第40話 天使兵迎撃戦(後)

 4体の〈天使兵〉の襲撃。


 それを迎撃する壮志郎と内也の連携はすでに決まっていた。


 夢原と同じ紫の刃の光刀を使い前衛を務めるのがのが壮志郎であり、その後ろで突撃銃をメイン武器に壮志郎をサポートするのが内也だ。


 この連携は壮志郎が夢原小隊に入った瞬間からずっと続けてきた連携だ。


「壮志郎。やれるか?」


「……当然。俺達は人間にとってのヒーローだ。逃げるなんて論外だろ」


「一応聞いただけだ。なら勝つぞ、相棒」


 戦いの始まりを告げる〈天使兵〉の光の弓による狙撃を壮志郎が迎え撃つ。


 壮志郎が得意とする遠距離斬撃、刀による剣戟をテイルによってそのまま遠くまで伝わせる技、〈撃月〉を用いて光の矢の両断した。


 斬撃波はそのまま弓を持つ天使兵へと襲い掛かるが、それは盾によって防がれた。


 攻撃を行った壮志郎を狙い槍を持った2体の〈天使兵〉が彼に目掛けて突撃。


 内也は手にした突撃銃で、迫る2体に向けて射撃を始める。


 次々に放たれる弾を〈天使兵〉は盾で防御しようとする。


 この突撃銃は、銃自体は反逆軍の標準装備だが、銃の特性である弾への特殊効果付与に関しては、内也が自分で開発したオリジナルのものを使っている。


 威力では普通の光弾と変わらないため、〈天使兵〉の盾に傷をつけるは叶わない。


「壮!」


 しかし、内也は準備ができたと判断して相棒に攻守反転を呼びかける。


 壮志郎は〈天使兵〉へと向かってまた遠距離斬撃、〈撃月〉を放った。


 その斬撃は先ほど盾で防いでいる。


 その情報を共有している〈天使兵〉は先ほどと同じく飛んでくる斬撃を盾で受け止めて、一気に壮志郎との距離を詰めるつもりだった。


 盾は砕けた。


 防ぐことが可能なはずの斬撃を、盾は受け止めきれずに斬撃は貫通、そのまま〈天使兵〉は両断された。


 先ほどの情報と矛盾する現象を起こしたのは、内也が先ほど放った弾だ。


 あの弾に内也が付与した効果は、明奈のように攻撃に直接関わるものではなく、着弾し後相手を弱体化させるものである。


 今回の場合、内也が弾に付与したのは〈脆朽〉の特性だ。


 弾を受けた物質を脆くするこの弱体付与によって攻撃を受けた盾は砕けやすくなり、壮志郎の遠隔斬撃を通したのだ。


 前衛の槍の天使兵2人がやられたことにより、警戒度をさらに上げる〈天使兵〉。


 今の前衛がやられた様子を見て、内也が厄介な武器を持っていると判断。そして、高速の矢を今度は内也に向けて放った。


「壮、そっちで構えろ、アレをやる」


 内也は助けは必要ないと宣言。その理由はすぐに見える形で現れる。


 内也を守るように現れたのは大小様々な黒い輪。輪の中は透明なのではなく、本当に中には何もない輪っかだ。


 内也はそれを矢を受け止めるかのように、矢が来る軌道上に輪を動かした。


 しかしこのままでは貫通する。本当にただの輪であれば中の穴を通り抜けて矢は直撃する。


 しかし、そうはならない。


 内也を守るために輪の中には矢が通り抜ける直前にシールドが表れ、そして内也を迫った矢から守った。


 本来天使兵の矢は通常のシールド簡単に貫通する威力を持っているのだが、内也が使ったこの黒輪が張ったシールドはひびすら入らない。


 〈天使兵〉は思うことだろう。


 敵が強力なシールドを使ってきたのだと。しかし、それは輪の役割の1つに過ぎなかった。


 空中に出た輪は12個。その中でシールドを張ったのは2つだ。


 そして空中の黒輪2つが弓の〈天使兵〉とへ向けて、猛スピードで空中を駆ける。


 その輪は回転しながら輪の外に光の刃をつけ、弓の〈天使兵〉2人を斬るべくして迫る。


 相手は天使と名付けられるだけあり自由に飛べるので、空中でも簡単に攻撃が当たるわけではない。


 内也もそれは十分承知している。今敵にけしかけた輪もとどめをねらうというよりは、けん制の目的の方が強い。


 本命は壮志郎の近くから上空にかけて、輪が置かれている。


 内也の命令でその8つにはあらかじめシールドを張られている。それは敵の攻撃を防ぐためではなく、壮志郎が踏めるようにした足場だ。


 突如、壮志郎が地面から姿を消した。


 8つの大きな踏み込みの音。その間1秒。


 そして、まるで瞬間移動をしたかのように空中へと現れた壮志郎は、輪に意識を向けていた〈天使兵〉の背後をとり剣戟を刻み込む。


