第27話 夢原隊の弟子2人

 青色のレーザーが同時に何発も放たれている。


 町を破壊することもためらいはなく、まるでネズミを殺すのに銃を使っているような光景だ。


 着弾した場所はその熱量に耐えきれず解け崩れている。


 それほどの攻撃が、連続して襲い掛かっている中、明奈は物騒な発射主を睨み続け、そして街中を逃げ続ける。


 普通に考えれば過度な破壊行為であり他の何でもないのだが、それを行っているのは、歩家の近衛の1人となればこれは正しい攻撃行為だと判断されることだろう。


 近衛の女が居るのは空中。そこから明奈に目掛けて攻撃を仕掛けてきている。


 空中を移動できる仕組みは今の明奈には解析できなかったため、浮遊を妨害して墜落させることはできなかった。


 戦いは、銃と相手のレーザーの撃ち合いだった。


 空中から地上に向けて、近衛の女の攻撃が明奈を溶かすために破壊の光筋が降り注ぐ中、明奈も負けじと地上を走りながら持っている銃の引き金を引き続け、反撃へと転じる。


 拳銃1つであってもテイルでの射撃戦は使う武器の性能の差だけでは決まらないものだ。


 圧倒的な火力の差を埋めているのは、明奈が使う多種多様な特殊弾にある。


 自分に向かってくるレーザーの中でも、直撃しそうなものに関しては、明奈は〈螺旋徹甲〉という特殊弾を使って無効化している。


 これは着弾した所から半径1メートルと球状に優先度の高い破砕空間を作り、その空間に存在するものを消し去ることができる弾だ。


 これにより、自分に向かってくる攻撃の半分を相殺することで攻撃数をあらかじめ減らしているのだ。


 そしてそれだけではない、時々来る攻撃のチャンスには、彼女は別の弾を使っている。


 これは多くの銃使いが使う基礎弾であり、相手を自動で追尾する光弾をレーザーに当たらないように軌道を調整して放つことで彼女に確実に攻撃を向かわせていた。


 当然近衛の女はただそれを受けるばかりではない。光弾をレーザーでかき消したり、円状のシールドを使ったりしながら、明奈から飛んでくる時折の攻撃を防いでいる。


 戦いにはなっている。


 しかし、双方このままでは戦いが長引くだけになる。


 近衛の女としては明奈のテイルが尽きるまで持久戦をすれば勝てなくはないが、その方法をとるのは最終手段だ。


 レーザーは破壊力を抜群にする代償として、テイル粒子の消費量は非常に大きい。


 明奈のテイル枯渇よりも先にそこを尽きる可能性は低いが、ゼロではない。


 一方で明奈の方は、手札はそろっているが今使うべきかどうかを迷っていた。


 明奈には、昇に宣言した通り、初見の相手でも殺せる可能性の高い強力な特殊弾を残り2つ、そして短剣を用いた方法で1つ持っている。


 しかしいずれも単純に強いが手の内を知られれば対処が可能なものだ。


 ここで見せてしまえば相手方に情報共有され、よほどしっかり狙わなければ次が当たらなくなる。


 明奈もこれが決戦と言うべき瞬間であれば惜しむものはないが、これは歩家との戦いの前哨戦に過ぎない位置づけ。


 ここで奥の手を使うと後が苦しくなりそうなので、できれば別の方法で決着をつけたかった。


 しかし、猛攻を受け続けながら策を考えることは難しく、次の一手が打てないでいた。


(まいったな……)


 昇を助けに向かわなければ、という使命感が明奈の心の中に徐々に焦りを発生させていた。


 撃ち合いは続く。


 建物の陰に隠れた明奈。しかし時間を与えることは近衛の女は許さなかった。


 レーザーが建物に向かって放たれ、地面についた途端爆発を起こして明奈を隠す障害物を消し去る。


 爆発の煙の中から現れた追尾弾を、空を飛びながら避け、防ぐ。


 このやり取りももう何回目だろうか。


(このままやってもらちが明かない。やろう)


