第137話 茶会

あらためてサエがお茶をたて始める。

ソウエンさんには勝てないがそれでも流れるような所作でそこには美しさがあった。

「ほう、サエちゃんも腕が上がったね。これはソウエンさんも安心だ。」

正客のキミツグさんはサエちゃんを微笑ましく見ていた。

しかし・・・

「お父さん、あの子、ボクの彼女にしてやろうと思うんだ。」

「それはいいな、ソウエンさん、かまわないよな。」

「和田さん、いきなり何を言い出すんですか?」

「なんだ、不満なのか!このワシの息子の彼女にしてやるんだ、光栄に思え!」

「お断りします。なんで大事な娘をよくわからん奴に渡さないといけないんですか!」

「なんだと、よくわからんとはなんだ!ワシは京都府議、和田ヨシムラだぞ!」

「そんなパッと出の家なんか知りません。家を誇るならせめて三百年は続いてからにしてください。」

「なにー!名家だと思って下手にでておればいい気になりおって!」

和田は立ち上がり怒鳴り始める。


父親が争い始めて、サエちゃんはオロオロしていた。


「でめぇら、だまれ!!」

俺は殺気を和田親子にぶつける。

「ヒッ!」

親子そろって床に転がった。

「おとなしく聞いていれば付け上がりやがって!サエが誰のものだって!」

「ボ、ボクの彼女にしてやるんだ」

「サエの相手はサエが決める、てめぇの意見なんてないんだよ!」

ガキ相手に大人げないが、さらに殺気をぶつけ黙らせる。

「ヒッ!」

「文句がある奴は俺が相手になってやる!死にたい奴からかかってこい!」

俺が撒き散らす殺気に和田親子だけじゃなく、ほとんどの人が黙り込んだ。

そんな中、キミツグさんは

「フォフォ、見事なタンカだ、久しく見なかった益荒男ぶりじゃな、ソウエン殿も頼もしい後継者に恵まれたようでなによりじゃ」

「いや、後継者じゃない・・・」

「はい、私のお婿さんになってもらう予定です。」

「サエちゃん?」

「ですので、和田さんの申し出はお断りさしていただきます。」

「な、なんだ、そういう事かそれで怒っていたんだね。うん、それは和田さんが悪い、和田さんもそういう事だから引かないと、横恋慕はいけないよ。」

何故か周囲が俺とサエをくっつけようとしている。

「い、いや、違うよ・・・」

「いや、報告が遅くなって申し訳ない、まあ、サエはまだ若いからどうなるかはわからないが、暖かく見守ってあげてくれないかな。」

「ソウエンさん!ねぇ、なんかおかしくない?」

「リョウさま、末長く可愛がってくださいませ。」

サエはリョウに抱きついてきた。

「おお、微笑ましい光景だな。」

「ところで彼はどのような家柄なのだ?」

「彼は九条に連なる者で旧姓九条テルさんの孫、桐谷リョウです。」

「テルさんのお孫さんかね!」

「おい、桐谷って、まさか!」

「そうです、あの桐谷アキラの孫にしてその技の後継者です。」

「土御門は武門になる気か!」

「いえ、あくまで私は公家の家を守っていきます。」

「しかし、アキラ殿の孫なのだろ?」

「彼は芸術の才能に恵まれております。リョウくん、皆さんに茶を点ててもらえるかね。」

「ソウエンさん?まあ、いいですよ。皆さん、騒がしくしてすみません。これより桐谷リョウの初茶席を行いますので一度お座り願えますか。」

騒動の残り火か、俺の中に気力が漲っていた。

「ああ、みんな座ろう。」

全員が大人しく座ってくれた、そして、茶を点てる。

ソウエンさんやサエのような優雅さは出せないが所作の1つ1つに斬りかかるような気合いを込めて行った。


「ソウエンくん、彼は一体。」

「ここまでのは初めてですね、もともと武門にいただけあって、鬼気迫るものがありますね。」

「我々には出せない空気だが、これも1つの道な気がするな。」

「元々茶道は武士の中で流行ったものですからね。当時はこのようなものだったのかも。」

「我々もうかうかしてられませんな、更なる精進をせねば。」

ソウエンさんとキミツグさんは二人で話し合い、今後の茶の湯に生かそうと貪欲に見ていた。


そんな中でサエはリョウの気迫のこもった手前に見とれていた。

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