第127話 - 反撃の軍議 -
「カベヤマ、何かあるか? 向こうから停戦を申し込ませたい、が本音だ。適度に暴れること自体はかまわない」
学んだことで何かできそうなことがあるか?
1.宰相流で圧迫する
2.朝姫&サーペンス流で精神攻撃する
3.絹絵流で経済制裁する
4.エルで焦土にする
4、といいたいところだが、まあエルはやらないだろう。本人の中にも相手を討つ一定の基準がある。もとい過度の虐殺は神格者の資格をはく奪される。
3は難しい。相手の国は人間界でも最も国力がある。
2も無理だ。個別向きのもので、広範囲の相手に適していない。
1だ。
「押し出して、圧力をかけるのはどうでしょう? 短期的でなく、持続性があるものがいいです」
「ふむ、それで根負けさせ、参りました、と言わせる、か」
司馬懿が考えこむ。すさまじいスピードで思考が巡っているようだ。
「よし、エル=スラル、もうひと働きして欲しい。J&J国領内で、なるべく本拠地に近い場所まで行き、そこに教会を立てる」
!?
教会を立てるといういきなりの立案に、一同が驚く。今回のエルの立ち回りで、世界中がエルに恐怖を感じている。そのエルが、教会を建造し、信者を招き、支持者を集める活動をする、というものだ。
エルは何もせず、神格者である”象徴”としてそこに居ればよい。適当な経験者を招いて、教会の運営をさせる。元々、シース・オーとJ&J国の主神ベリシャラは中立で、あまり仲は良くない。目と鼻の先でそれをやられれば、ひとたまりもない。という策だった。
「そんな位置に教会建てさせてくれるー? 邪魔入るでそ?」
フェリシアが当然の疑問をぶつける。
「それならそれでいい。先ほどカベヤマが言った、”暴れる”ことができる」
そして建造をするのは魔族ではない。あくまで神格者、エルだ。人間には心理的に邪魔がしにくい。
他に案も無いので、司馬懿の策でいってみようと決定した。領民の魔族は原則、国境を超えさせない。資材を運ぶのは、人間や獣人、亜人のみで構成する。ガードは軍師補佐となったので、現場指揮をすることになった。後日、エルと共に、ひとまず視察する方針となった。
「ぬ? またか、いい加減うっとおしい。出ろ」
?
席を立って窓から外を見ていた朝姫が何やら言い出す。アスティがまた、朝姫の中で話をしているようだ。
「蛇よ、分離体を出せ。魂を追い出す」
「ほんと横暴よねえ」ニョロ
サーペンスの分離体が体を分ける。朝姫が集中すると、光り輝く魂が、2つ浮かび上がった。1つは分離された蛇に入ったが、もう1つは行き場を失っている。
「なんか、2つ出てきたぞ?」
「知らぬ」
「もう分離は無理よ? どうするの?」ニョロ
「俺の蛇を出してもらっていいです。あまり活躍の機会も無いですし」
ガードから蛇が分離された。浮かび上がったもう一つの魂がそちらへ入る。
「魔界のみなさん。アスティ=ウィル=フォルナンデスです。特になにかするつもりはありませんが、朝姫に追い出されたのでこちらに滞在してもよろしいですか?」ニョロ
姿こそ蛇だが、透き通った聡明な声が聞こえた。
「あー 好きにすればー」
フェリシアが普段通り気だるそうに応じる。皇女でも特に興味はないようだ。
「コラ! 貴様! 殿下になんだ! その態度は!」ニョロ
――誰?
もう一匹の蛇のほうから、男性の声が聞こえた。
「その声、ハンスですか? こちらは厄介になる身です。控えるのはあなたですよ」
「は、ははー」
――ハンス? あ!
ハンス=シュルーサー。フォルナンデスに3つしかない、公爵家の当主で、刺客に暗殺されそうなところを、なかなかやらない本来の犯人に変わって、朝姫に暗殺された。大変残念だった人だ。
政治家発端の名家でありながら近代は閣僚を三代も輩出できておらず、生前の議員時代は、ドウター関連の法案などに絡み、自身が閣僚に入るためだけに、強引な政策を主張した。大輔や麻里の、義父にあたる。
「なんで生きてるんだ。朝姫が殺ったんじゃないのか」
「殺ったから生きてはおらんだろう。ただ、そんなにこの世に未練があったのか」
「オッサン、そんなに大臣とか宰相になりたかったのか?」
「貴様! 平民が公爵になんたる物言いだ! そもそも恨みもないのに殺すな!」
といいつつ、そこまで怒ってもいないような印象でどちらかと言えば苦情に近い。
政治家としての活動に行き詰まり、限界を感じていたのかもしれない。
「ハンス。死人のあなたに爵位などありません。私も皇女を名乗っていませんよ」
「は、ははー」ニョロ
「ふむ、お前は楽器が得意なのか?」
!
朝姫が星を詠んだようだ。何の未練で残ったのかを探ったのだろう。一瞬驚いたようだが、国賓で滞在していた朝姫を思い出したのだろう。少し間をおいて、話し出した。会議は終了と思い、興味の無い面々は退室していく。
「わ、ワシは、バイオリンを嗜むのだ」
シュルーサー公爵家に生まれ、一人っ子として育った。貴族としての高度な教育を受けたが、それは初めから、全て政治家になるためのもの。結局父親も議員止まりで、入閣は叶わなかった。両親からの期待も高く、徹底して勉強させられた。
しかしハンスは習い事で行ったバイオリンに強く惹かれた。中、高、最高等部と、
音楽部に所属し、最高等部では全国オーケストラで優勝を果たした。
「しかし、両親からはたった一言の賛辞で仕舞い」
すぐさま、音楽はここまで、以後は政治学に専念せよと言われた。未練があったが、家の教えも理解していた。それからは気晴らしや接待で多少演奏する程度、取りつかれたように政治の勉強のみを行う人生だった。
「ワシは世界に挑戦したかったのだ。バイオリンで。自信もあった」
「お前のその道を詠むに、力量ではノヴァルティアフィルハーモニーへの入団も夢ではなさそうじゃ」
「な、なんだと! くっ くぅぅ……」
蛇の姿ながら非常に悔しそうにしていた。おそらく世界最高峰の楽団だろう。閣僚に入るよりも叶えたい夢だったに違いない。実力面でも朝姫のお墨付きを得られるほどではあるようだ。
「ハンス。こうして偶然にも魂が残ったのです。業を積んでみるのもよいでしょう」
「は、はは」
アスティが諭す。しかしこの世に魂だけが残れば基本悪霊怨霊扱いだ。討伐の対象になる。そもそもバイオリンをやるのに手も足も無い。厳しい道のりのようだ。
サーペンスの家の蛇が増えた。アスティが分離されたが、能力は奪われたまま。朝姫が所持しているようだ。
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