第8話 関係

「ねえ、修くん。」

「ん?」

「今日のお昼。そ、その、良かったら一緒に食べませんか?」


駅へ二人で向かっている途中に、いきなりかしこまった口調で桜崎さんが聞いてくる。


「うん。いいよ。せっかく二人で作ったんだし。」

「ほんと?よかった。」


正直、毎日一人で食べてたので、もし今日も一人だったらこちらから桜崎さんを誘おうと思っていた。


少し歩いていくと、同じ高校の制服を着た人がチラホラと見えてくる。今更になって気づいたけど、こうして二人で登校しているところをクラスメイトに見られたら大丈夫なのか?


普段おとなしい奴が、次の日に転校生と登校してくるなんてどう見ても不自然じゃないだろうか。そんなことを考えていると、自然に桜崎さんと距離をとっていたようで、それに気づいた桜崎さんが足を止める。


「ごめん、少し歩くのはやかったかな。」

「ああ、いやそうじゃなくて、」

「どうしたの?」

「僕達は学校内でも、その、関わっていてもいいのかな。」


つい弱々しい発言をしてしまった。でもこういう関係になるのは初めてで、学校ではどうやって接したらいいか分からなかった。すると、彼女は少し驚いた後に笑った。


「なんか今の修くんって、女々しいね。」

「女々しいって・・・」

「でも、こういう修くんも面白くて、すきだよ。」


そう言われると僕の顔は一瞬で熱を帯びて、心臓がまたうるさく跳ね上がる。僕は少し早歩きで桜崎さんを追い越す。


「そんなこと言ってないで、早く行くよ。」

「道も知らないのに?」

「っ・・・!」


ますます顔が赤くなった気がして、恥ずかしくて桜崎さんと顔が合わせられない。


「ほら、一緒に行こ。」

「・・・うん。」



駅に入っても学生がほとんどで、あまり人はいなかった。少し待つと電車が来て、ホームにいた学生は全員車内に入る。


「座れるとこなさそうだね・・・脚大丈夫そう?」

「大丈夫。」

座席を探していると、一番端の席がひとつ空いた。


「桜崎さん座っていいよ。」

「え?でも修くんは・・・」

「いいから。早くしないと取られちゃう。」

「うん。ありがと・・・」


桜崎さんは少し申し訳なさそうに座席にすわり、僕は彼女の前にあった吊り革を掴む。


『ドアが閉まります。』


アナウンスが鳴って電車は走り出した。すると隣に座っていたおばさんが桜崎さんに声をかける。


「いい彼氏さんね。」

「は、はい。」

少し照れた表情の桜崎さんが小さな声で答える。


「あらまあ、可愛らしい彼女さんねぇ。ねぇ?」

「えっ?ええと、はい。」


突然話をふられたので驚いたけど、少し照れている表情の桜崎さんは実際かわいかった。


「青春ねぇ。おばさんこの駅で降りるから、隣座ってあげなさい。」

「あ、ありがとうございます。」


そう言っておばさんは降車の準備をして席を立った。僕は桜崎さんの隣に座ったが、改めて彼氏と彼女という関係に気づいたのか、桜崎さんはずっと頬を赤く染めていた。


降りる頃には桜崎さんも普通に戻っていて、だいたい15分くらいでついた。電車通学は初めてだったからいろいろと新鮮だった。駅を出てバス停の前を見ると、今一番出くわしたくないヤツ(蓮)がいた。


(あいつに見つかったら確実に面倒なことになる。)


「ちょっと桜崎さん、こっち。」

「えっ!?」

いきなり手を握ったからか桜崎さんは驚いた声を出す。


「急にごめん。でも今天敵がいるんだよ。」

「?」

「まあいいからついてきて。」


僕も気づいていないふりをしてその場をやりすごす。うまくいったのか声をかけられずに済んだ。ミッション成功だ。


(はぁ、危なかった。)

安堵の溜息をしていると、スマホが鳴った。


『そこの坂口 修、止まりなさい』


うそだろ?なんであれで気づいたんだ。当然止まることもなく桜崎さんを連れて天敵から逃げる。冷や汗が出ていた。


「で、なんで桜崎さんといんの?」

「うわぁ!!」


突然背後から声がして、肩を掴まれる。捕まった。ミッション失敗だ。


「止まれって言ったのに。」

「誰が止まるか。」

「で、なんで?」

(まずい・・・)


なんて言い訳したらいいのだろうか。とりあえず彼女の家に泊まったことは口が裂けても言えない。どうしようか。あれ?


(桜崎さんは?)


考え事をしていて周りが見えていなかった。隣にいたはずの桜崎さんはだいぶ後ろで蓮と話していた。


「おいっ!」

「どうしたんだ彼氏さん。」

「えっなんでお前・・・」

「今聞いた。」

「えっと、いけなかった、かな?」


純粋な眼差しで桜崎さんがこちらを見つめる。


「えっと・・・とにかく桜崎さんちょっと、」

また手を掴んで蓮から引き離す。


「なにかまずかったかな・・・?」

「いや、まあ仕方ないよ。でも」

「でも?」

「僕が昨日泊まったって言うことは誰にも言わないで。絶対。」

「う、うん。それより・・・手。」

「あっ!ごめんっ。」


つい焦っていて彼女の手を握ったままだった。彼女が少し恥ずかしがる。


「いいことも聞けたし詳しいことはまた後で、教室でなー。」

そう言って蓮は走っていく。また後で、か。最悪だ。


「ごめんね桜崎さん。変なやつで。」

「ううん。いい友達だね。」

「そうかなあ。」

「うん。」




(桜崎さんの手、初めて握ったな。)

僕はそんなことを思いながら歩いていく。



(修くんの手・・・大きくなったな・・・)

私は過去のことを思い出しながら歩いていく。

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あの日さがし。 @sou002

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