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「あなたのお母様って……まさか……」
おばあさんは目を見開き、希ちゃんをマジマジと見つめた。
「母は朝倉舞ですが……? ご存知ですか?」
「舞さん……」
おばあさんが一瞬よろけ、希ちゃんがその体を支えた。
「大丈夫ですか?」
「……ごめんなさい。大丈夫、大丈夫……。あなたが舞さんの……」
「はい。母をご存じですか? このお店でお花を買ったことがあるのでしょうか?」
「以前に……、お母様とお逢いした事があって……。舞さんにこんなに可愛いお嬢さんがいらっしゃるなんて。全然知らなかったわ。よかった……本当に良かった……。舞さんは元気でいらっしゃるのね」
おばあさんは瞳を潤ませて、涙を浮かべた。
「おばあさん? 大丈夫ですか?」
「ごめんなさいね。歳を取ると涙脆くて。懐かしくて、昔を思い出してしまったの。花束は私からお母様にプレゼントさせて下さい」
「でも……それでは……」
希ちゃんはおばあさんの涙に戸惑っていた。
「いいえ、是非そうさせて下さい」
おばあさんは舞さんのために、お花を選び始めた。ピンクの薔薇と白い霞草。グリーンの葉ものを加え花束にして、ラッピングし可愛いピンクのリボンをつける。
「ピンクの薔薇は、きっとお母様がお好きなはず……」
おばあさんは希ちゃんに花束を手渡す。
「本当に頂いていいんですか? 母は薔薇が大好きなんです。おばあさん、どうも有り難うございます」
希ちゃんは花束を胸に抱え、深々とお辞儀した。
――その花束を見て、フラッシュバックのように映像が頭を過ぎる。
◇◇
【翔吾の記憶】
『ねぇ……翔吾見て。このピンクの薔薇可愛い』
舞はピンクの薔薇に顔を近づける。
『それは四季咲きなんだよ。こっちはジェミニ、こっちは季節や環境で花色が変化するアルフォンスドーテ。フルーティーな香りがするだろう』
『凄い、翔吾は薔薇に詳しいのね』
『一応、花屋の息子だからね。俺、薔薇の花、好きなんだ。お袋はカーネーションが好きなんだけどね』
店頭で花を愛でる二人。
花に囲まれた微笑ましい光景。
『まぁ 舞ちゃん、いらっしゃい』
翔吾の母親が二人に声を掛ける。
『おばさん、こんにちわ。お邪魔してます』
『薔薇が好きなの? 翔吾も好きなのよ。よかったら、それプレゼントするわよ。どちらがいいかしらね。ちょっと待ってね』
翔吾の母親はピンクの薔薇に白の霞草とグリーンの葉ものを加え、手際よくラッピングした。
『リボンもピンクにするわね』
可愛いピンクのリボンが結ばれた薔薇の花束。
『私、ピンク大好きなんです。おばさん! ありがとう』
舞は花束を胸に抱え嬉しそうに笑った。
舞の隣で翔吾が笑っている。
幸せそうな二人……。
◇◇
「お兄さんはどんな色がいいかしら? お母様はどんな花がお好き? ガーベラで花束を作りましょうか?」
俺はおばあさんの声に、我に返る。
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