 特殊弾の切り替えを行い、次の一撃で終わらせることを決める明奈。


 この先の動きが厳しくなることは覚悟の上、今は、いち早く行動し昇の生存を信じ駆けつけることを優先することした。


 再び近衛の女に銃を向ける明奈。


 しかし、その引き金を引く前に、明奈の目に飛び込んできたのは、この戦場への新たなる乱入者だった。


「な……」


 近衛の女へ、右方向と左方向から挟み撃ちをする形で、明奈の知らない何者かの攻撃が入る。


 右方向からは斬撃を投射する戦闘支援のデータ〈撃月〉による遠距離斬撃が。


 左方向からは威力の高い光通常弾の数々が。


 近衛の女に向かって行く。


 想定外の攻撃に、近衛の女は自分の持つ最大の防御をしなければそれを防ぐことができない。


 その間、明奈への攻撃は止めるしかなかった。


 その隙に。


 明奈の元に、先ほどの攻撃を行ったと思われる2名が現れる。


 1人は格好つけて屋根の上に着地した後、明奈へと話しかけてきた。


 それを呆れるように見守るもう1人がきちんと道を歩いて明奈の元へと歩いてくる。


「大丈夫か、お嬢さん」


 一方のその男は、手に紫の刀を持ち、肩に独特な紋章をつけている。身長は明奈よりやや大きく、自信に満ちた様子の今の顔が、デフォルトの表情らしい。


「誰だ?」


「ここはもう大丈夫だ。俺に任せてお嬢さんは早く逃げろ」


「誰だと聞いている」


「名乗るのほどのものじゃあ」


 ドヤ顔で語る屋根の上の男に明奈は持っている銃を向ける。


「おいおいおいおいおいおい」


「ふざけるな。まだ敵がいる、手短に、お前らが信用に値する身分を示せ」


 明奈もおふざけを何もかも許さないわけではないが、オンとオフの切り替えをはっきりとするタイプなのだ。


「分かった。分かった許して……」


 屋根の上の男の無礼を見かねたもう1人が口を開く。


「京都反逆軍、実働部隊、夢原小隊所属、西内也、そしてチームメイトが失礼した。あの男は同じ小隊所属の刈谷壮志郎だ」


 言葉の雰囲気、そして眼鏡をかけていて、真面目な顔で姿勢もしっかりしている所をみて、明奈はこちらとなら話が通じそうだと思った。


 内也を名乗った男が名乗りを上げ、そして反逆軍所属の証明である身分証を提示する。


「ここには人間の救出の任務で来た。襲撃を受けているのが人間だとみて勝手に手を出してしまったが、まずかったか?」


「……いや。助けてもらえるのなら文句はない。反逆軍には恩人がいる。ある程度は信用しているから、今は信じてやってもいい」


 明奈はそこで壮志郎へと向けた銃を下ろした。


 壮志郎は格好つかなかったことに若干の不満を抱いてはいながら、すぐに気持ちを切り替え、再び近衛の女を見る。


 そしてその近衛の女へと向けて、壮志郎は走り出した。


 もちろん迎撃される。 明奈に向かっていたレーザーが今度は壮志郎へ向けられた。


 壮志郎は持っている紫の刃の光刀でそれを弾き、斬り裂きながら、その攻撃をものともせず突き進んでいく。


 その動きは韋駄天と評するべきだった。明奈は戦う壮志郎の姿を見て感心する。


 そもそもレーザーが彼を捉えられていない。そして辛うじて当たりそうになっても、反逆軍の特注品と思われる紫の光刀がそれを斬り裂いて、壮志郎へ攻撃が通らない。


「貴様……!」


「お前らが馬鹿にする人間が、何ができるか見せてやるよ。歩家の女!」


 それで、乱入者への警戒度が上がったのか、近衛の女は徐々に明奈へと割く注意力を下げざるを得なかった。


 明奈に逃げるチャンスが生まれる。


「お前の仲間も隊長が助けに入っているはずだ。慎重に工場跡へと向かおう」


「でも、アイツは大丈夫なのか?」


「速さはずば抜けている。逃げ足でアイツに敵うやつはそうそういない。アレを見る限り適当におちょくって逃げるなら簡単だろう」


 明奈にそれを否定してまで彼に加勢する義理はない。


 あの近衛の女を殺すことができなかったのは残念だったが、あの程度の敵なら、準備をした状態なら勝ち目は十分にある。


 将来また戦うことになっても、問題はない。


 明奈はそのように判断して、


「なら、お言葉に甘えて逃げる」


「俺が隊長のところまで先導する。後に続いてくれ」


「ああ」


 明奈は内也の後ろをついて走り出した。

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