第133話 - 因縁の勝負2 -

「へっ……ここで降参してもいいんだがな、俺は負けてもお前のオヤジ狩りに付き合うだけだ。もうちょっとやるか」


「……好きにするといい」


「大輔、10年前、なぜこっちに寝返った」


「――!」


 10年前の、異界から現れし恐ろしき存在、大量召喚災害。数百人を超えるドウターが召喚され、暴徒化した。この大輔もその際現れた。ガードもエルも、そして妹のマユも両父親も暴動に巻き込まれ、命を失った。


 大量のドウターは次々に無差別に異能を繰り出し、その詳細も分からず、対処に当たったフォルナンデス側は多くの死者を出した。


 暴動を鎮静化させるにあたり、そのきっかけを作ったのがこの大輔だ。当初は自暴自棄になる同族のドウターに落ち着くように促していた。しかし、それが叶わぬと見るや、剣を抜き、同族を討ちだした。当時は17の少年。


 フォルナンデス側に付いたことが認められ、シュルーサー公爵家に引き取られた。


「……ドウターには、大きく分けて、2種類の者がいる。これは僕個人の意見で、ドウター皆がそう思ってるわけじゃないが」


 勝負中だが、大輔はやや視線を落とし、語りだした。


 負の感情を持つ、ドウターの中でも必死の努力をした結果でも報われなかった者、

そして大した努力もしないのに、ただ現状への不満や恨みのみを発する者がいる。その後者を、大輔自身は容認しないとした。


 暴動を鎮静化する際、所持する異能の種類や表情でその思考を見分け、後者のほうのドウターを率先して討伐したようだ。


「僕も努力してきた、つもりさ。ただ、報われなかった。もう少しだけ力があれば。例え身を削ろうとも。そして思いが形になったのが、この能力さ」


 エルに処刑された若者。ただ無敵になりたいと願って傷つかない無敵の身体を手に入れた。


「血のリプレイで見た。彼も後者だ。貧困を嘆くのはいい」


 だが、何も行動していない。考えていない。日々惰性にバイトしてすごすだけの人生。月々の支払いが重くなり続け、行き詰った。無言のプレッシャーに耐えかねて、身を守りたい、これ以上傷つきたくない、無敵になりたいと願った。


「……」


 魔界に来てから下したドウター達。資料の通りなら拓也や莉子は後者に当たり、エルと対立した翔太は前者に当たるのだろう。


「大輔先生よ、お前の格差是正の考えは? ひとまずそっちの世界の基準でいい。ちなみに俺はまだ分からない。最近知って興味を持ったばかりだ」


「――鳴かぬなら、殺してしまえ。だ」


 はっきり答えた。ユミは是正は出来ない。鳴くまで待っていればいいとした。それとは対極のもの。貧困を生む向上心の無い者、他者の足を引っ張る者は、討伐。つまりはドウター全てを討伐するガードと、約半分は重なる。


 努力は報われるべきであり、その逆もまた、相応の報いを受けるべき。


「元々半分は俺と共有できたわけだ。それであのときの、『キミとは分かりあえるはずだった』か」


「やってもやらなくても報酬は同じ。だから、やらない。これが悪の貧困でなくてなんだ? 僕はその手は認めない」


 自分にも他者へも厳しい者の考えだ。店の中で迷惑じみたガードとセスを咎めたのは伊達に正義感のみではない。


「反発は招くだろう。最後は僕も報われないのかもしれない。だが、この手の行動をとった過去の人物達は皆、”変化”そのものはもたらした」


 大義を成せずともいい。きっかけにさえなれれば。そしてこれまでの行動そのものは、麻里の方針に従っていただけということだ。最終的に、拓也らのようなドウターの現れる、地図の位置の発言者は、討伐しても構わない。そういうことだ。


 立ち上がる。続きを促した。大輔も地面についた剣を正眼に構え直す。ガードはエルの槍を消す。拳のみを構えた。


 開始前は大輔を降参させようが、そのまま討伐してしまおうが問題ないとしていたが、今の話しで考えが変わった。降参させ、共有できる部分はしたほう方がメリットがあると考えた。


 次の攻撃に能力の上乗せが入れば、おそらくお互い命も危うい。思った通り、大輔も剣を消す。互いに拳を構えた。


「シッ!」

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