第253話 ユミ、助かる?

両親が離婚してから、ユミの立場は無かった。

引き取ってくれた母は以前とは違いユミを見ることはなく、世間から身を隠す為にと、預けられた親戚の家も最初は甘やかしてくれたが段々厳しい事を言ってくるようになっていき、結局追い出されるように母のいる祖父の家に帰された。


「もう、なんで、私がこんなめに合わないといけないのよ!」

ユミは自室で荒れていた。

この日は久し振りに母と買い物に出掛けたが、母は自分の物ばかり買い、ユミが欲しかった服を買ってくれなかった。

「前はお母さん優しかったのに・・・」

ただ、ワガママを聞いてくれていただけだったが、マキも自分の金が無くなり出してからはユミの分を買うのにためらいが出ていた。

「おばあちゃんは何も買ってくれないし!もう、やだ!」


それからしばらくして、フミエが出ていったあと、目に見えて生活が貧しくなっていった。

食事も品数が減っていき、知らないうちに段々家具も無くなっていた。

「おじいちゃん、家の中寂しくなってない?」

「これはね、いらないものを処分しているんだ。」

祖父ゼンの言葉が嘘なのは幼いユミにもわかった。

以前は仕事に行っていた祖父が最近ずっと家にいるし、夜中、祖父と母がお金の事で喧嘩をしている姿を何度か見かけたからだ。

それに怖そうな人が何度も家をたずねて来るようにもなっていた。


そんな中・・・

「ユミ、あなたは今日からシンジおじいちゃんの所に行きなさい。」

母からいきなり言われた。

「えっ?お母さん?なんで・・・」

「なんでじゃありません!そう言う話になったからです。」

「でも、向こうにはお姉ちゃんがいるんだよね?離婚の時、一人ずつにするって言ったのお母さんだよ!」

「事情が変わったの!それにユミがいなければ私も再婚が簡単なんだから!」

「えっ?お母さん・・・」

「今思えば、引き取ったのが間違いだったのかしら?でも、お金になったし、よかったのかな?」

「お母さん?お金になったって、どういうこと・・・?」

「シンジさんがユミを引き取るかわりに三千万くれる事になってるの、お金は受け取ったからあなたが行ってくれないと困るのよ。」

「・・・お母さん、わたし売られたの・・・?」

「人聞きの悪い事を言わないで!祖父の家に引き取られるだけなんだから。それにあっちにはトオルもマイもいるんだから、むしろユミの為になるのよ!」

「お母さん・・・」

「あーもう、迎えも来てるんだから、さっさと行きなさい!」

ユミは家から追い出される。

「お母さん!お母さん!」

ドアを叩くが聞き入れもらえなかった。


「ユミ。」

「シンジおじいちゃん・・・私、売られたの?」

「ユミ。」

シンジはユミを抱き締め。

「すまない、だがユミを助ける為にお金を出してくれた人がいるんだ、売られたと思ってはいけない、助かったと思うんだ。」

「おじいちゃん・・・」

ユミはシンジの腕の中で号泣していた。


そして、おじいちゃんの家に入ると、

「「ユミ!」」

そこにはトオルとマイがいた。

「お父さん、お姉ちゃん!」

親子三人抱き合い、斎戒を喜ぶ、

しばらくしたあと、

「ユミ、厳しいようだけど言わなきゃいけない事があるの。」

「何?お姉ちゃん、顔が怖いよ。」

「今まで、ユミはお父さんやお母さんに甘やかされて育ってきたけど、今日からは違うからね。いい、今持ってる考え方を捨てないと、幸せを手にするなんて出来ないんだからね。」

「ユミは悪いことしたことないよ。」

「まず、それがダメ!リョウさんの一件はユミが発端なのよ、少しは責任を感じなさい!」

「だって、私は・・・」

「私達はあと少しで死ぬか死ぬより辛い目に合わされるかの所にいたんだよ、それをリョウさんが助けてくれたの、感謝しなさい。」

「私じゃなくて、あの人が全ての発端じゃない、私達家族がバラバラになったのも、生活がおかしくなったのも全部あの人がいたからよ!」

「ユミ!リョウさんがいなければ車にひかれてのはユミだったのよ!助けてくれたリョウさんを事故に合わせて、その後も冤罪で殺そうとしたり、おかしいのはうちの方なの、」

「でも、私はケガしたのよ。」

「ユミ、擦り傷と重体は比べようがないの、それにユミが携帯を見てて前を見てなかったのが原因じゃないの。」

「それは・・・」

「それにも、うちの家はもう特権のある家じゃないんだよ、警察の叔父さんは死んじゃったしお父さんもお母さんの家も破産、源家と騒動を起こした私達を引き取ってくれる人もいないし、知ってる従兄弟のキミヒコさん、私達の親戚というだけで就職に困ってたみたい。わかる、親戚というだけでもそうなのに当事者の私やユミはどうするの?」

