第65話 守護者の意地

 それは一瞬の出来事だった。


 3度、電光を纏った遠距離斬撃が連続で襲い掛かる。


 並みのシールドを簡単に両断し、敵をまとめて斬り裂いて行く。


 これまで度々しか放たれなかった〈電光撃月〉は、敵の分析において、召喚兵を殲滅するための秘密兵器であり連続では放たれない、というものだった。その予想がここに来て覆され、受けることが難しい脅威の斬撃が敵を殲滅していく。


 そもそもなぜ倭ではこんなにも刀による攻撃が脅威とされるのか。


 耐テイル攻撃用障壁、よくシールドと呼ばれるものだが、これは一般的に、光弾をはじめとする遠距離攻撃に特化して防御力を持つ。


 近距離攻撃比べ多角的かつ継続的に、人間の対処可能な攻撃の量を簡単に実現できるため、それを受け止めるだけの盾が戦闘には必須だったのだ。


 その一方で、近接攻撃にはめっぽう弱くすぐに割られてしまうことが多い。


 倭は元々刀での戦いを歴史の中で多くやってきたこともあり、遠距離攻撃の技術で他国と競うのではなく、刀を使った技術に特化して、倭独特な戦い方を確立させてきた。


 そしてその道の末に誕生したのが〈撃月〉や〈透化〉などの、いかに刀の斬撃を当てるかを極めた戦闘支援用のデータだった。


 特に〈撃月〉は、遠距離でありながらシールドでは対処しきれない近接攻撃と同じ効果を持っていて、かつ誰でも使える一般武器のため、海外からも脅威と判定され、他の国が倭に安易に攻めてこない要因の一つとして数えられている。


 ここまで語れば、その攻撃をより高威力、広範囲とした〈電光撃月〉がいかに強力な技かは分かるだろう。


 その殲滅兵器が一気に連続で放たれて、召喚兵の全滅を超えて敵軍の殲滅に使われ始めた。


 断末魔が数々あがる。


 東堂はそれを無視して、刀を振り続ける。〈電光撃月〉は一撃は最大値2100しかない中で、150ほどの保有テイルを使用してしまう。


 これを一度に3発となれば450。最大保有量の4分の1に迫るコストであり、本来は連続で使用すれば後で、テイル不足になってしまう。それでも、東堂は今回に限っては後程のリスクを考えず、目の前の敵を排除するために使う。


 それにより一気に敵の数は減っていった。


「すげえ……」


 その様子を後ろから見ていたレオン、そして周りのアジトメンバーは東堂の圧倒的ともいえる攻撃に感嘆。


 吉里は冷静にその攻撃を評した。


「智位の戦闘員などそんなものです。〈人〉は確かに人間より優れていますが、組織の一員ともなれば上から与えられた役割に縛られる。修業を怠れば、私たち人間でも倒せるような脆い戦闘員になりうる」


「そうなのか」


「もし、全員が全員、後ろで夢原さんが戦っているような幹部クラスの戦闘ができるなら……私たち反逆軍は早々に滅びていますよ。使える武器の格が違いますからね」


 吉里は続けざまに後方から来た敵の援軍に先制攻撃を開始する。


「東堂さん、私たちで先制します。相手がシールドを張ったタイミングで攻撃を」


「了解」


 これまでの3倍にも迫る光弾を自身の周りに展開して、それを一気に撃ち放つ。レオンたちが全員で放った攻撃と同等の高火力の範囲射撃をたった1人で実現した。


 相手は光弾の雨ともとれる、〈蛇曲〉によって予測不能な軌道を描く攻撃をシールドで防御する。


「続けてください」


 レオンたちに吉里が指示。


「はい。みんな行くぞ!」


 持っている銃によって吉里の攻撃の後をフォローする形で攻撃を加えた。


 相手が防御に入ったことを確認して東堂が再び〈電光撃月〉を放った。


 再び相手はシールドを割って迫る遠距離斬撃に為す術もなく全滅。


「東堂さん、まだ大丈夫ですか? また援軍が」


「ダメだったら言う。吉里、お前こそ大丈夫なのか」


「お気になさらず。ならこの方法で敵を減らしていきましょう」


「ああ」


 大橋の戦いは、東堂と吉里の後を考えない全力攻撃で劣勢が覆りつつあった。






 幹部の伝と夢原の戦いはいよいよ終盤に差し掛かっていたと言っていい。


 夢原のテイルは最後の5分の1を切っている。後戦えるのは1分ほどしかないだろう。骨折はないものの、体は痛みで徐々に動きが鈍くなっていることに違いはない。


 対して伝も少し焦りを感じていた。


 それは大橋での戦いに大きな動きがあることを把握していたからだ。


(ふむ……このまま戦っていても戻ることには戻れる。焦ることはないが、どうも、それでは敵が先に橋の制圧を完了しそうな勢いだな)


