第168話 - 正義と悪のリバーサル3 -

 対峙し合う。


「そうじゃねえが、その意思は俺が引き継ぐ。不良で達成してみせる」


「あの時、躊躇なく君を斬るのが、真の勇者だった。”貴族は見逃せ”。既得権益者に配慮した結果、このザマだ」


 ――そんな関係性があったとはな。俺の出る幕じゃない。コイツらが雌雄を決するのは当然のことだ。


「なぜあいつらが死んで、俺が生き残る? おかしいじゃねえか。何もできない無能は俺のほうだった。貴族というだけで」


「カーリ=ハーゲンが正解だ。経験がないから死んだ。机上で学んだだけの絵空野郎が、適応できなかっただけだ」


「カーリさんの悪口は聞き捨てなりせんわよ?」


 任務で組んでいた際も、まれにオッドはカーリを馬鹿にしていた。だがカーリは特に怒りも反論もしなかった。オッドの環境を知っていたからだろう。このベーリット派3人は付き合いが長い。


「それは友情だろ? ダチのため。俺らが言うようなセリフだ。ユミ=マーガリン。皆必死なんだ。情を捨て、己を殺し、ようやく成果を手にする。お前のような天才は、それをせずとも成果が出せる。決定的に違う」


「さっき神来社が言ったろうが。魂のステージが違う。噛み合うはずもない」


「なぜ差がある? なぜ悔やむ? 魂が成長したがってるからだ。上を目指せと。そんなことして何なる? クソくらえだ。だがそれをおそらく強制する奴がいる。いったい誰だ? そんなクソ野郎には、俺は従わん。不良だからな」


「それが俺の答えだ。どうだ? 神来社大先生よ?」


「合格じゃ。有無は言わぬ。そのまま進み上を目指せ」


 ――オッドめ、業のカラクリについて何か知っているのか?


「クソくらえと言ったはずだ。いつまでも好きに説教垂れてろ。俺は下りた。つまり、末路は決まった。大輔。ここでお前を討伐する。それで一丁上がりだ」


 互いに構え直す。再び集中力を高め合う。


「はぁ!」


 大輔から剣を振った。炎のミドルの攻撃だ。オッドが蹴りを繰り出し迎撃する。

関節外しのしなる蹴りで、炎撃を到達前に打ち消す。

ミドルの応酬となった。


 ――せっかく肩の負傷のアドバンテージがあるのになぜ大輔はミドルで攻める? 炎術を撃ち続けるのは消耗も大きい。狙いがありそうだな。


 ある程度炎撃を行ったところで、剣の炎を消した。

オッドは全て蹴り技で迎撃しきる。

大輔が近接へ駆けていき、斬りこんだ。


 ガキッ


 オッドが両鉤爪で受けるが、わずかにぷるぷると震えが見られた。

炎が無くなり、剣の攻撃力自体は下がっているはずなのに、受けにくそうにする。


 ――? 足か!


 蹴り技を多く出させることにより、足のスタミナを使わせた。

オッドは体術が基本だが、ここまで大輔は魔力を多く消費する技以外には、

あまり体力そのものは使っていない。


 肩がダメな以上、ここからはオッドが足技主体でくると読んで、

先に魔力をほとんど使い切ってでも足のスタミナを奪いに行った。


 数合打ち合うが、オッドが明らかに劣勢となっていた。


「チッ!」

 ――――分かってんだよ! 勇者に結局は勝てねえってことくらいは! だが、その首だけはもらう!


 一歩下がり、鉤爪の間の収納から出した強化丸を丸ごと飲み込む。


 ドンッ バコンッ


 !


 全身の筋肉が飛躍的に肥大した。


「キィッシャー!」


 強烈な関節外しの蹴りが放たれる。

脛当て部分をしっかり剣で受けた大輔だったが、

それでも吹っ飛ばされる。


「ぐあっ!」


 オッドが間髪いれず猛追をする。右主体の鉤爪を次々に繰り出す。

防戦一方の大輔だが、一撃の重さに攻撃へ転じるタイミングが得られない。

すでに大輔の手甲も傷でズタボロだ。


「キア!」


「ごふっ」


 関節外しの前蹴りが胴に入る。再び吹き飛ぶ。

なんとか受け身を取りつつ起き上がり、大輔は転倒はまぬがれた。


「ハァ、ハァ」


 両者共に肩で息をし始めた。


 ビキビキ


「痛ッ!」


 オッドに副作用が出始める。筋肉が軋み始めているが、中和剤は使わない。

押し切るつもりだ。


 大輔も正眼に構え直すが、腕が正しいフォームでキープできず、上下に揺らぐ。

体力的にも大詰めだ。パワーに対抗するために秘剣の炎を出し始めるが、

形がいびつだ。魔力も枯渇し始めている。


「ッ! キィシャアア!」


 オッドが突っ込みを入れる。

右主体の鉤爪の関節外しの鞭のような連撃だ。



 ――――インバース。


 シュン


 大輔のインバースが発動する。攻撃を当てれば、

そっくりそのままダメージがオッドに返る。


 最後の一回の異能を防御面に使用してきた。攻撃を躊躇させ、時間を稼いで、強化丸をやめないオッドの副作用の負荷を延長させよいうという魂胆だろう。


 これを見たオッドは方針転換し、徹底して大輔の剣を狙い始める。

武器破壊だ。このケースは想定していたようだ。

関節外しの鉤爪を右主体で繰り出す。


 瞬間――


 強化された一発が受けきれなくなり、剣が下がってしまう。上半身にスキが出来た。


 ――――インバース発動中だろうが関係ねえ! ここで叩き込む! 返されて俺も終わりだろうがそれでいい!


 容赦なく心臓部へ右の鉤爪を撃ち込んだ。


「くぅ!?」


 大輔が窮地を察する。回避不能のタイミングだ。


 ズドンッ!


「かっ はっ……」


 !!


「な、なにい!?」


 オッド、大輔、共に驚き、目を見開く。

その場に居た他のメンバーもその光景に驚く。


 アンナが、鉤爪に貫かれていた。大輔の前に、飛び込んだ。


「な、なんて、ことを……」


 大輔が言葉を漏らし、堕ちるアンナを抱え、座り込んだ。

オッドは引き抜き、よろよろと後退する、身体が縮み、強化の時間が切れた。

ガクンと崩れ、片膝を突き、片目も開けられず肩で息をする。


 ユミが一瞬麻里に目をやる。少しばかり、口を噛みしめていた。


「大輔……せん、ぱい……、すみ、ません、大事な、戦い、なのに」


「くぅぅ、いいんだ。結局、最後まで僕が弱かった……!」


「私、いつも、邪魔、ばっかり」


「ありがとう。杏奈、ありがとう」


 オッドはもう動けない。立ち上がり剣を振り下ろせば、大輔の勝ちだ。


「杏奈を失ってまで、生きる理由は、ない」


「……ガード。よく見ておくんだ。君がいつも言ってる通り、これが、『現実』だろう。……言われるまでもなく、認めてたよ。初めから」


 ――偶然ラッキーで異界に来たところで、幸せになどなれはしない。


 アンナが残る力でクナイを2本具現させる。1本を大輔に渡した。


「行こう」 「……はい」


 ズズンッ


 2人同時に、突き合った。そして、その場に倒れる。


「……」

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