第78話 撮影所到着

アズサが家にきてから二週間ほどたったある日、俺は長野県にきていた。

「リョウくん、ここで撮影があるんだよ。」

「へぇー、ここかぁ~」

「リョウくんのシーンはまとめてとるように段取りしたから二、三日頑張ってね♪」

「はーい、楽しみだ。あっ、共演者の人に挨拶しとかないと。」

「うーん、無理にねじ込んだから、いい顔されないかも・・・」

「それでも、島津義弘役の人には挨拶しないと。」

「うん、わかった。大物で気難しい人だけど気をつけてね。」

「あーい。」


「失礼します。」

俺は島津義弘役のケンさんの所に来ていた。

彼は時代劇の大御所で国民的スターでもあった。

「誰だ、おまえ?」

「自分は島津豊久役になりました桐谷リョウです。今日はよろしくお願いします。」

「ああ、君か。スポンサーのゴリ押しで役をとった奴は、君はそもそも馬に乗れるのかね?」

「乗れます。」

「はあ、いいか。時代劇で馬に乗るのは普通に乗るのと違うのをわかっているのか?」

「同じでしょ?」

「そこまで、言うならついてこい。馬に乗ってもらう。だが不甲斐ないようなら役を辞退して家に帰れ!もともとその役は私の後輩がやる予定だったんだ。」

「いいですよ、ただし馬に乗れるかどうかの判断は公平にお願いしますね。」

「生意気な!」

俺はケンさんに連れられ馬小屋に。


「ケンさんどうしました?」

「少し馬を貸してくれ、島津豊久役の奴をテストする。」

「ああ、アイツがそうなんですね。わかりましたすぐに用意します。」

馬の世話をしていた人が連れてきた馬は興奮しているのか今にも暴れそうだった。


「どうした、怖いなら止めてもいいんだぞ。」

「いえ、では行きますね。」

俺は馬を馬を受け取り、目を見つめる、

すると馬はおとなしくなった。

「なっ!!!」


「さて、行こうか。」

俺は馬に乗り、走り出す。

「お前いい馬だな、もうちょっとスピードあげようか。」

流し気味の走りから全力まで上げる。

そして、周囲を少し走ってケンさんの元に、

「どうですか?」

「まあまあだな、だがこれからだ、今回の時代劇は戦争シーンだ。君は馬上で槍を振るってもらう。いいな!」

「ええ、やってみたかったんですよ♪」

俺は槍を受け取り、振り回す。

「いいねぇ!燃えてきた。行くぞ!」

俺は馬を走らせながら、槍を振り回す。

的がないのが残念だが、敵をイメージしながら打ち倒すつもりで槍を振るう。


「な、なんだアイツは・・・」

ケンは驚愕していた、馬上槍は普通出来ないのにアイツは馬を走らせながら槍を振り回している、しかも手綱を外して右手に槍、左手に刀を持って自由自在に動いているなんて!


しばらくして、リョウが戻ってきた。

「ケンさん、ありがとうございます。凄く楽しかったです。」

「いや、こちらこそ失礼だったな。改めてよろしく、いい映画をとろう。」

「はい。」

「といっても、島津役だからな見せ場は少ない、そんなに固くなるなよ。」

ケンさんは笑いながら、俺の背中を叩いて激励してくれた。

「頑張ります。島津の退き口を再現して見せますよ。」

「ほどほどにな。相手が可哀想になる。」

どうやらケンさんには受け入れてもらえたようだった。

リョウが帰ったあと


「ケンさん、なんでアイツと打ち解けているんですか!」

ケンに詰め寄るのは以前、リョウが撮影所で暴れた時の主役イサムだった。

「イサム、アイツは凄いぞ。演技はどうか知らんが少なくとも戦争シーンで迫力は出るだろう。」

「しかし、そのせいで後輩のタツが役をもらえなかったんですよ!」

「スポンサーの意向はどうしようもない、お前もこの世界にいるならわかるだろ。それよりお前こそ大丈夫か?島左近役だろ?馬には乗れるのか?」

「その辺は編集でなんとかしてもらいますよ。スタントに鎧着せたらわからないでしょ。」

「いいか、そんな心構えでいい作品になるか!」

「ケンさん、役者は顔が良く、上手くセリフが言えたらいいんですよ。」

「そんなんだから、これといったヒットが無いんだよ。少しは桐谷くんを見習え!」

「へいへい、」

話が説教になってきたのでイサムはケンの部屋を後にした。


「リョウくん、撮影の間このロッジを借りてるから自由に使ってね。」

アズサに案内されたのは立派なロッジだった。

「アズちゃん、こんな良いところ使っていいの?」

「我が家の別荘だからいいんです。お世話は私がするから安心してね。」

「いや、自分でするよ。」

「いいんです。せっかくミウさんがいないのですから、私にやらしてください。」

ミウも来る予定だったのだが、急な学校行事が入り来れなくなっていた。

「まあ、俺は助かるからいいけど。」

「はい、私無しじゃいられなくしてあげますね♪」

「な、なんか怖いけど、お願いするよ。」

俺は素直に受け入れる事にした。

「では、すぐに昼食を用意しますから、ソファに座って待っててくださいね。」

俺はソファにくつろいで昼食が出来るのを待った。


その頃、イサムは

「なんで、俺がこんなボロホテルのボロ部屋なんだよ!」

「イサムくん、この辺ホテルが少ないから仕方ないんだよ。」

マネージャーが一生懸命宥めていた。

「せめてもう少しいい部屋はないのか!」

「上の人から埋まって行くから、仕方ないんだよ。」

イサムは不機嫌そうにしていたが、ふと気になる事があった。

「そうだ、アイツはどこに泊まっているんだ?」

「アイツ?」

「スポンサーがねじ込んだ、ボンクラだよ。」

「ああ、島津豊久役の人かな?彼は・・・撮影場所、近くの別荘に泊まってるらしいよ。」

「なんだよそれは!アイツなんて下っ端だろ、そんな良いところに泊まっていいはずがないだろ、誰が手配したんだ!」

「彼が泊まっているのは個人の別荘でスタッフが用意した場所じゃないんだよ。」

「それでもだ、おいマネージャー文句を言ってやる!案内しろ!」

「ま、まずいって。止めときましょ。」

「うるさい!案内しないなら、お前なんてクビだ!」

「げぇ!いやそれはちょっと・・・」

「なら案内しろ!なに少し文句を言うだけだ!」

マネージャーは仕方なく、イサムをリョウの元に連れていく・・・

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