第171話 - 幾重の神髄2 -
麻里は先ほどの幾永転生に加えて、このセクターローテーションの異能で全属性魔法を維持し、魔導球を使いこなしているようだ。異能の複数所持は高度な力量をもつ者のみ可能ということだが、この麻里ならその素養に疑いもない。
「きついな。で、どうするんだユミ? お前もタイマン希望者か?」
「あちらにお聞きなって」
「カベヤマ。同時でも別々でも構わなくてよ? なぜなら私の知る限り、本質の運命がそう容易に変わったことはない」
――朝姫と似たようなことを言いやがる。知る限りだと?
「なら効率のいいほうで行くに決まってる。朝姫、お前は?」
「不参加じゃ。あくまでお前達の私闘。魂を育て、成長を促す働きをする者を討伐する理由がない」
――だろうな。今日も普段着のままだ。いつしかのように、やる気があるなら巫女服を着用するはず。
麻里に至っても、なぜか初めから朝姫が参戦しないことを見越しているかのようにも見て取れる。
「そうか。じゃあ回復をくれないか? 消耗している」
念のため、もう一声かける。
「それも断る。お前のいう効率とやらでいうなら、この場で討たれるのはガード、お前のほうがいいという話になる」
――ついに、そう来たか。朝姫の反逆も頭の片隅に置く必要がある。そしてまだ、祭壇の構築にあたっているというシャーロテの姿がない。芹沢らの再召喚には麻里の力が必要のはずだ。ここで相手している限りは大丈夫そうだが……。
「ついに化けの皮が剥がれましたわね? 朝丞の巫女、あなたも討伐し、ダーリンとハッピーエンドですわ」
――それも困る。
「と、言いたいところですが、ダーリン? その女がなぜ拗ねているか分からないようですわね?」
「?」
「……拗ねてなどおらぬ」
「さすがに女性を置いて、逃げるのは感心しませんわね。傷つきますわ」
「またその話か? なんでだよ。コイツのほうが強いんだぞ」
「そういう問題ではないのですわ。それにしても、朝丞の巫女? 健気にお城でダーリンの迎えを待っていましたの? 残念でしたわね。クスクス」
「そうなの神来社? 意外とかわいいところがあるのねえ。うふふ」
「き、貴様ら~~~、まとめて相手にしてやろうか」
「おい、勝手に状況を複雑にするな。やらないなら黙って見てろ」
「あっはっは、カベヤマ、苦慮しているようね。ならこの哲皇が、教えてあげるわよ!」
「ファイアアロー」「マッドショット」
ドドンッ
火炎とドロの塊が同時に放たれる。ステップで交わし、エルの神槍を具現させる。
「いくぞ……転生者麻里。ここが天王山だ。現実を教えてやる。異常の元凶め、地下での返礼をたっぷりくれてやるぜ」
「不要よ。転覆者カベヤマガード。地下での宣言通り、未来を教えてあげるわ」
――属性球から火と土の魔法を同時に撃ってきやがった。基礎魔法だが、ダブルスペルか。
「マリーヌさん? 仕事なので一応口上を述べますわ。ダーリンの拉致監禁及び逃亡罪で捕縛される気はありまして?」
「一切ないわね」
「恩赦条件を出されています。そちらの把握するドウターの一部を、フォルナンデスに回す気はありませんか?」
「一切ないわね」
「マリーヌ=シュルーサー。国家機密情報漏洩及び著しく国を危機に陥れる可能性のため、討伐いたします」
「ツイストスレイド」
!
360°の包囲から一気に集束するユミ必殺の糸の斬撃が繰り出される。
ビシビシビシッ
しかし6つの球体が回転し、糸を寸断し回避する。
――あれがバリアのような役割をしてやがるな。先にどうにかしないと……。
「ツイストスレイド」
!
ビシビシビシッ
「ツイストスレイド」
ビシビシビシッ
――連発か!
必殺技の三連発に一瞬麻里が顔をしかめる。ユミの指の数、糸10本は、
実際の糸を使っていて、魔法で発生させた糸より数段攻撃力が高い。
断ち切られてもすぐさま次の糸を繰り出し、
ほとんど魔力を消費せずにひたすら攻撃できる。その上、元の魔蔵値も高いため、
実際の糸のみ使った戦闘ではまず消費で枯渇しない。
国内でマーガリン家が魔導士トップクラスとうたわれる所以だ。
麻里があの球体の防御でいくらか魔力を消費しているとすれば、
魔力が枯渇したら負けとなるだろう。
「アクアショット」「エレキティクス」
しかしさすがにそのままやらせはしない。4回目のツイストスレイドの直後、
麻里がユミに水弾と雷を放つ。
――ここだ。
「シッ」 「ブルスレイド」
硬直と見てガードが飛び出す。ユミも糸を放つ。が、
ズガガンッ ドドンッ
目前へ土の壁が盛り上がりガードは進路を絶たれ慌てて停止する。
糸の斬撃も黄の球体を前方へ回し、防御する。
――本人に近づけもしねえ。
ドドンッ
再び麻里から水弾とドロが放たれる。ユミが糸の結界で迎撃する。
「ふんっ」
プチプチン
ユミが訝しみ、糸を交換したようだ。
――ん? この匂い、油類か。 油を含んだ攻撃で、糸に付着させ、斬撃の威力や速度が落ちたから交換したんだ。
ユミは糸の攻撃や防御の際に油分をぶつけられるたびに、糸の交換を強いられる。残りの糸がどれだけあるか不明だが、先ほどより顔色はやや陰る。
「そら、これはどう? マイアスモーク」
麻里が瘴気を放つ。すかさずガードが槍を振る。風圧で吹き飛ばした。
「それはさせねえ」
「あら、いたの? カベヤマ」
「……」
「なら相手してあげるわ。ボルティークス」
雷撃が撃たれるが、槍を突きあげ避雷針にした後、雷を薙ぎ払う。
ズバババン!
一瞬横を見た麻里に容赦なく糸が見舞われる。球体を回し迎撃する。
「ふぅ、やっぱり強いわねえ?」
「強いのはあなたですわマリーヌさん。城では手を抜いていましたのね?」
「手抜きというより、やる気がでなかったのよ。あそこで戦果を出せば、手柄は宰相の陣営に行っちゃうでしょ? さすが宰相、人を使うのが上手いこと」
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