第29話 アジトの仲間たち
アジト内部は街を歩いてきた昇たちにとっては目新しく映る、ちゃんとした建物だった。
壊れている場所がない。通常は居住区ならば当たり前のことなのだが、昇にとってはかつての寺子屋以外では初めて見た景色だ。
「……へえ」
「馬鹿みたいな顔を晒すな」
「ああ、すまん……。でも、こんなにしっかり残っている建物は初めて見た」
「そうか。まあ、歩領を見ればそういうこともあるのか」
アジトに現在住んでいるのはおよそ500人程度。それに比べて、建物全体はあまりに広い。
その理由を、内也や夢原が説明しながらアジト内の目的地まで進む。概ね説明された内容はこのアジトには何があるかだ。
すべてがこのアジトに住む人々の生活スペースというわけではない。
居住区は工場跡周辺の地下にある一方、廃街の地価はアジト生活で必要な様々な用途の部屋が用意されている。
普段アジトに住む人間はキューブという万能栄養食で栄養を補っているが、角砂糖を毎日食べているのでは腹が減る。
1日3食というわけにはいかないものの、毎日1回は食事ができるように、アジトの多くの部分を食材生産を行う場所として確保している。
そして、アジトの中には歩家の〈人〉に対処するために使用する下手も多い。
外の監視カメラの映像を確認する監視室、作戦会議室、さらには瞑想室も完備されている。
瞑想と行っても精神統一ではなく想像を行うために集中するための個室だ。
テイルで新たなものを開発して実体化させるには、具体性のある想像は不可欠だ。
隣にデバイスエンジニア室があるので、この場にただ隠れ住んでいるだけではなく、テイルによる新しい器具の開発を積極的に行っている証だった。
さらには、戦闘訓練用のトレーニングルームもあるという。
反逆軍が来る前から自分達で自衛の方法を、研究していたことになる。
この大きな居住空間が単なる避難用シェルターとは呼ばれず、アジトと呼ばれているのは、このようなところに所以があるのだろう。
「基本的に、廃工場の地下区域が居住区と生活スペース、そして廃街の地下に在るのが食品生産と開発機関、トレーニングルーム等ね。まあ、俺達はそれぞれ居住地区と生産地区って呼んでいる」
「こんなにも広いアジト、寺子屋の連中が1から作ったとは思えないな」
「ああ。ある程度彼らように改造はされているが、このアジトの原型は、元々伊東家領を攻略しようとした昔の天城家がかつて使用したものらしい、もっともそれはもう30年以上前の話で、今では廃棄されていたがな」
「そこに目を付けた、現在のアジトリーダーが仲間たちを〈人〉に抗う意思を持った、寺子屋出身の逃亡者に、この拠点を与えて今の巨大な反逆組織になったらしいよ」
明奈も内也からこのアジトの事情を聞いて、この大きな規模のアジトがあるのに納得する。
「今向かっているのはどこなんだ?」
昇の質問には壮志郎が答えた。
「居住地区と生活地区の間に、アジト全体を管理、運用方針を決定する幹部用のオフィスがある。今はそこに向かっているんだ。もう俺らの通信を聞いて他の連中も集まってる頃だろう」
「なんか、隠れ家って感じはしないな」
「仕方ないさ。むやみに外に出るワケにはいかない以上、これくらい広いアジトじゃないと500人以上の生活を営むことはできないからな」
まだ遥か奥まで続く道を歩き続ける。
昇たちが案内された会議室、幹部用のオフィスにあるものでそれほど広くはない。多くても30人位しか入らないだろう。
演説台が部屋の奥の方にあり、その方に向けて机が一定の間隔を保って並んでいるところを見ると、寺子屋の一斉教導室、いわゆる教室をイメージして作られているように見える。
これは元々が寺子屋の出身の人間が多いことが影響しているかもしれない。
人数はそれほど多くはこの場にいなかった。
この場にいる人間の中でも、大きく2種類に分けられる。
まずは夢原と同じように京都反逆軍の証である紋章をつけた隊服を着ている1人。
そしてそれによく似ているものの、こちらは現在争いが絶えない紛争地域になっている関東圏に拠点をおく、東都反逆軍の人間が2人。
そしてこのアジトのリーダー格と思われる人間が3人。合計8人が待っていた。
「お待たせ。東堂くん」
「夢原、だいぶ外で暴れてきたみたいじゃないか。おかげで外が厄介なことになってるぞ」
「仕方ないよ。ウチらは人間を助けるために来てるわけだから、見捨てるって選択肢は信義に反するわけだし」
「それはそうだが、事後報告だけじゃなくて一言相談が欲しかったところだな」
昇たちは、その8人から少し離れた席に座らせられた。
近くには、内也と壮志郎が座り、夢原は用意されていた自分の席に腰を下ろす。
「まずは我らの紹介から行きましょう、東堂様、夢原様、吉里様。いかがでしょうか」
「ウチらはあくまで客人、最初はアジトリーダーの貴方から挨拶すれば?」
腰に刀をつけている男とストレートの黒髪の女性が頷く。雰囲気も含めその2人が東堂、吉里と呼ばれた人間であると昇は察した。
提案をしたアジトリーダーが昇たちに近づくと目の前で挨拶を行う。
「このアジトの総責任者をしている、レオンだ。ああ、名字を言えないのは許してくれ。俺の本名を知ってるやつは俺含めて誰もいないんだ。名付け親がもう死んでるからな」
握手を求められたので昇はそれに応える。そして隣の季里も快く応じた。明奈はすぐには応じなかった。
「おや、だめかい?」
「私は指輪型のデバイスを使うんでね。中を見られたくない」
「スキャン装置とかはつけてないんだけどな」
「生憎、信頼できる人間の言葉しか信じない主義だ。手を変えてくれ、左手なら承る」
「そうかい。なら」
アジトのリーダーは快く明奈の申し出を受け、手を変えた。今度こそ明奈は握手に応じる。
握手を得たリーダーはアジトの幹部と思われる2名を紹介に入る。
「さっき僕が座っていたところの両隣に座っているのが、一応僕の補佐兼それぞれの区域のサブリーダーだ。向かって右の眼鏡が
紹介を受けて、今名指しされた2名が昇たちに向けて会釈をした。
アジトリーダーのレオンこそ、およそもうすぐ20歳の大台を迎えそうな年長者だったが、その他2人のサブは自分と同い年に見える。昇は、先ほど言われた『同世代』という言葉が事実だとよく分かった。
「じゃあ、次はウチらじゃん? もう夢原隊は挨拶済みだから、東堂くんからね」
夢原の話を受けて、東堂と、吉里、その他1名が立ち上がる。
「俺からだな、京都反逆軍実働部隊、東堂小隊、隊長の
「あーばらすな! ウチら雑魚みたいじゃんそのランクだと」
「悪いな。本当は俺の部下もいるんだが、今は任務で外に出ている。後で紹介する」
不服そうな顔をした夢原がガミガミ言いそうなのを気にせず、吉里という女性もまた立ち上がる。
「東都反逆軍、吉里みのりです。隣が部下の早坂零です。お見知りおきを」
立ち上がって昇たちに一礼、その後すぐ再び吉里隊の2名は腰を下ろす。
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