第351話 二人の少年

リョウが止まっている宿にもサッカー部が潰れたと噂が入ってくる。

「あら~もしかして俺のせい?」

「リョウくん、またやりすぎたの?」

「うーん、そのつもりはないんだけどなぁ。」

「リョウ聞いたよ、サッカー部を廃部にしたんだって?」

アズサが笑いながらやってくる。

「人聞きの悪い事を言うなぁ~!」

「だって噂になってたよ。」

「俺は何もしてないよ、ただ少年にサッカーを教えていただけ。」

「それで、なんで潰れるのかな?」

「俺にもさっぱり。」

俺は困惑してはいたがこんなこともあるのだろうと流していた。


のんびりしていると来客があった、

ヒカルとユウキだった。


「二人ともどうしたの?」

「「あの、相談があってきました!」」

二人の声がかぶる。


「二人とも落ち着いて、じゃあ、ヒカルくんから聞くよ。」

「あの、僕の足を治す方法あるんですか?昨日、病院に行っても治るかわからないと言われました・・・」

「あー、俺がやれるのは針と灸だよ、それで自己回復力を上げて治す方法、手術と違って時間もかかるし、絶対に治るとは言えない。

一番な問題は俺が治療の資格を持ってないんだ。だから、自分にしたり、こっそりやったりするぶんにはいいんだけど。

君みたいな子供だと親御さんの許可もいるし、俺も近々東京に帰るからね、治療を受けるなら一度親と一緒に来てくれる?」


「親は近くまで来ているんです、会ってもらえますか?」

「来てるなら話が早いね、呼んでくれていいよ。」

「はい。」


「じゃあ、ヒカルくんの話は親が来てからと言うことで、ユウキくんはどうしたの?」

「あの!僕にサッカーの指導をお願いします。」

「さっきも言ったけど、俺は東京に帰るからね、もし指導を受けるなら東京に来てもらうけどいいの?」

「勿論です!いつでも行けるよう親も説得しました。」

「じゃあ、ユウキくんも親御さんを一度連れてきて、実際に話してみないとね。」

「はい、僕の親も近くにいるんですが呼んでいいですか?」

「君もかい!いいよ。呼んでくれるかな?」

ユウキも親に電話をして呼んでいた。


最初に来たのはヒカルの親だった。

「はじめまして、ヒカルの父のハクと申します。」

「はじめまして、リョウです。ヒカルくんの治療ということでお越しになられたと聞いてますが?」

「ええ、しかし、医師免許の無い方だと聞いて不安で・・・」

「わかります。ですので俺の方から治してやるなんて事は言えません。

あくまでもプライベートでやるだけですから。」


「それで治るのか?」

「絶対とは言えません。ですので出来るなら病院での治療を進め指してもらいます。」

「しかし、病院だとむずかしいと言われまして、手術をすれば後遺症が残ると言われました。」


「そうですか、では、俺のやる治療を親として認めると?」

「お願いします、息子を治してください。」

「わかりました、ただ、私は近々東京に帰るのですが、ヒカルくんも東京に行くということでいいですか?」

「はい、東京のどのあたりでしょう?家を借りないと。」

「家は大丈夫ですよ、部屋は余っていると思いますので、」

俺はアズサを見る。

「大丈夫ですよ、主人のお客様に不自由をかけたりしませんから。もし、一緒がお嫌なら源グループで家を用意いたします。」

「というそうです。」

ハクはアズサを見て慌てて頭を下げた。

「あっ、これはアズサさん、失礼な質問をしてしまいました。となると、この方が若様ですか。」

「そうですよ。信じてもらえますか?」

「はい、若様、息子を宜しくお願いします。例えどうなっても恨んだりは致しません。」

「どうにかしたりはしないよ、今より悪くなることは絶対にないから。ヒカルくんもそれでいいかな?」

「はい、宜しくお願いします。」

「じゃあ、決まりだね。アズサ、彼等に住所教えてあげて、俺はユウキくんと話をしているよ。」

「わかりました、ではこちらで。」

アズサは2人を連れて話を始めた。


「さて、ユウキくんとそのお父さんかな?」

俺はユウキくんと一緒にいる人に向き直す。

「はい、僕の父、コウキを連れてきました。」


ユウキの父コウキは不機嫌そうにこっちを見ている。

「はぁ、コウキさん、納得出来ていないんですね。それなら俺が何かすることはないですよ。」

「当たり前だ、大事な息子を訳のわからん奴に預けられるか!」


「ええ、ですから俺は別に来てくれとか言いませんよ。あくまで彼の才能が惜しいと思ったから提案しただけですから。」

「なっ!お前は息子をいらないと言うのか!」

何故かコウキは怒りだす。


「どっちなんですか?」

「俺はな、お前が頭を下げて息子を預からせてくれと頼み込むなら考えてやってもいいと思っているんだ!それなのにお前は!」


「はぁ、何故頭を下げる必要があるんですか?別に預けたくないならそれで構いませんよ、コーチ業務なんて元々やってないんですから。」

「お父さん!リョウさんに何て事を言っているんだ!昨日わかってくれたじゃないか!」


「それは母さんとかに押されてだな・・・だが金持ちの道楽にお前を預けるなんて出来る訳がない!」

「僕はそれでもいいんだ、リョウさんについて行ったら絶対に上手くなれる、それこそプロにもなれるかも知れないんだ!」


「お前にプロなんて無理だ、どうせ高い月謝をとって名ばかりのプロになって終わりだよ。」


「父さん!」


「あーユウキくん、説得出来てないなら、また後日説得してから来て、あと月謝はいらないし、絶対にプロになれるとは言わないよ。何処かのプロチームにコネがあるわけではないし・・・あっ、でもドイツにはあるかな?」


「すいません、絶対に父さんを説得しますから!1日、1日だけでいいんです。待ってください。」

「そんなに慌てなくてもいいよ、別に東京にいる俺を訪ねて来てくれてもいいから。」


「ホントにすいません、父さん!一回帰るよ!」

「なんだ、もう一回くるなんて俺は嫌だぞ!」


「もう!恥ずかしいから一度帰るよ!これ以上リョウさんの印象を悪くしないでよ!」

ユウキは父コウキを引き摺るように帰って行った。


ヒカルの方は話がまとまったようで俺はアズサの所に行く。

「アズサ、ありがとう。

さて、ハクさん、治療を見てないと不安にもなるでしょう、ヒカルくんが良ければ今から一度やりますけど、どうですか?」

「えっ、今から出来るんですか?」

「これで治る訳ではないですが、少しは・・・一回目ですから効果は高いと思いますよ。」

「それは私も見ていいんですか?」

ハクが聞いてくる。

「いいですよ、正し、かなり繊細な作業ですので俺に絶対に触れないように、あと一回目は結構痛いのでヒカルくんも我慢宜しく。」

「うーちょっと怖いかも。でも、お願いします。」

ヒカルくんは少し顔がひきつっていた。

「ヒカルが覚悟を決めているんだ、親の私も覚悟を決めるよ。」

「じゃあ、アズサ、2人をベッドのある部屋に案内してもらえる?俺は道具をとって来るよ。」

「わかりました、二人とも此方に。」

二人はアズサに連れられ別室に向かう。

俺は自分の荷物から治療用針セットを持って、後を追った。

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