18

「お前、まじヤバイよ。 何……本気モード出してんの?」


 田中にからかわれ、カーッと全身が熱くなる。


「すみません。変なこと言って、こいつテンパると頭のネジが飛んじゃうタイプなんです」


 ネジがぶっ飛ぶのは、お前の方だろう。


 俺達は母親に挨拶をして、車に乗り込み出発した。その後、遥ちゃんの家まで迎えに行く。


 賑やかな車中とは、裏腹に……。

 俺はずっと彼女のことが気になっていた。


「そーそー、今朝亀田からメールがあってさ。あいつ、予知能力でもあんのかな? 勿論、今日のことは話してないよ」


 田中が笑いながら話す。


「どうして誘わないの? 私は亀田君の車の助手席がよかったのに。亀田君は運転上手いんだよ。田中君の運転は危なっかしくて話になんないよ」


「マジかよ。俺の助手席は遥ちゃんの指定席なんだけど」


「指定席に座るくらいなら、自由席でいい」


「……は、遥ちゃん、ひでぇな」


 二人の会話を聞きながらも、頭はズキズキと痛む。車には希ちゃんと遥ちゃんもいる。今、幻覚を見るのは辛い。


 頼むから……現れないでくれ。


「明日香君大丈夫? 調子悪いの? 顔色真っ青だよ」


 希ちゃんが俺に声を掛ける。


「こいつさぁ、運動神経は抜群なのに、何故か車に乗るとこうなるんだよな? 車酔いっていうか偏頭痛? よっぽど車と相性悪いんじゃねーの?」


「うっさい。田中、ちゃんと前を見ろ! お前はキョロキョロ落ち着きがなさ過ぎるんだよ。危ないだろ!」


「ちゃんとサイドミラーも確認してんだから。俺はお前と違って運転のセンスはいいから、任せなさいって」


 ――その時……。


「キャー! 田中君、猫っ!」


 突然、遥ちゃんと希ちゃんが叫んだ。

 車の前に仔猫が飛び出し、田中が急ブレーキを踏んだ。


 ――キキイー……!!


 急ブレーキに車が大きく揺れ、俺は車のドアに頭をぶつけた。


 ――グアンと視界が歪み目の前が暗黒に包まれたと同時に、意識が遠退いた……。


 ◇◇


 ――これは……。


 夢なのか……?


 現実なのか……?


 車のミラーに映る顔は……。


 俺じゃない……。


 助手席に座っているのは……。


 さっき逢った……朝倉希の母親……。


 彼女の名前は……。


 名前は……。


 ――『……舞』


 朝倉舞あさくらまい……。


 ミラーに映る顔は……。


 一体、誰なんだ……。


 ――『涼……涼……』


 頭の中で誰かの声がする……。


 俺を呼んでいる声だ……。


『俺の名前は……立花翔吾たちばなしょうご……』


 ――翔吾……?


 記憶の中の俺は……立花翔吾……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る