第316話 兄貴の面接

「あー疲れた。まさか、ムギの面接があんなに疲れるとは。」

「リョウはなんだかんだ言っても優しいね。」

「まあ、同郷だからな。さて、次はメインディッシュの兄貴だ。」

「優しくしてあげてよ。私は印象良くしたいし。」

「ククク、からかってやる。」

他の面接官も苦笑いしていた。


そして、兄貴が入ってくる。

俺はあえて目立たない端の席に移動して様子を見る。

兄貴は緊張の為か俺に気付いていない。


「貴方の志望理由をお聞かせ願いますか?」

「御社に入り、自分の力を充分に発揮させたく参りました。」

「それはいったいどのような事ができると?」

「自分で言うのもなんですが事務処理能力に自信があります。」

面接官が定型文を聞いてる中、俺も質問を混ぜる。ちょっと声色を変えて・・・

「君は縁故雇用をどう考えるかね?」

「えっ、自分がその身なので答えずらいですが・・・その人の持つ物として考えるなら学歴なんかと同じかと。」

堅苦しい答えをする兄貴に今度はアズサが。

「貴方は弟さんの縁故と言うことですが、弟のお嫁さんには何を求めますか?」

「家庭の事ですので答えるかは微妙な所ですが、自分は弟の嫁には弟を包み込むような方になってほしいと思います。」

「それはどういった思いから?」

「残念ながら、我が家では家族の愛はなかっく、随分寂しい思いで育ってしまったと。ですから、弟には弟を想ってくれる方と結ばれてほしいと考えております。」

アズサは返答に嬉しそうにしていた。

俺は照れくさくなりながら。

「先程、家族愛はないと言いながら、弟さんの推薦でここに来ておられるが、その事はどう考えてますか?」

「私自身はそこまで仲が悪いとは考えておりません。それに弟は口では悪態をついても基本的に優しいので家族が頼めば推薦ぐらいはしてくれると思っております。」

俺は更に恥ずかしくなった。

「それでは、弟さんの好きな事を教えてください。」

俺が言葉に詰まったところでアズサが質問する。

「弟の好きな事ですか?興味が出た事が好きな事だと思います。現在何に嵌まってるかは知りませんが。あと、好きな食べ物はアップルパイですね。初恋のお姉さんに食べさせてもらったのが忘れられないとか・・・」

「兄貴!何言ってんだよ!」

「あれ?リョウ?なんでここに?」

「まあまあ、リョウ、落ち着いて。それでお義兄さま、リョウの初恋の相手とはどなたなんですか?」

「お義兄さま?」

「失礼しました。お初に御目にかかります。リョウさんの妻の源アズサです。弟の嫁として、末長くお付き合いお願いします。」

「これはこれはご丁寧に、桐谷ジュンと言います・・・って嫁?」

「アズちゃん、何言ってるの!それより、兄貴、いらんことは言わなくていいから!」

「まあまあ、さあ、お義兄さま、面接の続きを、リョウの初恋の御相手は?」

「アズちゃん!それ面接関係ないから!兄貴も答えるなよ!」

兄貴は立ち上がり、俺のコメカミをグリグリする。

「いたい、いたい!」

「リョウ、お前はイタズラ癖が治ってないのか!緊張する俺を見て楽しんでたな!」

「ギブギブ!兄貴ストップ!」

ひとしきり、グリグリされたあと。

「兄貴痛いよ。」

「自業自得だ!それよりなんで其処にいるんだ?」

「俺、実は源グループの東海地区長と長野支部長なんだ。肩書きだけで働いた記憶はないけど。」

「なに?」

「お義兄さま、呼び方でもわかる通り、リョウは源家の婿にございます。東海地区長は足掛けでゆくゆくは源家の後継者となります。既に全国規模の指揮権がリョウにあります。」

