っ込んでる間に、部室に入っておくべきだったな。
「いや……。ここをこうして……」
どうやら、羽はある程度、自分の意思で動かせるらしい。
まるで、自分の体を、羽で覆い隠すように丸め、何とか部室に入ることができた。
「笹倉柚ちゃん……。じゃあ、柚っちって呼んでいい?」
「はいっ! もちろんです!」
「やった~! 私は百瀬帆慕里! モモ先輩って呼んで!」
「モモ先輩! よろしくお願いします!」
笹倉が、元気良く号令した。
「私は文月路愛です。主に三年生と二年生の授業を担当しているので、笹倉さんと会うのは初めてですね」
「そうですね! 路愛って……。可愛い名前!」
「そ、そんなことは無いと思いますが」
文月先生が、少し頬を赤く染めている。
……あのクールな文月先生を、照れさせるとは。
なかなかだな。笹倉柚。
「俺は武藤歩夢。よろしくな」
「よろしくお願いします!」
「それと……。今日はいないんだが、もう一人、犀川直美っていう、堅物な女子生徒がいてな……」
「カタブツ? 大仏みたいな感じですか?」
……なるほど。
あんまり、余計なことは言わないでおこう。
「犀川ちゃんはね。歩夢の彼女なんだよ?」
「えぇ!? 彼女さん!?」
「ち、ちがっ。モモ先輩! 適当言わないでくださいよ!」
笹倉が、キラキラした目で、俺を見つめてくる。
「先輩……。彼女さんとは、どこまでいってるんですか!?」
「だから、彼女じゃないし……。そうだったとしても、そんな質問は、するべきじゃないと思うぞ!」
「えぇ~? つまんないなぁ~」
こいつ……。意外と小悪魔なのか?
思ったよりも、厄介かもしれない。
「さて……。笹倉さん。さっき言ったように、あなたの症状は、おそらく薬で抑えることができます。完治も早いでしょう。魔物症候群の中では、軽度の部類に入りますから」
「魔物症候群?」
「それに関しての説明は後です。では早速、病院に――」
「ちょっと待ってください」
笹倉が、文月先生の話を止めた。
「どうしました?」
「柚、別にこのままでも良いんですけど……」
「「「え?」」」
三人同時に、「え?」が出てしまった。
このままでも良いって、どういうことだよ……。
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