第35話 - 変質者 -

 空き家で療養したガードとエスティナは先日の一件を意見交換していた。


「分からないことだらけだ」


「……そう、ですね」


 司書のカーリは明らかにドウターを召喚していたように見えた。そこへ、オッドが現れ、カーリの行動の支援を行った。


「カーリの性は、ベーリットと同じハーゲン。髪の色も紫色調で魔力の気質も似ている。関連はあるとみていい」


 施設はドウターの発現を誘発しやすいことから国策で取り潰しが決まった。しかし、ドウターの召喚を行っているなら、負の感情を集めやすいあの施設を取り潰すはずがない。


「施設を壊したいのは別の勢力なのか?」


「……斡旋の依頼人は基本的に守秘となっていて分かりません」


 ――あたりまえだぜ。でなきゃ俺もエロ本探索の依頼なんか出してない。


「そうだとすると、エスティナ、お前のやろうとしてることは、ベーリット派の手助けになるぞ。そもそもベーリット派に賛成か、反対かどうかも知らないが」


「……そう、ですね。やはりまだ、情報不足です」


・・・


 ひとまず、情報収集ということでまた酒場に行ってみることにする。途中エスティナが少女に捕まってしまった。


「おねえちゃん、この前はありがとう、これあげる」


 空き地の草で作った花かんむり、のようだがほとんど花がなく、草かんむり状態だった。少女の姿は言わずもがなみすぼらしい。例によってエスティナに施しを受けた身寄りのない孤児だろう。


「ふふ、ありがとう」


 談笑をし始めたのでエスティナを置き、先に行くことにした。

 

 カラーン


 酒場に入る。と、普通にオッドがいた。向こうも振り向き視線があう。


 ――昨日の今日だ、やりにくいな。


「ん? おいガード、こっちにこい」


 全くお構いなしに普通に呼ばれた。警戒する。頬杖をつき普通に指2本で不安定にグラスを転がしている。


「キッハッハ、店で暴れやしねえよ。正直、お前にとって得だぜ? 情報をやる」


・・・


 周囲もあまりにも普通なためもう成り行きに任せる。警戒は解かず、オッドの横のカウンターへ行った。


「なるほど、あくまで仕事主義、それ以外は普通ってわけか。これが南区。昨日の仲間と今日戦うこともあるわけだ」


「いや? ほとんどねえが? 依頼はちゃんと一貫性を持って受けてる。信用が無きゃ、いい仕事はこない」


「なら教えろ、お前はベーリット派か?」


「キハハ、一応そういうことになるが、俺は俺の考えで行動している。ババアの飼い犬じゃねえ」


「……」


 あっさり認めた。その程度は情報でも何でもないということだろうか。しかしこれで、明言こそしていないが、施設取り壊しはベーリット派の意向とみて間違いない。そしてなんらかの不明勢力がそれに抵抗している。ではなぜ壊すのか。


「当初から俺に絡んでくるな? それはなんでだ?」


「別に大したことじゃねえ。俺も異魂を注入された同族ってだけだ」


 !


 ――あの関節を自由自在に外す能力、やはり異魂由来か。だがそれだけでは、まだ理由としては弱い。


「あの日、死んで皇女アスティから異魂の移植を受けたのは3人。俺、お前、エル=スラルだ。俺らは歳も同じ」


 ガードの能力、”オプションプット&コール”。


 エルの能力、”無尽蔵の魔力ファンディングオペレーション”。


 オッドの能力、”関節外しリバーサル”。


 !


 ――そういう、ことか。あの日は混乱を極めた。誰が誰に恨みを持っていても全く不思議じゃない。


「アスティ様について知ってることを教えてもらおうか」


「情報をやるとは言ったが、ほんとに遠慮がねえな」


 オッドは指をさす。これ以上は酒くらいおごれということだ。店主にオーダーした。受注を確認すると話し出す。


「昔のことは知らん。だが、今現在、皇女は病に侵されていると言われている。その証拠に、近年異魂の移植は一切行ってねえ」


 ――病いだと?


 カラーン


 エスティナが入ってくる。シスター服が、相変わらず場違い感がすさまじいが周囲は反応すらしない。


「おっと、本妻の到着か、じゃあ俺は帰るぜ」


 酒をテイクアウトにするように指示しだす。


「追加料金は払わないぞ」


「キハハ、ガード、今晩も同じ場所へ来い。見るほうが早い」


 言うとエスティナと入れ替わりで出ていく。


・・・


「オッドと話していたようですね。しかし驚きました」


 昨日やりあって普通に話していた様子にやや驚いていた。完全にこちらの流儀に染まってきたようだ。


「ああ、そこそこ情報を貰えた。出よう」


 店を出る前に獣人が集まるテーブルからの声が聞こえた。


「俺は手傷でしばらく戦えねえからな。この『失われたエロ本』の斡旋を取ったわ」


 !?


 ――頼むぞ。雑に扱うなよ。


「はぁ、世の中ふざけた人間がいるものですね。依頼主をみたら即、頭を叩き割るのですが」


・・・


 店を出て、先ほどのオッドとの話を伝える。その後、エスティナは買い物へ、ガードは斡旋所へ向かった。


 ――本人で行くときと、ゼーブル=フォーグで行くとき、ちょっと身なりを気を付けるか。


 斡旋所へ到着し、新たな貴族からの依頼が発生していないか、タイトルと内容を確認していく。掲示板にガードへの呼び出し要請があった。ゼーブル=フォーグでなくガード本人のほうだ。紙を取って受付へ向かう。


「あーカベヤマさん? 斡旋の受注主から要望があってね。普段急ぎで使わない衣類を一着貸して欲しいそうだ。匂いで依頼品を辿りたいんだと」


 ――マジかあの獣人、有能すぎるだろう。


「す、すぐに渡す」


 善は急げだ。ガードはシャツを脱いで職員に渡した。そのまま裸で帰宅した。


 そして――


 帰宅しエスティナに叩き伏せられた。


・・・


-夜-


 オッドからの呼び出し指定位置、前日交戦した場所へと向かうため準備していた。


「別に行くのは俺一人でいいが」


「私も夜にこの変質者と出かけたくはありませんが、この目で実際に見ておきたいのです」


「変質者をか?」


 無言でハンマーを出そうとするエスティナを何とか抑える。


・・・


「ぎやああああ!」


 !


 叫びが聞こえた。ガードのものではない。


「もう始まっているのかも、急ぎましょう!」

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