「そこまでの指揮権はないよ?」

「先日の集会を忘れたのですか?彼等は各地区の纏め役の方々ですよ。」

「・・・兄貴、俺、知らないうちに権力者だ。」

「なんとなくわかったよ、お前は何も考えてなかったんだな?」

「もちろん!」

「威張るな!前から言ってるだろ!ちゃんと考えて行動しろと。」

「漢は出たとこ勝負!」

「それが駄目だと言ってるんだよ!爺さんみたいになりたいのか!」

「・・・兄貴、俺がわるかったよ。」

「わかればいいんだ、それより俺の合否はどうなるんだ?」

「お義兄さまはどの場所のどの部署につきたいですか?」

「えっ?」

「リョウのお義兄さまですよ、最大限に考慮しますよ。」

「ま、まさか、最初から?」

「はい、面接の必要は無かったんですが、リョウがやってみたいと。」

「アズちゃん言っちゃダメだよ。」

「リョウ・・・そこからか?」

「ストップ!待った!これには理由が・・・」

「理由が・・・?」

「ない!」

再度グリグリが再開される。

「いたい、いたい!」

「お前は少しは考えろ!」

「まあまあ、お義兄さま。リョウの口利きで入社出来ますし、それぐらいで。」

「アズサさんが言うなら、やめますが、リョウ、変なイタズラを二度とするなよ!」

「もちろん・・・」

「もちろん?」

「する。」

「リョウ!」

アズサに止められ、兄貴は下がってくれた。

「うー痛いよ。」

「少しは反省しろ。」

「いたいけど、それで兄貴何処がいい?」

「本当に選べるのか?」

「まあ、選べそう?」

周りに確認するがみんな頷いてくれてる。

「じゃあ、出来たら東京で事務関係につきたいかな。」

「じゃあ、其処で頼めるかな?」

「うん、じゃあ。決定だね。手続きはこの後やってくれるらしいから、説明は其処で受けてね。」

「準備はちゃんとしてくれてたんだな。」

「それはね、イタズラは止めなかったけど、入れるようにはしたよ。」

「感謝すべきか、イタズラを責めるべきか迷うところだな。」

「感謝しなさい!」

「素直に感謝されるようにしてくれよ。」

「それなら、む~り~」

「努力しろ!」

「あの~それでお義兄さま、リョウの初恋の相手とは?」

「アズちゃん!何を聞いてるの!」

「だって、気になるじゃないですか?」

「昔の事だし、今更ね。」

「じゃあ、教えてくれても。」

「恥ずかしいから、イヤ。」

「そうだな、リョウの初恋の相手は、」

「兄貴何を言ってるの!」

「イタズラするお前にはいい薬だ。といってもたいした事がないが、近所のお姉さんで金子アイナっていう方なんです。」

「へぇー、もっと詳しくお願いします。」

「子供の頃飼ってた犬がいたんだけど。」

「ポチさんですか?」

「そう、リョウの保護者だったんだけど、その親犬と兄弟犬を飼ってた家の人で今は30歳だったかな?リョウとポチは親犬と兄弟犬の所に行くついでにお姉さんに甘えていたんだよ。」

「兄貴止めて!」

「それでアイナさんに可愛がってもらってて、必死でラブレター書いたんだよね。」

「止めて、お願い。俺のライフはゼロだよ。」

「まあ、当時中学生だったアイナさんに6歳のリョウが相手にされる訳がなくて、断られたけど、それでも可愛がってもらってて、アイナさんが大学で引っ越すまで通ってたよね。ポチが死んだ時も慰めてもらってて・・・」

「兄貴、やめて!お願い。恥ずかしすぎる。」

「アップルパイが好きなのもアイナさんに作ってもらってた影響だよな?」

「・・・なんのことかな?ぼくにはわからない。」

「その方は今は?」

「自分は知らないけど、リョウは?」

「・・・来月に結婚予定だよ。」

「連絡とってたのか?」

「そりゃね、初恋どうとかは置いておいても随分世話になった人だから、結婚相手も調査したよ。」

「お前何してるの?」

「ちゃんと、ダイキとカズヒコに報酬払って調べてもらったよ。裏も表も問題ない人だった。」

「へぇ、アイナさんの相手かどんな人?」

「えーと、あまり調べてないけど、加藤シロウ、32歳、国立大卒、源グループ熊本支部所属役職は職長、海外支部経験あり、給料は手取で月40万、貯金は調査当時1526万、業務態度は良好、帰宅時間は平均20時、通勤時間を考慮すると、ほとんど寄り道はしない。株やギャンブルはしていない堅実な経済事情。友人は少ないみたいですが、性格は温厚、暴力的な要素は無し、格闘技の経験も無し。女性経験はアイナさんのみ、30歳まで童貞、家族構成は祖父と親2人は死別、祖母と妹が同居してるみたいですが、2人とも温厚な性格で家庭内暴力の怖れ無し、家族、本人ともに近所の評判も良し。」

「待て待て、調べすぎだろ!」

「えっ?」

「リョウ、私もどうかと思うよ?」

アズサもひいていた。

「だって、アイナさんの相手だよ?アイナさんが不幸にならないか調べないと!」

「なぁ、リョウ、もし不幸になりそうな相手だったらどうした?」

兄貴が怯えながら聞いてくる。

「へっ?そんな相手ならどっかにいなくなるんじゃね?」

俺はニヤリと笑う。

「消すな!お前は常識がないのか!」

「冗談だよ。」

「お前が言うと冗談に聞こえない。」

「8割本気だし。」

「ほぼヤル気じゃねえか。」

「まあまあ、いい相手みたいだし、反対はしてないよ。」

「それなら・・・いいのか?」

「うん、結婚式にも行く予定だしね。」

「招待状きたの?」

「もちろん。アイナさんの親族席に座る予定。」

「うちには来てなかったぞ?」

「そりゃ、関わり少ないから。俺は向こうで子供の頃から世話になったし、知ってる?誕生会とかもずっと祝ってくれてたんだよ。叔父さん、叔母さんにも頭が上がらないよ。」

「・・・それは、すまないと思うよ。」

「まあ、うちの家は変だからねぇ~」

「若、そろそろ、次の面接が・・・」

「あっ、ゴメン。兄貴は別室で説明受けておいて。」

「わかった。」

そして、石戸の面接にうつる。

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