第72話 - 勇者vs蛇王2 -

「ガード、拓也の討伐はあなたの仕事だけど、娘はいいのよね?」


「え?」


「ガードは格上を警戒しているようだけど、別に勇者だろうがチートだろうが、本人を直接倒さなくたって、いくらでも勝ちようはあるのよ? 特に人間は必ずつるむからねえ」


 ズボボンッ!


 愛の足元からも蛇が2本現れる。ドーム状に築いていた結界だが地面以下へは対応していなかった。まったく拓也と同じ展開で、縛り上げられてしまう。結界が維持できなくなり消失する。周囲の蛇があっという間に取り囲んだ。


「きゃああ!」


「愛!」


「ウフフフフ。ほんと人間は頭上と足元に弱いわね」


 サーペンスは邪悪な笑みを浮かべている。


「サーペンスさん! それはダメです! 表紙のタグをみてください!」


「……なにそのルール。仕方ないわねえ。だから貧困なのよ。覚えておきなさい。規制は次なる成長への妨げにしかならない」


 キッ! パキパキッ


 サーペンスのすさまじい魔力が集中した瞬間、愛を睨みつける。すると愛の足元から、石化が始まった。徐々に上に向かって、石化が進む。


「解ッ!」


 愛が石化解除を詠唱するが、効果がない。


「無駄よ。四式でも解除はできない。されたこともない。神来社ならできるかもねえ。おっとその神来社の頼みを済ませようかね」


「?」


「た、拓也!」


 じきに愛の石化が、首から上を残して止まる。わざと頭部だけ残したようにも見えた。


「くそっ なにをしている! やめろ!」


「やめろと言われてやめる……、のもいいわねえ」


 サーペンスから出ている蛇が一気に撤収する。拓也の拘束も解かれた。


 ドンッ バコンッ


 シュルシュルと蛇が勢いよく撤収していく中、反動で愛の右手と左足が衝撃で欠けたり割れたりして砕ける。石化しているため愛自身に痛覚はない。


 ――毒で弱っているとはいえ、拓也の拘束まで解いて大丈夫なのか?


 すぐに拓也は武器を取ってこちらに向き直り、剣を構える。


「ああ、私を倒せば、その娘の石化は治るわよ。がんばってね」


「もう油断はしない。叩き斬る」


「え、そうなの? なかなか酷ねえ。娘の手と足は取れてるのに、石化を戻すなんて」


 ――!


「な、なんだと!?」


 拓也、愛、ガードの3人が驚く。


 ――石化が戻っても、現状のままってわけか! 愛は手と足が飛んだ状態、できるわけがない!


「ん? 何もしないの? あらよっと」


 ズガンッ


 サーペンスが蛇を1本放つ。愛の心臓部分をくり貫いて貫通する。


「や、やめろー!」


 拓也は駆けて愛の前に立ちふさがる、これ以上の石化の破壊をさせない気だ。しかしそこに立ったところで、何も解決しない。


「あ、やめるって言ったのについやっちゃったわ」


 ”蛇王の睨み”。受けてしまうと、相当の準備が無ければ石化し、ほぼ詰みに近い。


 相手が勇者だろうが、チートだろうが、本人を倒す必要はない。サーペンスは先ほどの言動を実行している。本人が守りたいものを攻めるだけで、無力化できる。ワザとガードにそれ見せつけている。


「勇者だろうと人間は一人では生きられない。不憫よねえ。魔族はあまり気にしないけど」


「拓也、もういい、逃げて!」


 愛が懇願する。当然、そんなことできるわけがないなどの押し問答が始まる。サーペンスがガードに視線よこす。意図をくみ取る。


「逃げろよ拓也。お前はもともとそうだっただろ? それともピンチだから、誰かが土壇場で助けに来るのがヒーローか?」


 ガードが挑発する。出方を見てから、確実に叩けばいい。僻地とはいえ、戦闘開始から時間がたつ。本当に援軍もありえる。周囲は最大限警戒する。


「……分かった。愛――」


「愛を戻してくれ、変わりに俺はどうなってもいい、か? 却下だ」


 圧迫宰相流が決まる。かなり気分がいい。


 ――!


「ならどうしたい! 攻めてこないんだから、目的があるんだろ!」


 やや自棄になりつつある拓也、目的も何も、そちらから名刺の受け取りすら拒否したのだから今さら取り合わない。調査がダメなら初営業するつもりだったが、そんな展開でもなくなる。降参らしいですよ? とサーペンスに振る。


 ニョキ ニョキ


 拓也の目の前に、全く同じ姿の2本の蛇が現れる。腕くらいのサイズだ。


「その2本の蛇。片方は再生。愛の砕けた石を元に戻す。もう片方は解除。直ちに石化を解除する。意味は、分かるわね?」


 !


「拓也、あなたがどちらかの蛇の首を刎ねなさい。愛が生きるも死ぬもあなたしだい。再生か、解除か。どちらかの効果が、得られる」


「な、なんだと!」

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