「わたし・・・」

「私達はリョウさんに見捨てられたら最後なんだよ。」

「お姉ちゃんはミウさまや源家にも可愛がられているんでしょ、それでなんとか出来ないの?」

「私が可愛がられているのはリョウさんが気にしてくれてるからだよ、リョウさんに嫌われてる子に優しくなんかしてくれないよ。」

「でも・・・」

「はぁ、いいユミ。これは説得でも何でもないの、あなたがリョウさんにどんな思いかを持ってるかはもういいの、今後幸せに生きていたかったら、絶対にリョウさんを悪く言わないで。これは決定なの、もし守れないならこの家からも出ていってもらいます。」

「そんな・・・おじいちゃん、お姉ちゃんがヒドイ事を言うの!」

「ユミ、おじいちゃんもマイと同じ意見だよ、私達はリョウくんに迷惑ばかりかけているのにユミまで助けてくれた、これ以上何を望む?そして、何処に恨む要素があるんだい?」

「お父さん!」

「ユミすまないね、お父さんも無力なんだ・・・もう、あんな所には行きたくないんだ・・・ユミはここでおじいちゃんやお父さんと一緒暮らすのはイヤかい?」

「でも、お母さんがいないよ!」

「お母さんはダメなんだ、リョウくんにこれ以上は望めないだろう・・・」

「なら、私が説得してくる!」

「絶対やめて、もしするなら家族の縁を切ってからにして!私はこれ以上リョウさんに迷惑をかけたくないし、かけれないの!」

「でも、お姉ちゃんもお母さんと一緒に暮らしたいでしょ?」

「・・・もう、そんな思いもないよ。お母さんはおかしいよ、何でリョウさんにあんなにヒドイ事ができるの?私にはお母さんの考えはわからないし、正しいとも思えない。そんな人とは一緒に暮らす事も出来ないよ・・・」

「ユミ、私達はリョウくんに機会をもらっていたのに、それに甘えて最悪な方に来てしまったんだ、今、命があるだけでも感謝しないと・・・ユミは死にたいのかい?」

「えっ?」

「源家に逆らうということがどういう事か今回でよくわかったよ。あれ程怖かった借金取りが一夜で始末されたんだからね。いいかいユミ、源家からしたら借金取りより恨んでいるのが僕達家族だよ、リョウくんがマイを気にしているから始末されないだけで、それがなければ今頃全員この世にいないだろぅ・・・」

「そんな、犯罪だよ・・人を殺したらダメなんだよ。」

「でも、死んでから何を言っても仕方ないだろ?なあ、ユミ、お父さんは怖いんだ・・・いつそこのドアからお父さん達を殺しにくるかわからない、そんな生活はもうイヤなんだ。」

「そんなこと・・・」

「無いと思うのかい?それが起きてもおかしくない状況なんだ、今マイとおじいちゃんのおかげてなんとか生きる道が見えてきたんだ、だからユミのせいで僕は死にたくないんだよ。」

「お父さん?」

「ユミがこっちに来れたのはマイのおかげで、奇跡的な事でもあるんだよ。でも、ユミには何を言っても伝わらないんだろう?なら、選びなさい、リョウくんを恨んでお母さんの元に行って地獄を見るか、ここでリョウくんを受け入れてお父さん達と平和に暮らすか。ユミの人生だからね、選択しなさい。」

「なんで、そのふたつなの!」

「その二つしかないんだよ、子供のユミを守ってあげれない情けない父親なのはホントにすまないと思っている。だけど、生きていられる幸運を捨てるなら、覚悟して行きなさい。」

「お父さん!」

ユミは泣き出していたが・・・

「選びなさい、厳しいようだけど必要な事なんだ・・・」

「お父さん・・・ユミはお父さんと一緒にいます・・・」

「決めた以上、絶対にリョウくんを悪く言わない、約束できるかい?」

「・・・わかりました。」

「約束を破ったら、ホントに死んでしまうからね、絶対だよ。」

「うん・・・」


その後、割り当てられた自室に入ったユミは、母との決別に涙していた・・・

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