第52話 最後の夜

 昇以外の全員が東堂の指示で準備のために部屋の外へと駆け出していく。


 部屋に残ったのは、夢原、昇、明奈、季里の4人だった。


「まさか……こんなことになるとはねー」


 夢原は昇に向けてエールを送るためにわざわざその場に残っていた。


「最初はあんなことを言ってごめんね。昇君。お互い、最後の決戦、頑張りましょうね」


「はい。もちろん」


「壮志郎も内也も、私も。あなたみたいな熱い男、気に入ってるわ。どうか、ここでの会話が最期にならないようにね」


 夢原も会議室を後にする。


 明奈は緊張が解け大きく深呼吸をした。


「明奈、いろいろ助かったよ」


「いいや。良かったじゃないか。結果的にここまでは上手くいってる」


「ああ。後は俺達が頑張らないとな。季里も、最後まで頼むな」


 その目は完全に信頼で満ちている。


 季里は期待を自分に向けている昇の顔を見て、

(この私を信じるとか……馬鹿な人間)

 彼が頭のおかしい男であることを再認識した。


 


 昇は仮眠をとっていた。


 浅い眠りにおいては夢を見る条件が整うらしい。


 昇が見ていたのは、最初、季里と戦う前に見たあの幸せな頃の光景。


 林太郎、如月。親友がいた。


 恩師がいた。


 真紀、将来を約束した愛する人がいた。


「林太郎、如月、真紀。今、助けにいくから」


 夢の中の存在を前に昇は誓う。






 季里はいち早く隠し通路を歩いていた。


 この先は運命の分かれ道。


 自分の今後の身の振り方を考える。


 今、自分がようやく本来在るべき場所へと戻ろうとしていると考えると。


(……初めてね。こんな、戦いに興奮しているのは)


 この先、あの男が顔を歪ませているところを見るのが、楽しみでたまらなかった。






 明奈は左腕をさすりながらデバイス研究室で準備をしていた。


(やはり力が入りにくい。完治は無理だったか)


 以前の戦いで受けてしまった傷を抱えての戦いになる。不安はどうしてもぬぐえない。


 しかし、それは自分のことではない。


 明奈が何より怖かったのは、昇を勝たせることができるかどうか。


 もしも、自分のせいでまた彼を失うことがあれば、今度はその絶望に耐えきれないだろう。


 最初は自己満足から始めた戦いだったが、今は彼に惹かれ、彼をどうしても勝たせたいと思った。


 自分で勝手に思っているだけだが、自分はあの頂きに挑む馬鹿な挑戦者の仲間だという自負が、明奈にはあったからだ。






 昇が目覚めたのは0時。1時半まではまだ暫しの時間があり、昂っている心を冷静にしようと廊下を歩く。


 途中で内也に遭遇した。彼も昇と同じでこの後の作戦を前に落ち着くことができないと話す。


 偶然顔をあわせたのも何かの縁だと思い、少し話すことになった。


 少し眼鏡が曇り、それをふく内也に対し、昇はいま、反逆軍に対する評価を素直に述べた。


「すごいよな。お前らは。俺のダチが憧れるのもわかるぜ」


「なんだ。ご機嫌とりはいらないぞ」


「そんなつもりはねえよ。ただ、助けてほしい人間がいたら全力でそれに応える。たとえ命が危うくとも。まるでヒーローみたいだ」


「ヒーロー……くく」


 唐突に内也が失笑したのを見て、昇は何か変なことを言ってしまったかと己の発言を省みる。


 内也は昇に非はないとした上で失笑の理由を隠さなかった。


「俺の相棒と同じことを言っててついな。反逆軍はそうきれいな組織じゃないのに」


「そうかぁー?」


「……ああ、そうだ。せっかくの機会だ。少し昔話をしようか。どうせ話のネタもつきはじめた頃だろう」


「あ、はははは」


 照れ笑いをした昇をみて愉快な気分になり、内也は話し始める。


「俺の相棒は反逆軍に入るときの話なんだけどな」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る