第133話 サエとの出会い
俺とサエが出会ったのはヒトミと別れてすぐだった。当時はそれなりにショックを受けており、何もやる気がなかったのだが、そんな俺にばあちゃんが茶道を始めさせた。
「リョウ、少しはマシなお茶をたてれるようになったのかね。」
「ばあちゃん、お茶なら急須でいいじゃん、なんで茶道覚えるの?」
「あんたって子は!いい私の実家は公家の名家に繋がる家だったんだから、その孫が茶道も出来ないなんて恥ずかしい事は言えないでしょ。」
「兄貴にやらせれば?俺はじいちゃんに武士のような生活を要求されてるよー」
「マサキの事はあきらめてます。あの子は勉強は出来るのに芸術のセンスがないから・・・」
「ばあちゃんひどい!」
「そのかわりにリョウは勉強が出来ないけど芸術のセンスはあるんだから、ちゃんと覚えなさい!」
「詰め込み過ぎだよ~」
「うるさい、一緒に習ってるサエちゃん。見習ってちゃんと覚えなさい!」
この頃、サエも茶道を覚え始めた所で俺と同期扱いされていた。
「へーい!」
「返事はハイ!でしょ。」
「あい!」
「あんたは!」
「あの~リョウさん?茶道の時間ですよ?」
ばあちゃんとの会話をしていると、サエが俺を呼びに来た。
「あっ、サエちゃん今いくよ。」
俺の先生はサエの父親ソウエンさんだった。
ばあちゃんの頼みでワザワザ京都から愛媛の俺の実家まで教えに来てくれていた。
「お父様がお待ちですから急いだほうがよろしいですよ。」
「あい!」
「コラ!リョウ!返事はハイでしょ!まったく。」
怒るばあちゃんをおいて、サエと茶室に向かう。
「遅くなって申し訳ありません。」
「かまいませんよ、さあお茶をたててみましょう。リョウくんが終わったら、サエもやってみるんですよ、」
「はい。」
俺とサエの二人はソウエンさんに日々教わり一通りは出来るようになってはいたが、それでも、ソウエンさんのたててる姿とは雲泥の差があった。
「やっぱり、ソウエンさんには勝てないなぁ~」
サエの点ててくれた、お茶をのみながらグチる。
「それは私のが美味しくないと?」
「違う違う、点ててる姿の話、俺と比べるとだいぶ違うじゃん。」
「そうですね、お父様は気品に溢れていますから。」
「リョウくん、サエ、あまり褒められると照れるなぁ、それにリョウくんも始めたばかりなのに充分、形になっているよ。」
「お父様、私は?」
「サエも綺麗に出来ているよ。二人ともあとは経験を積むだけだよ。」
「うーん、経験を積むのは難しいかなぁ~」
「どうしたんだい?」
「二人が京都に帰ったらたぶんあまりやらなくなるから。」
「そうなのかい?」
「点てる相手もいないしね。」
「お婆様は茶道もきわめていますよ。」
「ばあちゃんだけなんだよ。いつもばあちゃんにお茶を点てるのも違うし。」
「残念ですね、せっかくいい筋しているのに・・・そうだ、一度京都に来てみるかい?」
「京都に?」
「京都で本格的なお茶席に出てみよう。他の茶道をしている人を見ると刺激になるかもしれないしね。」
「仕事もあるから、連休ぐらいしか行けませんが。」
「わかった、今度の連休は京都でお茶席だ。」
「サエも一緒に行くから準備しておきなさい。」
「はい、お父様。」
俺の京都行きが決まった。
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