第5話
ーーーーー夢だと理解するのに、そう時間は掛からなかった。
「資料は出来ているのか! なに?まだ出来てないのか!ったく、使えんやつだ!」
見慣れたディスクには、山のような紙の束が積まれていた。
「おい、鈴原!その資料、今日中に纏めておけよ。」
いつも通りの日常だった。
終電も無くなり、歩いて家に帰るとすぐにシャワーを浴び、栄養ドリンクを胃に流し込み寝床に入る。そして目が覚めると、すぐに支度を済ませて仕事に向かう。
「それじゃ、行ってくるよ。父さん、母さん。」
遺影に手を合わせ、家を出る。そんなことの繰り返しが、俺の日常だった。
「んん…」
『起きたの?』
「…あぁ、おはよう。」
『おはよう、蓮也。ふふっ、挨拶できる相手が居るっていいわね。』
尻尾を揺らしながら挨拶を返してくる。
ぐぅぅ〜
「そういえば、何にも食べてなかったっけ。」
『蓮也が寝ている間にオークを狩ってきたから、一緒に食べましょう?』
「ありがとう、それじゃご飯にしようか。」
『早く行きましょ、お腹がすいたわ!』
そう言って外へ走るリリアの後に着いていく、蓮也の顔は笑っていた。 そして、眩しい光に目を細めて辺りを見回すと、バラバラになった肉塊が置かれていた。
『それじゃ食べましょっか!』
「…まって、ちょっとまって、すごく待って。」
『どうしたの?』
「これ、どうやって食べるの…?」
『どうって、そのまま食べれば良いじゃない?』
「リリア、人間はそのままでは食べれないんだ、せめて火は通さないと…」
『そうなの? 人間って不便なのね…』
「だから、薪を集めて火を起こす事から始めないと。」
『火属性魔法使えるから、後は薪を集めるだけね。』
「…」
『え? なんで黙り込むのよ。』
急に黙り込んだ蓮也に首を傾げるリリア。少しの時間を空けてから天を仰ぎ、大きく息を吸い込む蓮也。そして…
「魔法あるじゃん!!!!!」
『キャッ! き、急に大声出さないでよぉ!』
「ごめんごめん、魔法の事すっかり忘れていたよ…」
『…?あっ、そういえば、蓮也のいた世界は魔法が無かったのよね。』
「あぁ、こっちに来てから立て続けに色々あったから、すっかり忘れていたよ。」
『それなら私が火を着けるから、ご飯を食べたら魔力を使ってみましょうか。』
「そうだな、何はともあれ腹ごしらえをしないと。」
異世界に来て初めて食べたご飯は、焼いただけで、味付けもしていないのに、とても美味しく感じた。
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