お陽さまになったお月さま

三久間 優偉

お陽さまになったお月さま

きょうも お空にはお陽さまが さんさんと輝いています。

夜になれば お月さまが ぴかぴかと光っています。

お陽さまとお月さまは

昼と夜で分けあって、仲良くお空に光っています。


しかし、むかしはそうではありませんでした。

お月さまはお陽さまにあこがれ、お陽さまになりたかったのです。

それはそれは遠いむかしのお話です。



お陽さまが西のお空から沈もうとしている夕ぐれ時、人びとはそれぞれのお家に帰りはじめました。

夜は暗くて何も見えないからです。


「またあした遊ぼうねぇ」

「ばいばーい」


元気よく遊んでいた子どもたちも、お家に帰っていきます。

外で働いていたお父さんもお母さんも、子どもたちがいなくなるのを見届けて、お家の中に入っていきます。


お外には誰もいなくなりました。


「さみしいな」


東のお空からお月さまが昇る頃には、

もうみんなおねんねしていて、誰もお月さまを見てくれません。


お月さまはさみしかったのです。


お陽さまが輝いているお昼には、子どもたちは元気よく野原をかけまわり、大人たちもいっしょうけんめい働いています。


でも、お陽さまが西のお空に沈む時にはみんな家に帰ってしまうのです。


「どうして僕と遊んでくれないのかな。 僕がお月さまだからかな」


お月さまはかなしくなりました。


お月さまは夜にしか出てこられないのです。

みんなが寝静まった夜に、お空をわたるのがお月さまなのです。

みんなが目をさます朝には、お月さまは西に沈み、

お陽さまにお空をゆずらなければなりません。


「僕がお陽さまだったら、みんなが遊んでいる姿が見られるのに」


毎日毎日、暗い夜空を照らしていたお月さまは、お陽さまになりたいという気持ちを高ぶらせていました。


「よし、決めた。 僕もお陽さまになるんだ! お月さまなんかやーめた!」


そして、ある日、お月さまはとうとうお陽さまになってしまいまいた。


お空にはお陽さまが二つ。

本当のお陽さまが西のお空に沈んでも、

東のお空からは、お陽さまになったお月さまが昇ってきます。


昼から夕暮れになり、また昼になって夕暮れ、そしてまた昼。

この世から夜がなくなってしまったのです。

二つのお陽さまは、かわるがわる、さんさんと光をふりそそぎ続けます。


「わぁぁぁっ!」

「お昼がたくさん!」

「これでいっぱいあそべるね!」


子どもたちは大よろこびでした。

お陽さまが沈もうとしても、もう一つのお陽さまが昇ってくるので

日が暮れる心配がなくなったのです。


だから、子どもたちはいつまでも遊び続けています。

お陽さまになったお月さまは、元気に遊び回る子どもたちを見て大よろこびです。


「僕は、みんなのよろこぶ顔が見たかったんだ」


お陽さまになったお月さまは、自分が照らす光のなかで

動き回る地上の人びとを沈むまで見つめていました。


誰もいない暗い地面をながめているよりも、

明るい大地を歩き回る人びとを見ていることが

お陽さまになったお月さまにはうれしくてなりません。


お月さまの光では、夜の大地を明るく照らすことはできなかったのです。


「お陽さまっていいな」


お陽さまになったお月さまは

今まで見たこともない景色を見わたしながら、なんどもうなずいていました。


「これでみんな好きなだけあそべるし、働けるんだから、最高だよ」


お陽さまになったお月さまは、地上の人びとがよろこんでいると思いこんでいました。

そして、もうお月さまにはぜったいに戻らないと決心していたのです。


しかし、お父さんやお母さん。

それに多くの大人たちは、突然夜がこなくなったことにおどろいていました。


「お月さまは、どうしたのだろう」


大人たちはみんな不思議そうに首をかしげるばかりで、いつまでたってもお月さまはやってきません。


それに、夜がやってこないことで、

地上のようすがだんだん変わっていってしまったのです。


草は、絶えずふりそそぐ日の光に根を伸ばすことができなくなりました。

お月さまのいた頃には、外の温度がさがって雨がふることもありましたが、ずっと二つのお陽さまに温められているので、雨もふりません。


地面はかわいて水がなくなり、草も木もどんどん枯れていきます。

動物たちも、水と草がなくては生きられません。

緑ゆたかだった大地は、みるみるうちに茶色く、

かわいたものになっていきました。


「ねむれないよう!」

「のどがかわいたよう!」

「おなかがすいたよう!」


お陽さまになったお月さまには、

子どもたちの泣きさけぶ声だけがとどくようになりました。

お陽さまになったお月さまも、みるみるかわっていった大地を見て

とまどうしかありません。


「どうして?」


お陽さまになったお月さまは、地上の人びとの元気で明るいようすを見ていたかっただけなのです。

誰もいないひとりぼっちのお空にいることがさみしかったのです。


気がついてみれば、茶色い荒れた大地には、枯れ果てた草や泉と、おなかがすきすぎて飢え死にした動物のなきがらが、あちらこちらに横たわっています。


「こんなはずじゃなかったのに」


お陽さまになったお月さまは、かなしくなりました。

