第116話 夜、カエデ、女になる

その日の晩、俺は案内された部屋にいた。

「ふう、なんか暑いな。風邪でもひいたか?」

気温はそんなに暑くないはずなのに、夕食の後から体がポカポカしていた。

「失礼します。」

「うん?」

部屋に小柄な女の子が入ってきた。

「君は?何かようかな?」

「私はカエデともうします。祖父の言いつけで、お情けをいただきに参りました。」

「お情け?」

「はい、どうぞ一晩お側においてくださいませ。」

「ちょっと、待った。それってそういう事だよね。いらないからね。」

俺は拒絶したはずなのに彼女から目が離せない、心なしか心臓がバクバクいってる気がする。

「しかし、していただかないと、私はその辺の情婦になってしまいます。どうかお願いです。お情けをくださいませ。」

「どういう事かな?」

「祖父が夕食にクスリを混ぜたようにございます。これを飲むと十二時間いないにいたさねば頭がおかされ、する事しか考えられない廃人になってしまうのです。」

「そんな!何その酷いクスリは!」

「それに貴方様もクスリを飲まされております。お互いの為にも今宵一晩どうかお相手をお願いします。」

「俺もか!もしかしてこの動悸はクスリのせいか?」

「たぶん、私も今ドキドキして止まりません。」

カエデはゆっくり俺の方に近付く。

「待てって!カエデは村に好きな人はいないのか?」

「好きな人?」

「こういう事は好きな人とするべき事だろ?いるなら今からそいつを呼んで来てやる。」

「でも、それなら貴方様が廃人に・・・」

「俺の事はどうでもいい、なんなら君の爺さんから解毒剤をいただくさ。」

「解毒剤?」

「こんな危険なクスリなんだ、きっとあるだろう。力強くでも奪えばいいんだよ。」

「お爺様に挑むなんて無謀ですよ。」

「いや、それでも何とかするさ。さあ、君は自分の事を考えて、好きな相手はいないの?」

「おりませぬ、男に興味が無かったので・・・」

「そうか、なら少し待っててくれ、すぐに解毒剤をとってくる、君の爺さんはどこにいる?」

「家の奥の部屋におりますが、本当に挑むのですか?」

「当たり前だ!君みたいな可愛い女の子に強力な媚薬を使いエッチを強要なんて許されるはずがない!天誅を喰らわしてやる。」

「ふふ、貴方はいい人なのですね。わかりました。私も行きます。これでも忍として鍛えて来たのです。お爺様に勝てないまでも、クスリを奪うチャンスを、狙ってみます。」

「そうと決まれば急ごう、お互い時間が無さそうだ。」

「はい!」

俺とカエデはサンタがいる部屋に入る。

「なにやつ!」

気配を消していたのに、サンタは部屋に入った瞬間に俺達に気付く。

「よくも媚薬を盛ってくれたな!解毒剤はどこだ!」

「何まだしてないのか?しかもワシに挑もうとは流石アキラの孫じゃのう。」

「こっちは余裕が無いんでね、さっさと出してくれないかな?」

「百地の当主を脅すとはな、若造が命は入らぬようじゃな!」

サンタから殺気が膨れ上がる。

「何をキレてやがる!てめぇがしたことを考えろや!可愛い孫娘に媚薬を盛り、見知らぬ男に抱かせようとはこの鬼畜が!刀の錆びにしてくれる!」

俺はサンタの部屋にくる前に居間にあった刀を拝借していた。

「ほう、アキラがヤバイと言ってた刃物か?どれぐらいのものかのう。」

様子を見ているサンタに俺は斬りかかる。

「ぬっ!お主、人を斬るのに躊躇いはないのか!」

サンタは間合いを取り、俺の斬撃をかわした。

「はずしたか、だが続けていくぞ!」

俺は再度間合いを詰めて斬りかかる。

サンタはクナイで俺の斬撃を受けつつ後ろに下がり出す。

「喰らえや!」

俺は力任せの一撃をサンタに食らわせ、受けたサンタは障子を突き破り外に出た。

「何事ですか!」

忍者の姿をした奴等が現れる。

