第212話 帰宅すると

名古屋から帰ってくると・・・

「お帰りリョウくん。」

キサクさんが源の家にいた。

「キサクさん!早すぎますよ。まだ帰ったばかりですって!」

「いや~思わず来てしまったよ。年寄りは気が短いからな。」

「はぁ、ちょっと待っててくださいよ。着替えとかしたいですし。」

「ああ、ピアノの部屋で待ってるから準備が出来たら弾いてもらえるかい?」

「弾かないと帰らない気でしょ?」

「モチロンだとも!」

「アズちゃん不審者がいる。」

「はいはい、リョウくんも準備して。」

俺は部屋に入り、ラフな格好になってからピアノの部屋に向かう・・・

「キサクさん、準備できました・・・けど、その人達は?」

「ボクの知り合いなんだ、一緒に聴かしてもらってもいいかい?」

部屋の中の人が増えていた。

「いいですけど、キサクさんの知り合いということは音楽家の方達でしょ?あくまで趣味のレベルですからね、そんなに期待しないでくださいね。」

「まあまあ、弾いてくれたらわかるから。」

キサクさんに促されるまま、弾き始める。

室内からはピアノの音しか聴こえなくなる。

弾き終わっても、何も反応がなかった。

静まり返った部屋の中・・・

静けさに耐えきれず。

なんとなく今思い付いた曲を思い付いたまま、弾き始めた。

意外と調子よく二楽章まですぐに弾けた。ただイタズラ心に火が着いて三楽章の途中まで弾いた所で止めてみた。

「な、なんで止めるんだい!」

「続きを!早く!」

「リョウくん、今の曲は?」

「思い付いたまま弾きました。じゃあ、続きを・・・あっ、あれ?でてこないや。うん、これでお仕舞い。」

「リョウくん!なんで今止めたんだい?」

「皆さんの反応を確かめようかと思ったのですが、止めたら続きが何処かにいきました。」


来ていたお客さんみんなが地面に屈伏した状態になり。

「な、なんてことだ・・・」

「私達はどう反応していたらよかったのだ・・・」

「たからが・・・目の前にあったのに・・・」

「それより誰か、今の曲を楽譜におこせ!覚えているうちに。」

大混乱を引き起こしていた。

聴いていた全員が必死で楽譜にしているなか・・・


「みんな、あわててる~」

「リョウくんは何をのんびりしてるのかな?」

「アズちゃん、みんなが混乱していると逆に落ち着いたりしない?」

「原因の人がそんなことを言ってたら怒られるよ。」

「リョウくん、わかる部分だけでもいいんだ、もう一度弾いてくれないか?」

「うーん、同じのは無理、頭の中に別のが混ざってきてる。」

「そ、そんな・・・」

「なぁラルフ~」

俺は訪ねてきたラルフを撫でる。

「あれ?ラルフがなんでここに?」

「リョウ兄、お茶持ってきたけど、何この状況?」

お客さん達が全員地面にに這いつくばって楽譜を書いていた。

「みんな地面が好きみたい。」

「はぁ、何かしたんだね?」

「うーん、何かしたわけでは無いと思うんだけどなぁ~みんな一曲聴いたんだから満足すればいいのにね。」

「リョウ兄、何したの?」

「リョウくんがね、一曲弾いたあと、もう一曲を即興で作りながら途中まで弾いて止めたら忘れちゃったの。」

「なんてムゴイことをしてるのよ・・・」

「即興だから仕方なくない?」

「リョウくん!楽譜に起こしてみた。一度弾いてくれないか?弾いたら思い出すかもしれないだろ?」

「うーん、気が進まないんだけどなぁ~」

頼まれたから、楽譜を見ながら弾いてみるが・・・

「ムリ!これは違う!」

1楽章弾いた所でやめた。

「リョウくんどこが違うのかい?」

「微妙に違う箇所が多々ありすぎて、気持ち悪い。」

「じゃあ、訂正しながら・・・」

「これはもう弾きたくない!」


来ていたお客さんの1人が不機嫌そうに言ってくる。

「しかし、ほとんど同じじゃないのかね?」

「その少しが嫌なんです。」

「そもそも、君が忘れたりするからいけないんだろ!」

「おい!やめろ!」

キサクさんが間に入って止めようとするが・・・

「俺が作った曲をどうしようと勝手だろ?そもそも、お前は誰なんだ?キサクさんなら付き合いがあるから何か言われても耐えるが、誰か知らん奴に文句言われる筋合いはない!」

「なんだと!このワシを知らんのか!」

「知らん!」

「くっ!ワシは関東交響楽団の団長、平井キチジだぞ!」

「・・・だれ?アズちゃん知ってる?」

「私は知ってますけど。」

「そうなの?有名な人なんだ。」

「わかったか!」

「・・・だから、なに?」

「なに?」

「俺には関係ない役職だよね?」

「貴様は音楽家の癖にこの地位の凄さを知らんのか!」

「そもそも、音楽家じゃないし。」

「ワシが認めなかったら、貴様の曲なんぞ、地に埋もれる事になるんだぞ!」

「別にいいよ、売りたくて作ってる訳じゃないし、キサクさんとの付き合いでしてるだけだから、俺としては認めてくれる人が聴いてくれたらいいだけだし。」

「なっ!」

「それじゃ出ていってくれるかな?」

「なぜ、ワシが出ていかなければならない!」

「おかしな事を言いますね。ここは源家の屋敷で、あなたは客でもなくなった。出ていくのが普通では?」

「なんだと!貴様は源家のなんなんだ!」

「次期当主ですよ。ねっ、リョウくん。」

「アズちゃん、俺認めてない気が・・・」

「そんな些細なことより、平井さん、今後、関東交響楽団には源家からの資金援助はないものと思ってください。」

「な、なに、源家はいつから音楽に理解がなくなったんだ!」

「勘違いなさらないでください。貴方がいる楽団に寄付をしたくないだけです。」

「なっ!」

「さあ。お帰りください、それとも警備員に叩き出されたいのですか?」

「くそっ!後悔するなよ!」

平井は屋敷から出ていった。

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