3・転校生でござる

 その翌日、部活が終わって、みんなが下校し始めたころに朝矢が再びやってきた。


 そして、血だらけの武将となにやら話をしていたようだったのだが、弦音がその内容を知ることもなく彼は帰っていってしまった。いったいどんな話をしたのだろうかと朝矢に問いかけてみたのだが、完全にだんまりを決め込んでいた。


 どういうつもりなのかモヤモヤとしたままで3日が過ぎた朝のホームルームのときのこと。


なぜか、弦音のクラスの担当教師のとなりに朝矢の姿があったのだ。


「今日から実習に入る有川朝矢先生だ」


「どうも、よろしくお願いします」


 朝矢がぎこちない挨拶をしている。


 なぜ?


 教育実習生とはどういうことだろうか?


 弦音は事態を把握できずに戸惑っていた。


「有川先生は、後ろで見ていてください」


「はい」


 朝矢は素直に応じて後ろへと歩いていく。


「似合わねえな」


 いつの間にか弦音の肩に“金太郎”が乗っていた。


「うわっ」


「こら、騒ぐな。杉原」


「すみません」


 先生に注意され、思わず立ち上がった。


 クラスメートたちが笑いだし、恥ずかしそうに座る。


 なぜおまえもそこにいると睨みつけるが、“金太郎”はしてやったりといわんばかりに歯を見せながら笑う。


 その様子を見ていた朝矢がため息を漏らした。


「さて、転校生を紹介します。入ってきなさい」


転校生?


 突然の言葉でクラスメートがざわめいた。


 教室の入り口の扉が開き、制服をきた人物が現れる。


 その姿を見て、弦音はぎょっとした。


「マネ……」


 弦音はそこまで言いかけると、“金太郎”が口をふさいだ。


(マネキンだ。マネキンだよな)


 弦音の目の前にいるのは、よく店等に置かれているマネキン人形そのものだった。

白い肌と動かない目と口。手も固まっている。

 それがまるで操り人形のようにぎこちなく動いているのだ。


 さぞ、皆も驚いているのだろうと周囲を見回してみたが、だれも驚いた様子はない。


「けっこう、イケメンだよね」


「けど、どうしてこんな中途半端な時期に?」


 そんなことを話していた。


 いったい、どういうことだろうか?


「あれは徒人には普通の人間にみえていんだい。でも、能力者には本来の姿に見えるってわけさ」


“金太郎”が自慢げに話す。


弦音は朝矢に視線を向けた。


朝矢は不機嫌そうに“マネキン”を見ている。


わけがわからない。


いったい、なにがどうなっているのだろう。


「さあ、自己紹介を」


「拙者は横谷仁左衛門武村でござる」


(拙者? ござる?)


弦音は混乱する。


「わかんねえ? 弓道場にいた侍だい」


“金太郎”が言った。


「はああああ?」


 弦音は思わず悲鳴を上げて立ち上がった。


 みんなの視線が弦音に向かったのは言うまでもない。


 あんぐりしている弦音を見ていた朝矢は、思わず頭を抱えた。




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