第66話 - 魔ロワ -
-翌日-
起床し違和感を覚えるが魔界に来たことを実感する。長屋から出る。便所すら外の共同用だ。部屋こそかろうじて与えられたものの、とにかく勝手が分からない。
「ん? あれは……」
ゼーブル=フォーグ(本物)がいた。以前、エルの家に営業に来ていたところ、ガードが無理やり名刺を奪った魔族ガーゴイルの営業課長だ。ガードはこの名刺を使って、身分を詐称し、公人で副業不可でありながら、斡旋所で不正に仕事を受けていた。
「おい、聞きたいんだが、どこでメシを食えばいい?」
「あん? お前は、たしかフォルナンデスの兵士、なぜここに」
「訳あって、魔界に来た。今はそこの長屋に住んでる。でもって仕事を探してる」
「……悪いがうちの営業は足りている。メシはそこで食え」
簡単に魔界での生活の説明を受ける。滞在が認められた者のみ、最低限の配給があるようだ。ただし、この配給の常連利用者は、有事の際に戦の先方隊に問答無用で配置されるらしい。
「魔ロワにいくか」
魔界であろうと定職を持つことが健全であるようだ。昨日フェリシアに渡された紙を頼りに外出する。
・・・
地図に則り、街道を進んでいく。当然のようにあらゆる種族の魔族と行き交う。ガードを見ても特に反応を示さない。ごく稀に高田のような人間も含まれていた。訳あって魔界に身を寄せたのだろう。
じきにそれらしき建物が見えてくる。民衆が多く出入りしているため目立っていた。外で紙を見ながら、頭を抱えている者もいる。さっそく入った。受付の魔族に話しかける。
「仕事を探している。ここは登録制か?」
「初めてかい? んじゃ、履歴書出してね。適正から絞っていくつか割り出すよ」
メガネデブの茶色い魔族のオッサンがいた。紙を受け取る。記入していった。
[履歴書]
ガード=カベヤマ 21歳
王立偏差値35高等部卒
二等兵就任
一等兵昇進
以上。
完璧だ。希望職種は防衛兵。能力は書かなくていいだろう。仕事で役立つとも思えない。アピールポイントを適当に書いておいた。提出する。
数分後。
「ガード=カベヤマさんー」
「はい。……どうだ? 俺に合った異常の少ない安定職はあったか?」
「えーと、砦の先方隊だけだねえ。どうします?」
……それ一番ダメなやつだろ。ドンパチやってすぐ死ねと?
自分で探すことにした。それっぽい会社をいくつか上げて資料化する。順次面接を申し込んだ。翌日から早速面接に行く。衛兵で鍛えられた上官との対応には自信がある。隣の施設に会社の担当者が来るので、日にいくつかの面談が出来る。
-1社目-
魔族2人を対面に、イスに座った。
「えー、ガード=カベヤマさん、あー本日はあいにく曇りですねえ」
「異常ありませんね」
「数多くある中で、なぜこの仕事をお選びに?」
「やたら少ないが安定している基本給が決め手であります」
「……」
「1分で簡単に自己紹介をお願いできますか?」
「履歴書の記載以外に異常はありません」
「……以前の職場であなたが評価されていた点は?」
「何も異常を起こさなかったことです」
「同僚からのあなたの評価は?」
「異常ありません」
・・・
「質問は以上です。後日結果をお送りします」
――まあ、完璧だろう。もう数個受けるか。
-2社目-
「はあ、君みたいのが、よく当社を受ける気になったね?」
履歴書を見ながらタメ息をついている。
――圧迫系か。宰相のマネで返り討ちにするか。
「御社に魅力を感じたのです」
「どのような魅力を?」
「分かっているのに質問をするな」
「……」
「いや、分からないから」
「自社の魅力が分からないのに質問をしているのか? それが貴様の面接か?」
「……」
「ほかの会社のほうが良くないですか?」
「なぜそう思う?」
「いやこちらが聞いてるんだけど?」
「それで解決するのか? 貴様の甘えで良し悪しを判断するな」
「……」
「はあ、そんなのじゃ、どこにも受からないと思うよ?」
「するとどうなる?」
「どうなるって……君の問題じゃないの?」
「そうか。ならばそれはお前が悪い。時間を無駄にしたのだから」
「無駄になったのは君のせいなんだけど」
「責任転換か。なぜそこに拘る。増える税金と住宅ローンがきついのか?」
「……」
「いいだろう。40点、不合格だ。会社に貢献しているとは、言えんな?」
「窓際に座ることを良しとしてきた、お前が、だ」
適当に言って退室した。
――まあ俺の勝ちだろう。いや、勝ってどうする? 必要なのは採用だ。
気を取り直して3社目に行く。
(ガードはスキル、圧迫宰相を習得した)
-3社目-
「異界からの招かれざる者、ドウターをどう思いますか?」
「許せませんね。出会った瞬間討伐するであります」
「中には幼い子供のドウターもいるわけですが、ドウターはドウターで関係ないと思うんですが、ドウターを分別する必要があると思いますか? 現場の効率面の悪化もあると思うんですが」
――いるよな。こういう人。答えが一個しか無くなるやつ。
「ドウターは出会った瞬間討伐するであります」
「目の前に現れたドウターがあなた好みの美女で、あなたに好意をもっていたらどうしますか?
「ドウターは出会った瞬間討伐するであります」
「すでに、この世に滞在して生活しているドウター達をどう思いますか?」
「全て居なくなればいいと思うであります」
ガタッ
面接官がふいに席を立って、こちらに来る。目の前で手を差し出してきた。ガッシリ握手を交わし、面接を終えた。文字通り、手ごたえがあった。採用だろう。かなり偏った思考の会社な感は否めないが。
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