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 ◇


 数日後、亀田から電話があった。


『希からメールの返信がないんだよな。なぁ涼なんでだろう? こんなこと初めてだよ。さり気なく聞いてみてよ』


 どうして俺がわざわざ亀田と希ちゃんの恋の橋渡しをしなきゃならないんだよ。二人は幼なじみだろう。俺なんかよりよっぽど近い関係のはず。


 訳わかんねぇ。


 希ちゃんはピュアな女の子だ。

 亀田ほどのイケメンなら、俺に頼らなくても自分からデートに誘えばいいだろう。


 俺は……今……。

 気になることがあるんだ。


 ――自動車学校の教習中に脳裏に浮かんだ女性……。


 その女性が一体誰なのか……。

 俺とどう関わりがあるのか……。


 その人が気になって、頭から離れない。


 ◇


 ー翌日、大学構内のカフェー


「田中、どーすんだよ」


「亀田なんかほっとけばいいんだよ。あいつ、自分が微笑むだけで女子はみんな恋に堕ちると思ってんだよ。幼なじみじゃなかったら、希ちゃんもヤバかったかもな。希ちゃんは幼なじみだから、あいつの微笑みに免疫力出来てんだよ。だから相手にしないだけ」


「ワケのわかんない屁理屈だな」


「希ちゃんは、もしかしたら亀田は眼中にないのかも」


「亀田が眼中にない? あんなに親しそうだったのに?」


「そういえば、あの日、希ちゃんはお前のメルアドも聞いてたよな」


「ああ、そうだっけ。社交辞令だよ」


「お前は本当に鈍感だな。希ちゃんは女子高生なんだよ。社交辞令なんて関係ねぇだろう。きっとお前のことが好きなんだよ。希ちゃんのピュアな心を亀田に汚されたくないから、希ちゃんはお前に譲る。俺は遥ちゃんにすっから、お前がメールしてみれば?」


「……バカバカしい。亀田がスルーされてんのに、俺がメールしても相手にされないよ」


「そんなことねーよ。お前も俺もイケメンだし、亀田に負けてねーよ」


「田中君、誰が負けてないんだ?」


 田中が振り返ると、そこには亀田が立っていた。


「ウゲッ!? か、か、亀田君!?」


「ずいぶん探したよ。俺の噂話か? 田中君は俺よりイケメンだもんな」


 突然現れた亀田に、田中はアタフタと慌てている。

 動揺を悟られまいと、ホットコーヒーを掴み一気に喉に流し込み、あまりの熱さに「ヒーヒー」悲鳴を上げた。


「涼、希に電話してくれた?」


「まだしてねーよ。先週逢ったばかりだろ。そんなに心配なら、直接家に行けばいいだろう。幼なじみなんだから」


「それは出来ないよ。おばさんに気を使わせてしまうからな」


「おばさん?」


「希のお母さんだよ。それより、お前と希はどうして知り合ったんだよ? まさか、ナンパか?」


「そんなことしねーよ。彼女、光鈴女子高の校舎から飛ばした紙飛行機を探してたんだ。光鈴大学の敷地内に落ちたらしい」


「あの日、探してたのは紙飛行機だったのか? それが出逢ったきっかけ?」


「そうだよ。よほど大切なものらしい」


「希の大切なものか……。なるほどな」


 亀田はニヤリと口角を引き上げ、カフェを出て行く。亀田の姿を見つけた女子学生が、ワッと亀田に群がった。


 まるでアイドルみたいだな。


「ちぇっ、喉を火傷しちまったぜ。自分がモテることを見せびらかしたいのか。あいつ、女が手に入らないと躍起になるタイプだな。涼、あんなヤツのことほっとけばいい。次のデートは亀田は呼ばねぇかんな。ダブルデートにしようぜ」


「ダブルデート?」


 俺達はまだ出逢ったばかり。

 相手は女子高生だし、俺は亀田のように希ちゃんに特別な感情はまだない。

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