 夢原が距離を取ることを優先して、光弾と風船で時間稼ぎを多めにし始めたことが、それを証明している。


 その中で、夢原は勝つことを諦めたわけではなかった。


(橋の戦いは大きく動いた。なら、こっちもそろそろ勝負を仕掛ける時ね)


 再び風船を数多く膨らませる。


 その中の1つは他の者より高く飛び、この辺り一帯に妙な光を放ち、夢原と伝を変な色で照らしていた。


 その理由はすぐに判明する。


 夢原は〈透化〉を一瞬使い、自分の体を不可視にすると、風船を核として、風船に重なるように自分の姿を映し出す。


「なるほど……この光は」


 立体映像と生身との、見た目の違いをごまかすための光。これにより、本物の夢原が出てきても、立体映像と見分けがつかない。


(〈白視〉で見分けがつかないな……この光はテイルによってできているものか。それに照らされている状態では、夢原本人もテイルに包まれている状態だ。目視による見分けはするだけ無駄だな。レーダーで十分だ)


 伝は判別手段である〈白視〉を切った。そして夢原の立体映像と、その中に紛れているだろう夢原が一気に敵に襲い掛かる。


(本物は1つだだけだが、風船にも罠がある。だが)


 伝は自分の後ろに居る巨人を用いて風船をとにかく割っていくことに決める。


 拳による乱舞により、次々と夢原の偽者は消え風船は割られていく。その中から刃が飛び出ても巨人に刃は通らない。


(残り15)

 夢原はまだ来ない。

(残り10)

 夢原はまだ攻めてこない。

(残り5。そろそろだな)

 風船の数はもう尽きようとしている。


 その瞬間、上の光を放っている風船を捉え、遠距離攻撃を放ち風船を割った。


(レーダーの反応が減らない……? 別の方法で体をテイルで覆っているのか)


 逃げたならばそれでいい。いずれにせよ、後ろの巨人のテイル吸収を行える半径は5キロもある。今の夢原に逃げ場はない。


 そう思い、残りの風船を一気に処理する。


 すべての罠の攻撃を回避して風船は残り1つ。


 そしてそれこそが、数々の偽物に紛れた本人。


 その本人に直接止めを刺すべく、伝は拳を突き出した。


 ――それが偽者であることも知らずに。


 〈白視〉の使用者の瞳は色が変わる。その様子が見られないことを確認していた夢原は、相手がレーダーを使って判別を行うつもりなことを見てとった。


 レーダーを騙す戦闘技術ならば存在する。


 昇が工場跡に向かうときや、天使兵の監視をかいくぐるときに〈透化〉と共に使ったデータ、相手のレーダーに自分の反応を映らなくする〈霧中〉。


 夢原は〈透化〉と共にそれを使い、相手の背後に迫っていた。


 しかし。


 伝の巨人が突如反転する。


 そして上から来る、木の幹とも勘違いしそうな両腕の潰しを剣で受け止めた。


「ぐ……!」


「やはりな」


 巨人の腕は2本の刀で受け止めたものの、それ以上夢原が動かせる部位はない。


 伝は自らの拳に勢いをつけ、いよいよ、夢原に自らの手で止めを刺そうとした。


「風船に紛れ込んでいるという印象を与えて、実際は背後からの攻撃か」


 幹部筆頭は夢原の腹を抉り貫くだろう拳を突き出す。


「お前如きに後れを取らぬ」


 ――直前のこと。


 夢原と幹部筆頭の間に風船が突如膨らむ。


 突き出された拳は、急膨張した風船に寄って腕を押され軌道を変えられる。拳の周りに纏っていた破砕エネルギーにより、夢原の左腕と左腹が削られたが致命傷にはならなかった。


 そして拳の軌道を逸らした風船は、中から出ようとする攻撃によって破裂した。


「な……!」


「とどめの詰めが甘かったわね。ジジイ」


 紫の光の刃が、ハリネズミの針のように風船の中から現れる。その矛先すべては当然、敵に向けられていた。


「がぁあぁぁ……!」


「最期の瞬間まで反撃を警戒しないと。反逆軍では当然の教えよ? 最後の最後に人間が相手だという慢心が出たわね」


 後ろの巨人は消え、その場で刃が刺さったまま崩れおちた。


 夢原はよろめきながらも、橋で戦っている皆に処理が完了した旨の連絡を入れた。

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