 これは〈爆動〉を使用した高速移動だが、ここまでの速度になるともはや移動しながらの微調整は頭がついていかず不可能だ。


 故に壮志郎はコンマ単位で何秒後に次の足場に到達するか、どれくらいの踏み込みをすれば体勢を崩さず次に向かうべき方向へとつながるか、そのすべてを体に叩き込んでいる。


 故に異常な速度による、狭い足場を伝っての疑似瞬間移動を可能にしているのだ。


 これを真似できるのは、守護者第6位野田和幸、守護者第1位先導御剣という格上の守護者しか存在しない。


 修練によって築き上げられた、〈転陣縮歩てんじんしゅくほ〉と名付けられるほど特別な技術といえる。


 天使兵は最後に1人、急に接近していた壮志郎を警戒する。


 それは悪手だった。


 内也は上空の最後1人が意識を逸らしたのを確認すると、自分を守っていた輪のシールドを解き、その輪を2つ重ねで自分と敵の間に位置させる。


 そして突撃銃から弾を、輪をくぐり抜けるようにして敵に向かわせた。


 天使兵はそれに気が付き、盾とはまた別に、空中にシールドを展開して防ごうとする。その弾丸はそれを易々と貫通し、最後の〈天使兵〉を蜂の巣にした。


 輪の強固なシールド兼足場、そして刃を纏っての自動追尾攻撃、さらには輪の中を通った光弾の威力を上げる効果。


 3つの効果を使用できるこれこそ、守護者を擁する夢原隊に許された特別武器データ、固有名称〈スリーストライクサークル〉だ。


 まさにこの戦いは完全に壮志郎と内也が自分が得意とする戦いを通した結果であり、天使は失墜した。


「終わったな」


「ああ」


 ハイタッチ。内也と壮志郎は2人で戦った時、敵に勝利したら必ず行うようにしているのだ。


 しかし、2人とも清々しい気分ではない。


 〈天使兵〉も本来は人間が改造された者なので、自分たちが救うべき者なのかもしれない。それは壮志郎も内也も十分よく分かっている。


 それでも、この世界は命が等価値であるわけではない。自分の命、そして自分が守りたいものの命を優先するためには、時にはこの手で〈人〉だけでなく人間すら殺さなければならない。


「ヤバかったな。イカレた反応速度だ。とっさに本気出しちゃったけど、伊東家はこれが雑魚なんだろ?」


「そうだな。たぶん1人につき2人相手でも厳しいレベルだ。だからこそ、すぐに追うぞ。あいつらが心配だ」


「よっしゃ、わかった」






(遅いぜ、壮志郎の方が速かった!)


 昇は直前まで迫った槍をギリギリで避け、そしてカウンターでチャージした炎拳を〈天使兵〉に叩き込んだ。


 炎はうねりをあげ、増強された一撃は〈天使兵〉の体に深々と突き刺さる。


 内包されたエネルギーがすべて相手に伝わり、その勢いは〈天使兵〉を遥か先まで吹っ飛ばすほどだった。


 飛ばされた〈天使兵〉はまだ息はあるものの、起き上がってくることはなかった。


「あんぶね……」


 今の戦いも一瞬ではあるがギリギリの攻防だった。昇にとってはこれが雑魚である伊東家という存在が恐ろしい武力集団であることを実感する。


 伊東家と戦うということは、およそ5万以上の〈天使兵〉を相手どるということなのだから。


「でも、今回は勝ったぜ……!」


 安堵し、すぐに隣に加勢をしたところ、その必要はなかった。


 いつの間にか蜘蛛の糸にからめとられているかのように、張り巡らされた糸によって動きが拘束されている〈天使兵〉。


 それを井天雨は、その名前のごとく、上空から頭を狙うかのように大量の光弾の雨を降らせていた。


 盾とシールドで何とか耐えようとした〈天使兵〉だったが、最終的に両方削り壊され、光弾は貫通。〈天使兵〉は命を落とした。


 よく見ると脇腹に光の刃が刺さっているが、

「痛いけど、致命傷じゃない。心配無用よ」

 と本人が言っている。


「昇、やったじゃん。けっこうギリギリみたいだったけど」


「あんたらと一緒にやった訓練が活きた。それがなかったら死んでたと思う」


「なら、よかった。いや、振り返りは帰ってからにしよう。それより」


 井天雨が見る先では、反逆軍の人間たちが苦戦した〈天使兵〉をまるで準備運動をこなすかのように殺した男が迫ってくる。


「ああ。良かった。少しは心配していたんだよな」


「お前、強いな……」


 昇は笑みを浮かべ純粋に称賛する。

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