涙がぽろぽろとこぼれて、お空にひろがっていきます。


そのとき、お陽さまになったお月さまに呼びかける声が聞こえてきました。


「お陽さまになったお月さま! 何をかなしんでいるの?」


その声は遠くから聞こえてきます。


「君はだれ?」


ずっとずっと遠くの、むこうのお空から聞こえる声に、お陽さまになったお月さまがたずねました。


「僕はお陽さまだよ。ねぇ、どうしてかなしんでいるの?」

「地上の人たちが、ないているのがかなしいの」


お陽さまになったお月さまは、しゃくりあげながらお陽さまに答えました。


「お月さまが、お陽さまになったから?」


お陽さまは、お陽さまになったお月さまにたずねました。


「みんなによろこんで欲しかったんだ。ひとりぼっちはいやだったんだ」


だから、かなしかったのです。

お陽さまになってみんなの笑顔をみたかったのに、

みんなの中にはいって

いっしょに楽しもうとしたのに、

みんなをなかせてしまったことがかなしかったのです。


お陽さまになったお月さまからは、たくさんの涙がこぼれつづけていました。


「だってお月さまは、お陽さまのように大事にされないもの」

「どうしてそう思うの?」


お陽さまになったお月さまに、お陽さまはおだやかにたずねました。


「みんないないもの。夜はみんなが嫌がっているもの。何も見えないから」

「そんなことないよ。耳をすまして聞いてごらん。地上の人たちの声が聞こえるだろう」


お陽さまになったお月さまは、しずかに耳をすましてみました。

たしかに聞こえたのです。地上の人たちの声が、はっきりと。


「お月さま。どこへ行ってしまったのです。どうか、わたしたちのところへ帰ってきてください」


それは、たくさんの人たちの願いでもありました。

みんながお月さまをさがしているのです。

お陽さまになったお月さまがすぐ上のお空にいることも知らずに、みんながお月さまをさがしていました。


「どうして、みんな僕をさがしているの?」


お陽さまになったお月さまは、目を丸くしました。


「それは、みんなお月さまを大事にしているからだよ。お月さまのいる夜に、草木は育ち、命がはぐくまれるんだよ。それをみんな知っているから、お月さまをさがしているんだよ」


そのことばを聞いて、お陽さまになったお月さまは、はずかしくなりました。

自分だけが仲間はずれになっていると思いこんで、すねていたのです。


「お陽さまになったお月さま、そろそろ元にもどろうよ。お月さまはひとりぼっちじゃないんだよ。見てごらん」


お陽さまに言われてまわりを見まわすと、お陽さまになったお月さまがながした涙が、きらきらと輝いて光りはじめました。

その光のひとつひとつに顔があり、にぎやかに話しかけていきます。


「これで元気になれる?」

「そうだよ。お陽さまになったお月さまには、僕たちがいっしょにいるんだよ」

「だから、君が明るいと僕たちがみえないじゃないか」


お陽さまになったお月さまはうれしくなりました。

元気がみるみるわいてきました。


「お陽さまになったお月さま、こんど東のお空から昇るときには、お月さまになっていてね。みんな大よろこびするよ」


お陽さまになったお月さまは、お陽さまの言葉を聞いて、お月さまにもどることを決心しました。


「うん。だけど、なんだかはずかしいな」


お月さまは、東のお空へむかいながら、つぶやきました。

ながくお陽さまになっていたから、お月さまとしてお空に昇るのがはずかしかったのです。


「だいじょうぶ。僕たちもいっしょだよ」


きらきら光っているのは、お星さまでした。

お星さまたちといっしょに、

お月さまはようやく暗くなったお空を昇りはじめました。


「おかえりなさい! お月さま!」


地上の人びとはとてもよろこびました。

これで世の中が元どおりになるからです。


そこに一匹のウサギが穴から飛び出してきて、うれしそうにピョンピョンとびはねはじめました。

それを見た人びとは、もっとよろこんで、夜だというのにお祭りをはじめました。


「ああ、はずかしい」


そのお祭りのにぎやかさに、とうとうお月さまは顔を半分かくしてしまいました。

じつはお月さまはとてもはずかしがり屋だったのです。

だから、顔をかくしていないお月さまをみると、地上の人びとはだんごを作り、ススキとあわせてお月さまへささげるようになりました。


お月さまといっしょに光るお星さまたちは、とてもにぎやかで、お月さまはもうひとりぼっちだとはおもわなくなりました。

そして、お月さまはもうお陽さまになりたいとはかんがえなくなりました。



それは遠い遠い、むかしむかしのお話です。





――――――――――――――――――――――――――――――――――

<あとがき>


執筆中の連載の続きを書けばいいのに、すぐ脱線するMIKUMAです。

秋の十五夜お月さまをイメージして書いた童話です。

絵心のあるかた、絵本にしてくださいm(_ _)m


みんなそれぞれ役割があるんですよ~

向き不向きの問題なので、個性は大事にしましょうね。

では、またどこかで…

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