ACT05「伏せなさい、大野歩!」

「どうしたの、大野くん」

 きょとんとする片瀬。

 動揺を隠せない僕とは違って、片瀬は肝が据わっていた。なんでもない、ただのクラスメイトを見ているだけのような無機質な目で片瀬は僕を見ている。

 だが、ふと僕は、もしかしたら彼女は本当に僕のことをただ一緒に登下校するだけのクラスメイトとしてしか見ていないのではないかと思ってしまった。そう思わせるくらいに片瀬の目は冷たかった。けれど、もしそうなら誕生日を覚えていたり、更にはプレゼントをくれたりはしないだろう。少なからずクラスメイト以上、せめて友達くらいの関係ではあるはずだ……と信じたい。

「さて、大野くんと片瀬さんに質問でーす!」

 クラスメイトの女子、黒川くろかわが声を張り上げる。それに呼応するように背後のギャラリー共がきゃっきゃと黄色い声をあげた。僕と片瀬の間に挟まれるような位置で読書をしていたクラス委員の女子生徒、狛江こまえは静かに席を立ち、そっとイベントの邪魔にならないような場所に退避した。ふと流し目に見た狛江は呆れ返っていた。内心で謝罪の言葉を述べるが、よくよく考えてみれば僕だって被害者なのだ。

「それじゃあ聞きますけどー、二人は付き合っていますかー?」

 からかうように間延びした声で、黒川は直球ストレートの質問を投げかけた。

 最悪だ――こういうことは放課後に二人きりで話したかった。ゆっくり、しっかりと。だが同時に早くその答えを聞きたいとも思ってしまった。正直なことを言えば、放課後までなどという時間は待っていられなかった。

「えっと――」

 返答に迷う僕のか細い声を遮るように片瀬は、

「好きよ」

 答えた。

「大野くんのことが好きで好きでたまらない。いつも言いたくて仕方が無かった。そのたった一言を言えないもどかしさがずっと心の奥底で引っかかっていて、凄く苦しかった」

「片瀬……実は、僕も――」

「そう、

 片瀬が付け加えるように言った。

 その不可解な言い回しに、僕だけでなく教室の全員が一斉に声を失った。

「……片瀬?」

「私は違う。私は貴方を殺す」

 突拍子もない言葉なのに、冗談には聞こえなかった。

 僕は目を疑った。片瀬は左腕の腕時計に右手をかざすと、そこからまるで手品か何かのように銀色の銃を取り出した。映画やゲームでよく見るような拳銃とは大きく異なっていて、まるで粘土をこねて作ったかのような滑らかな流線型をしているものだったが、それでも持ち手や引き金、そして躊躇無く向けられた銃口から、それが拳銃であることが容易にわかった。そして、本気で僕を殺そうとしていることも。

「片瀬、これは、どういうことだ……?」

 片瀬は答えなかった。

 と――

「伏せなさい、大野歩!」

 どこからともなく、声が響いた。

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