「手出し無用じゃ、アキラの孫がせっかく腕前を見せてくれておるのじゃ、タップリ堪能させてもらおうではないか!」

「ほざけ!」

俺は再度斬りつけるが今度は完璧に受け流されていた。

「うっ!タイミングがとられてる。」

俺は斬りかかるのを止め、間合いを取る。

「気付いたか、ワシ程になるとな何度か斬り合えば、相手の呼吸でいつ攻撃がくるかわかるものよ。」

「ぬう!」

「どうした、早くも打つ手はないのか?ならこちらから行くぞ!」

手裏剣が投げつけられるが俺は刀で叩き落とす。

「まだまだ、こっちからも行かしてもらう!」


そんな中でサンタの部屋でカエデは家探しをしていた。

「早く見つけないと、あの人が殺されちゃう。」

リョウの作戦でサンタを引き付け、その間にクスリを見つけ服用したあと、リョウと合流する手筈だったが、いくら探してもクスリは見つからない。

「どこにあるの?このままじゃ私はあの人と・・・」

カエデはそこまで考えて、嫌じゃない自分がいるのに気付く。

「あれ?私、えっ、もしかして、あの人ならいいと考えてない?うそっ!なんで!」

ちょっと混乱したが、私の為にお爺様に挑み、今も戦っている彼を部屋から眺めた。

「カッコいい・・・」

思わず思った言葉が口から出る。

その瞬間、体の奥からジワッと来るものを感じた。

「えっ、やだ、こんな時に、ダメ、もう私・・・」

カエデは引き付けられるように、外のリョウの所に向かっていた。


「くう!流石に爺さんの知り合いだな、強すぎるだろ!」

「孫殿もなかなかの腕前だな、熊ごときに遅れを取るとは思えぬが。」

「そうですか、ならば熊の代わりに殺られてください!」

俺は落ちてた手裏剣を拾い投げつける。

その時に間合いを詰めて得意の三段突きを放つ!

「昼に見せた技か!」

サンタは三発ともかわしたが・・・

これには実は四発目がある。

三発ついた後、刀を打ち上げ顎先を狙う。

「ぐっ!」

当たる前にサンタの蹴りが俺の横腹を直撃、俺は吹き飛ばされた。

「なかなか、いい動きじゃのぅ、だが当たらなければどうということはないわ!」

「何を!」

起き上がろうとする、ダメージが大きくすぐには動けなかった。そんな俺にカエデが寄ってくる。

「カエデ!見つかったか?」

俺はカエデを見ると、キスをされていた。

「プハッ、カエデなにを?」

「貴方様が悪いのですよ、私にあんなにカッコいい所を魅せるから・・・」

カエデは俺に抱きついてくる。

「カエデ落ち着いて、正気を取り戻して。」

「私は正気ですよ。でも、たとえクスリでも貴方様を初めての人にしたいのです。」

カエデの手が俺の股間に延びる。

「あら、貴方様も充分準備が出来ておりますね。」

「ちょっと、待って!」

「待てません、今楽にして差し上げます。」

リョウのを擦る手が早くなる。

「いや、待って!ちょいヤバイって。」


「おいおい、いくらなんでも祖父の前で始めるな!」

「ほら、サンタさんもいるんだしね。」

「お爺様、いつまで見ているのですか?さっさとどこかに行ってください。」

「おーこわ、じゃあな孫殿、カエデを、よろしく頼むわ、全員この場から撤退せよ、孫を覗き見たら死ぬと思え!」

サンタは撤収して行った。


「さあ、邪魔者はいなくなりましたよ。」

俺の刀が取り出される。

「これが、私のを・・・」

カエデは見とれていた。

「カエデ、待てって!こんなのダメだろ!」

「いえ、ダメではありませんよ。私は貴方様に全てを捧げます。お爺様の命令ではなく、百地カエデとして貴方様に生涯を捧げます。これは私の誓いです。」

カエデはこの瞬間、女になった。

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