第350話 少年達

指導を受けた翌日、少年達は・・・

「タツヒコ、お前お灸したのか?」

「ああシンジ、リョウさんのいうとおりしたよ。」

「効果は?」

「身体が軽い気はするけど、それぐらいか?」

「まあ、1日じゃわからないって言ってたしな。」


「それより、ヒカルは?」

「病院だってさ、まあ、あそこまで言われたら怖いだろ?」

「まあな、それより今日からの部活色々試さないとな。」

「お前は良いよな、リョウさんに世界を目指せるって言われてさ。」

「ふっ、俺の才能に嫉妬するなよ。」

「てめぇ!」

「それよりシンジはパスの出し手を探さないとな、今のチームのトップ下は、なぁ・・・」

「ああ、期待出来ないなぁ。どちらかと言うと昨日パスの指導受けたユウキの方が使えそうだ。」

「そういえば、受けてたな。何言われてたかまでは聞こえなかったが。」

「ちょっと、話を聞いてこようぜ!」


二人はユウキに会いに行った。

「おーい、ユウキ。」

「何?シンジ、タツヒコ。」

「お前リョウさんに何言われたの?」

「僕?たいしたことは言われてないよ。」

顔を赤くして恥ずかしそうにする。

「おいおい、何だよその態度、何で恥ずかしそうにしてるんだよ、さては何か言われたな白状しろ~!」

二人で追及してついに白状する。

「僕が言われたのは、何処かプロ目指すなら紹介するって言われたんだよ。」

「えっ?現状で?」

「うん、それと今プロにならなくても、上手くなりたいならいつでもリョウさんの所に来てもいいって。」

「何それ!羨ましい!」

「待てよ、じゃあ何か?ユウキはプロにすぐなれて、タツヒコは世界を目指せるのに、俺だけ何もないの!」

タツヒコはシンジの肩を叩き

「シンジ、現実は厳しいんだよ。」

「やかましい!」

「そうだよ、シンジくんだって、動きがいいって言われてたよね。」

「あっ、そうだ、それだよ。ユウキに俺のパスの出し手になってもらおうと思って。」

「パスの出し手?トップ下はショウくんだよね。」

「あーアイツはなぁ、監督の息子だからのポジションだろ?何とか下ろせないかな?」

「む、無理じゃないかな?何でかレギュラーから外れないし。」

「まあ、練習の時は出してくれるか?」

「うん、それならいいよ。」

「いつまでいるかはわからないけどな。」

「タツヒコ、いらない事を言うなよ!」


その日の練習、

リョウの指導を受けた子の動きは違っていた。各自、目的を持ち練習に取り組み、互いに意見を出し、連携を深めていく。

そんな中、監督とトップ下のショウは無視されており機嫌が悪くなっていく。

「なんだお前達!勝手な事ばかりしやがって!誰がそんな練習をしろと言った!俺の指示に従わんか!さっさと外周を走ってこい!」

「体力強化は後でしますが、今は技術と連携を上げる練習をしているのです。邪魔しないでください。」

キャプテンのヨシカツは監督に反論する。

「誰がそんな練習を教えた!お前らは俺に従っていればいいんだ!」

「ドイツ代表のリョウさんに教わりました。俺達は上手くなりたいんです。邪魔しないでください!」

「なっ!嘘を言うな!ドイツ代表がなんで日本の田舎にいるんだ!」

「元々日本人ですし、湯治に来ているようですよ。俺達はたまたま指導していただき、練習方法まで教えていただきました。教師でサッカー経験のない監督よりは何倍も適切な練習になってると思いますよ。」

