モテる男子と、モテない男子

「……ありがとうございます。モモ先輩」

「へへん。頼れる先輩って感じでしょ?」

「もう、まさにその通りですよ」


犀川が風呂に入っている間、俺はモモ先輩に、感謝の気持ちを伝えていた。


「関係を深める場と、シチュエーションを用意する……。これぞまさに、先輩だよね」

「はい。間違いないです」

「もっと、もっと褒めて良いよ?」

「先輩最高。先輩天才」

「もっともっと!」

「先輩は世界一!」

「もっと!」

「先輩! 愛してます!」

「え?」

「あっ」


しまった……。


勢い余って、変なセリフを口走ったぞ。

なんか、告白したみたいになってる。


「……えっと、その」


モモ先輩が、頬を赤くして、視線を落とした。


「い、いや違うんです。その……」

「わかってるよ~。でも、勘違いしちゃう女の子もいるから、そういうのはやめるように! いい?」

「すいません……」


明るく受け流してくれて、よかった……。


「で、歩夢。さっき、犀川ちゃんと、何があったの?」

「あぁ。それがですね……。……告白しようとしたんですけど、雰囲気を察したのか、直前で止められてしまって」

「そういうことか……。ふふっ」

「なんで笑うんですか……」

「いや、色々めんどくさいなぁ~ってさ」


先輩が笑った。


「俺もそう思いますよ……。フラれたら、それはそれで、ちゃんと前向いていけるのに」

「怖いんでしょ? もし自分が、歩夢をフッたら、もう助けてくれないんじゃないかって」

「そんなこと、絶対無いのにな……」

「絶対とは言い切れないじゃん? もしかしたら、歩夢に告白してくる女子とか現れてさ……。それがもし、犀川ちゃんにフラれたばっかだったら、傷心気味で、オッケーされるかもしれないし」

「俺に告白してくる女子なんて、いるわけないじゃないですか」

「どうかな~。髪の毛も整えたし、意外とわかんないよ?」


よく言うよ……。

モモ先輩、めちゃくちゃ酷評だったくせに。


「あのね歩夢。モテる男子と、モテない男子。何が違うと思う?」

「そんなの、顔でしょ」

「うわ~ゼロ点。モテない男子ってさ、すぐ顔を言い訳にするよね」

「だって、事実じゃないですか」

「それだったら、歩夢は顔が良い部類に入るから、矛盾することになるよ?」

「……またそうやって、からかう」

「からかってないけどなぁ~」


せめて、ニヤニヤしながら言うのは、やめてほしい。


「顔は確かに、評価の大きな基準ではあるよ。でもね、もっと他に、雰囲気とか、喋り方とか……。総合点だから。結局」

「だったらなおさらキツイじゃないですか。総合点、低いですよ? 俺」

「そこを跳ね返すのが……。自信っていうバロメーターなんだよ」

「自信?」

「そう! 自分に自信があるかどうか……。それが、モテるモテないの、大きな違いなの!」


……なんか、怪しいセミナーみたいになってるけど?


そんな風に会話していたら、犀川が戻ってきた。

風呂上がりの犀川……。


濡れた髪。

ほのかに香る、シャンプーの匂い。


あぁいかんいかん。煩悩が……。


「ほら武藤くん。早く風呂入ってよ。私もう寝るから」

「気が早すぎるだろ……」


そう言いながらも。

どこか緊張している、自分がいた。


自分に自信を持て、か……。

一応、心には留めておこう。

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