前日 ウンチの場合-4
「手切れ金が八十万、これまで彼女のため投資した金額が百二十万。彼女がこの先、生む筈だった利益の三百万……。合計、五百万円」
ボストンバッグから取り出した札束を数えながら、スカジャン男が言った。
「確かに領収したよ。……まったく、チンコちゃんは幸せ者だね。よくできたお兄さんを持ってさ」
「それじゃ、彼女にはもう手を出さないから」肩掛けの鞄に札束を収めると、スカジャン男は立ち去ろうとする。……その足首を、僕は辛うじて捕まえる。
「かえ、せ……」
奪われるわけにはいかなかった。全てを犠牲にしてまで、必死になって稼いだ五百万なんだ。兄妹の新たな人生を買うための五百万なんだ。
お前らみたいなクズにくれてやるための金じゃないんだ。だから、返せ。返せ。返せ。返せ。返せ……。
「あのさあ、お兄さん……」
アスファルトに横たわった僕を、まるで犬の糞でも踏んでしまったかのような表情で見下ろして、スカジャン男は吐き捨てる。
「しつこいよ。チンコちゃんという商品を売ってやる代わりに、その対価として五百万円を受け取った。等価交換、商売の鉄則だ。妹のことを助けたかったんだろ、なら文句ないでしょ」
足首に絡まった僕の手を振りほどいて、スカジャン男とその相方は歩き出す。
その去り際、大男が尋ねるのを聞いた。
「でもよお。五百万なんて何に使うんだよ、テツヤ」
「実は、さ……」少しの間を置いて、スカジャン男は口を開く。
「俺の育った養護施設が、資金不足で大変らしくて。みんなには仲良くしてもらったから、恩返しできたらな、って……」
恩返し、だと?今しがた、ボコボコに殴って殴って殴り倒した相手から、無理やり奪った五百万で?
「ふざけるな……」
これ以上、誰かの幸福の踏み台になるのはごめんだ——そう思ったのを最後に、意識が途絶えた。
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