希side
23
遥と一緒に下校して駅に向かう。
光鈴大学の正門前に赤いスポーツカーが停車していた。その車の横には長身の男性が立っていて、数名の女子に囲まれていた。
達哉君だ……。
達哉君は私達を見つけると、女子に「またね」と手を振る。
相変わらずモテモテだな。
「希、メールの返事をくれないから待ってたんだ。実はね、希の紙飛行機を拾ったんだよ」
「えっ? えっ? た、達哉君が……!? や、やだ。返して!」
「今は持ってない。俺のマンションにある。返すから車に乗って」
「……達哉君のマンション?」
一瞬、困惑したが、あの紙飛行機は英語の答案用紙だし、裏面に自分の気持ちを綴っている。
「どうする?」
「取りに行きます」
「じゃあ、車に乗って。ちゃんと自宅まで送るから。久しぶりにおばさんに逢いたいしね。俺のこと、覚えてるかな」
「……目は見えないけど、ちゃんと声でわかるから。きっと覚えてるよ」
「そうだよね。遥ちゃんごめんね。希を借りるね」
「あっ……はい。希、バイバイ。亀田君、さようなら」
遥は『大丈夫?』って、目で問いかける。私は小さく頷き助手席に乗り込む。数メートル後ろに千春のグループがいたことに気付いたが、達哉君により助手席のドアは閉められた。
千春にまた誤解されたかな。
私と達哉君はただの幼なじみなのに。
今日こそ、達哉君にはっきりと自分の気持ちを伝える。
――私が好きなのは……。
窓の外に視線を向けた時、明日香君が自転車で通り過ぎるのが見えた。
明日香君、私のことをどう思ったかな……。
私のことを、軽い女だと思ったかな……。
ほんの少し心配になった。
達哉君の車はそのまま自由が丘に向かった。車の中で、達哉君はずっと私に話かけてきた。
幼い頃から変わらない。
優しくて、話し上手で、聞き上手。
女友達はたくさんいるけど、それもわかる気がする。
暫くして自由が丘のお洒落なカフェの地下駐車場に、車は停まった。
「俺、今一人暮らししてるんだ。このビルの五階なんだよ」
「……凄い。お洒落な場所に住んでるんだね」
達哉君らしいな。中野にある実家を出て一人暮らしをしてるんだ。
達哉君が運転席から降り、助手席のドアを開けてくれた。
「どうぞ」
紳士的な態度に、少し驚いた。
女子高生の私には、達哉君が凄く大人に思えた。
地下駐車場からエレベーターで一階のカフェに行く。店内はアメリカンな雰囲気で国旗も飾られ、明るくてとてもカラフル。周囲は若いカップルばかりだった。
赤いタータンチェックのテーブルクロス。
席に着くと、達哉君が私を見つめた。その澄んだ瞳にトクンと鼓動が跳ねた。
「どうしても、希と落ち着いて話がしたかったんだ。迷惑だったかな?」
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