「なっ!生意気な事をいうな!俺は充分サッカーを知っているんだ!パッと出のドイツ代表なんぞ、才能だけの奴じゃないか、そんな奴が指導なんて出来る筈が・・・」


「監督、ヒカルの保護者から電話きてますよ。」

「なに、すぐにいく!」

ヒカルの保護者は地元の名士であり資産家であった。

その為監督は日々媚びる為にもヒカルには直接指導を多くしていた。それが適切なら良かったのだが・・・


「はい、監督の田町です。」

「ヒカルの父だが、あなたはどんな指導をしているのだ!」

「どんなと申されましても・・・」

「あなたの指導のせいでヒカルの足は疲労骨折、靭帯損傷の一歩手前まできてたぞ!」

「えっ!それは本当ですか?」

「嘘を言ってどうする!病院で見てもらったら手術しても治るかどうかはわからないそうだ!」

「それは・・・しかし、疲労骨折など見た目では・・・」

「リョウさんは見た目で気付いたらしい、しかも、彼は2時間ぐらいで指摘してくれたよ、さすが、ドイツ代表になれる人は違うな。」

「ドイツ代表の方と比べられても・・・ 」

「とにかく、この事は問題にさしてもらう、あと、ヒカルはチームを辞める、サッカー出来るチームは他にもあるんだ、わかったかね!」

「そんな。じゃあ補助金は・・・」

「二度と払うか!」

最後の一言が更にヒカルの父を切れさした。

監督が頭を抱えている中、


「えっ、お前らリョウに指導受けたの?ズルくない?なんでオレを呼ばないの?」

「呼ぶも何もリョウさんがたまたま来ただけだから。」

「でも、来たら普通呼ぶでしょ!あっ、そうだ、今日、ここに呼べよ、俺の実力見せてやる。そしたら俺は海外のサクセスストーリーを歩み始めるんだ。」

「そんなこと出来ないよ、そもそも、何って呼ぶの?俺達は昨日たまたま教えてもらえただけだぞ。」

「リョウさん、親切だったよね。」

「やっぱり出来る人は違うね。」

リョウの指導を受けた子達は口々にリョウを褒める。

「あーだから、俺のプレーを見せれば、リョウも頭を下げて教えさしてくれって言うに決まってるよ!」

「それはないな。」

「何だと!俺のプレーが悪いというのか!」

「次元が違うよ、リョウさんの見てるものは俺達と違う。まあ、俺達もそうとしか感じなかったけど、タツヒコなんかは世界を目指せるとか言われてたぞ。」

「キャプテン、恥ずかしいから言わないでくださいよ、それに俺より上がいますよ。」

「本当か?」

「ユウキなんてプロ目指すなら紹介してくるって言われたそうですよ。」

「タツヒコ!何で言うのさ!」

「マジか~ユウキはどうするんだ?」

「僕は1度リョウさんの所に行きたいと思ってるんだ、親の説得は難しいけど、リョウさんの指導を受けたら代表も夢じゃ無いかも。」

「間違ってドイツ代表になるなよ。」

「えっ、なにそれ?」

「リョウさんが連れてた子供に聞いたけど、試合見に行ったら試合に出てたらしい。」

「えー、なにそれ、親善試合の時だよね。どんな裏話なの?」

指導を受けた子達は雑談に盛り上がる。

「だぁー!オレを置いて喋るな!ユウキ、リョウの所に行くならオレを紹介しろよ!」

「やだよ。」

「何だと!」

「リョウさんは優しいけど、ボクなんかはたまたま気に止めてくれただけだよ。誰かを紹介するほど親しくないんだ、実際訪ねても相手にしてくれるかわからないぐらいだけど・・・それでも、ボクは行くつもりなんだ、だから他の誰かの事を気にしてる場合でもないんだよね。」

「ユウキの癖に生意気な!」

ショウは殴りかかろうとするが、シンジに止められる。

「シンジ、邪魔するなよ!」

「お前こそ、なに殴ろうとしてんだ。」

「うるさい!俺に逆らう奴が悪いに決まってるだろ!」

「はぁ、おいみんなこんなチームこっちから辞めてやろうぜ。新しく作ろう。」

「それいいな。」

「よし、退部だ!」

指導を受けた者だけでなくほとんどの部員が退部をする。

学校ではいきなりサッカー部が潰れて、新しいサッカーチームになった事に驚き、ヒカルの父からのクレームで監督の横暴も明らかとなった為に監督の解任、教師としては転任させることで事態の収束をはかった。

そして、狭い田舎町ではその噂で持ちきりとなり田町親子の居場所は無くなった。。


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