第264話 宿の夕食

「リョウさん、夕食の画を撮りますので広間に来てもらえますか?」

「わかりました。」

三人で広間に向かうと既にヨシトは来て席に座っていた。

「ミウちゃん、こっちこっち。」

ミウを隣に呼ぶが・・・

「山本さん、席を対面にしてもらえませんか?」

「三人とも?」

「はい、リョウくんを中央で私とリナちゃんで挟む形で。」

「ちょっと、その席の配置はおかしいでしょ?俺の横に座りなよ。」

「いやです。」

「じゃあ、リナちゃんは?」

「いや!」

「俺が座ろうか?」

「「ダメ!」」

「うーん、仕方ない三人を並びで座ってもらうけど、机が狭いかな?」

「変えてもらったら?」

「こんな格式のある宿はあまりテレビの言うことを聞いてくれなくてね。」

「そうかな?仲居さん、ちょっといい?」

「はい、若様何か御用でございましょうか?」

「この机を三人が横並びに出来る大きさに変えてもらえないかな?」

「かしこまりました。直ちに変更致します。」

仲居さんは走っていった。

「何とかなりそうですよ。」

「・・・まさか、すぐに対応してくれるとは。」

机が運び込まれ、交換される。

そして、食事が持ってこられたが、明らかにヨシトの機嫌が悪く、しまいには食事にまで文句をつけていた。

「あーやっぱり田舎ですね、食事に華やかさが足りない!」

「そんなことないですよね?それに美味しいですし。」

「いや、俺みたいなグルメには、この味はねぇ。どれも田舎臭いし。」

「あの~何か問題が?」

「あーこんなのを客に出せる神経を疑うよ。」

「そんな!」

「いや、大丈夫だよ、凄く美味しいから。料理人にありがとうと伝えてもらえる?」

「はい。」

「そこの人は味もわからないみたいだから気にしないでいいよ。」

「わかりました。」

「ごめんね。」

「いえ、若様が謝る事は何もございません。」

仲居さんは下がっていく。


そして、俺、ヨシト、山本の三人で話し合いをする。

「さて、番組だから多少は我慢してたけど、お前なんなの?食事に文句までつけて。」

「なんだと、素人がでしゃばるんじゃねぇよ!」

「だいたい、ミウに冷たくされたからって、不貞腐れてるじゃねぇよ、お前の番組なんだろ!」

「俺みたいな売れっ子はな、こんな地方に来る旅番組なんてどーでもいいんだよ、ただマネージャーが最初に来た大きな仕事だからって、引き受けてるだけなんだからな。」

「ヨシトくん!そんな事を思っていたのか!」

「山本さん、怒っちゃった?なんなら止めてもいいよ、ギャラも安いし、拘束時間長いしで、あんまし魅力ないんだよね~」

山本は怒りに震えている。

「でも、俺がいないと、この番組成り立たないからね。俺の人気で持ってるだけでしょ?」

ヨシトが高笑いする。

山本さんは悔しそうに歯噛みしている。

そして、ヨシトのあまりの態度に俺も怒りが込み上げる。

「山本さん、コイツじゃなきゃダメな理由ある?」

「リョウくん?そりゃヨシトは売れているから・・・彼がいるかどうかで視聴率が変わってくるし。」

「それじゃ、同じぐらい人気の誰かを代役立てたら、コイツ降板でいい?」

「代役って?そりゃ同じぐらいの人気があれば・・・でも、なかなかいないんじゃ?」

「ちょっと、待ってね。」

俺はヒトミに連絡する。

『ヒトミ元気か?』

『リョウ、どうしたの連絡来るなんて?』

『ちと頼み事があってな?』

『なに?出来ることなら何でもするよ、子供でもつくる?』

『作らん!何番組の案内人を1つやって欲しいんだ。』

『リョウなに?プロデューサーでも始めたの?』

『違うんだ、実は・・・』

事情を説明する。

『ふーん、なるほど。それで私に頼みにきたと。』

『お前なら人気あるようだし、ヨシトとかいうのより上手くやるだろ?』

『まあ、リョウの頼みだし引き受けてあげる、でも、海外ロケとかの時は無理だよ。』

『そこらは話しておくよ。じゃあ、頼めるね。ちなみに予算は少ないぞ。』

『はいはい、友達価格でいいよ。ただし、貸し1だからね。』

『あーい、困った時に連絡くれ。』

『じゃあ、私は仕事に戻るね。』

『忙しいとこ悪かったな。』

『ううん、またいつでも連絡してね♡』


「山本さん、桐谷ヒトミが案内人引き受けてくれるそうです。」

「えっ?」

「勿論ギャラは低くて大丈夫です。詳しい打ち合わせは後日連絡させますので。」

「本当かい、あの桐谷ヒトミだよね、女優の。」

「そうですね、海外で売れてるらしい桐谷ヒトミです。アイツとは昔からの知り合いでして引き受けてもらいました。ただ、海外ロケの時は出来ないと言ってましたが、これでヨシトを降板させてもいいですか?」



俺はさらに柴田に連絡する。

『もしもし、柴田さん?』

『若、どうなさいましたか?』

『今ね旅番組のロケやってるんだけど、案内人が凄く失礼な奴でね、どうにか降板させたいけど、番組に穴空けちゃダメでしょ?だから、この番組のプロデューサーに誰か紹介できないかな?』

『若に失礼を?わかりました、ソイツは芸能活動出来なくしておきます。それで名前は?』

『ヨシトとかいう芸人。』

『あーアイツか、わかりました。となるとその旅番組は旅気分ですね。』

『タイトル知らない、たぶんそれじゃないかな?』

『わかりました、来週から別の案内人がつくよう手配しておきます。』

『お願いします。』

そして、電話を終える。


「山本さん、源グループの柴田って人わかる?」

「ええ、勿論知ってますけど。」

「柴田さんから代役の話が来るから後で話し合ってね。ある程度は要望が通ると思うよ。」

「えっ!」

「ヨシトの降板はもう決定したから。というか、芸能活動も終わるんじゃないかな?」

「なんだと、売れっ子の俺がなんで降板させられるんだよ!」

「ヨシトさん!事務所から連絡があって、契約を打ち切ると!」

ヨシトのマネージャーが慌ててヨシトに駆け寄る。

「なに・・・?なんで、俺がクビになるんだよ・・・ふぅ、まあいい別の事務所に移ればいいだけだからな。」

「待ってください、ヨシトさん、取りあえず事務所に行きましょう。社長に話せば撤回されますよ。」

「あーもう、めんどくせぇが仕方ないか、山本さん、じゃあな、こんな番組こっちから願い下げだ!」

ヨシトは帰って行った。

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