15

 幼なじみの強みからか、亀田は希ちゃんの隣をキープし、俺達が知らない幼稚園や小学生の頃の話で盛り上がっている。希ちゃんは小中高と光鈴女子校だったから亀田と同じ学校ではないが、どうやら中野に住んでいた頃、隣同士だったらしく、希ちゃんが引っ越すまでは頻繁に自宅を行き来するほどの仲だったらしい。


 そのせいか、何をするのも『希』

 どのアトラクションに乗るのも、『希』

 互いを名前で呼ぶことで、俺達とは違うんだと言わんばかりの猛アピールだ。


 遥ちゃんはそれがよほど面白くなかったのか、アトラクションの順番待ちをしている間もずっと不機嫌だった。


「遥ちゃ〜ん、ジェットコースター俺と乗ろう。俺、絶叫系は得意なんだよ。ビビリの涼とは男気が違うからね」


「田中君とジェットコースター? 絶対イヤだ」


「またまたぁ~、イヤはないでしょ? いこいこ」


 亀田は三人用のシートに希ちゃんと一緒に乗り込む。

 田中は遥ちゃんの手を無理矢理掴むとシートに押し込む。


「涼、お前も乗れよ。ビビって泣くなよな」


「泣かねーよ」


 前列に座っていた希ちゃんが、チラッと後ろを振り向く。

 遥ちゃんに『ごめんね』と言わんばかりに、両手を合わせた。


 遥ちゃんは口を尖らせコクりと頷く。

 遥ちゃんだけじゃない、本当は俺も複雑だった。


 ――午後五時、亀田が携帯電話に視線を落とす。


「希、ごめん。俺、バイトがあるから今日は先に帰るね。俺、携帯電話変えたんだ。よかったらメールして」


 亀田はすかさず希ちゃんとメルアドを交換する。希ちゃんはチラチラと俺の方を見ている。


 遥ちゃんはその様子に耐えきれず口を挟んだ。


「亀田君、私にもメルアド教えて下さい!」


「ごめん、時間ないから、希から聞いといて」


 亀田にあっさり交わされ、さらに不機嫌になった。


「遥ちゃん、俺のメルアドなら教えるよ」


「そんなのいらない」


 遥ちゃんが即答する。


「なんで? なんで? 俺のメルアドは無料配布中だよ。メルアドゲットしたら、特典としてもれなく俺とのデート券がついてんだけど」


「うわ、最悪。そんなの絶対にいらないから」


「またまたぁ、ホントは欲しいくせに。特典増やしてもいいよ。俺の助手席の年間パスポート」


「田中君はバカなの? 全然笑えないよ」


 希ちゃんがクスリと笑う。

 口論ばかりしている二人だが、俺にはお似合いのカップルに思えた。


 亀田が先に帰り、俺達は人気のジェットコースターに並ぶ。遥ちゃんは希ちゃんに亀田のメルアドを自分の携帯電話に送ってもらっていた。


「遥ちゃん、俺のメルアドは?」


「だから、いらない。あっ、明日香君、明日香君のメルアド教えて欲しいな~って、希が言ってるよ」


「うわわ、わ、遥ってば」


 希ちゃんは両手をパタつかせ、真っ赤になった。


「俺の? いいよ。でも……希ちゃんは亀田と……」


 希ちゃんは首を左右に振る。


「バカ! 明日香君は何も分かってないんだから。亀田君は幼なじみなんだよ。お兄ちゃんみたいな存在なの」


「……亀田がお兄ちゃん? そうは見えなかったけど」


「希、この二人、話になんないよ。二時間も一緒に並んでらんない。ショップに行こう」


 遥ちゃんは希ちゃんの腕を掴むと、スタスタと列から離れショップに向かう。


「どーすんだよ。せっかく夢の国に来たのに、別行動ってあり? 可愛い二人のことだから、きっとナンパされるぞ。いいのか涼? 希ちゃんがチャラ男にナンパされても」


 田中がアタフタと慌てながら、二人の背中を目で追う。


「チャラ男にナンパ!?」


「阻止するなら、追いかけるしかないな」


 田中はそう言い放つと、一目散に二人を追いかけた。

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