第7話 寝起きで・・・

「んん・・・」

まだ重いまぶたを開けると、すぐに自分の部屋じゃないことに気がつく。


(あれ・・・ここどこだっけ)


まだ頭がぼんやりとしていて、昨日の出来事がなかなか思い出せない。


(そうか、昨日は桜崎さんに泊めてもらったんだった。)


ようやく思い出したので体を起こし、立ち上がろうとする。


「いてっ。」


脚の太ももやふくらはぎ、ほとんどの箇所が筋肉痛になっていた。僕はぎこちない歩きでトイレへと向かう。


(あれ、トイレってどこだったっけ・・・)

たしかリビングを出て右と桜崎さんは言っていたけど、ドアがふたつあってどっちだったか忘れてしまった。

うろ覚えで右側のドアのドアを開ける。すると・・・


「えっ・・・!?」

「あ・・・・・」


こっちはトイレではなく風呂場で、目の前には髪が濡れたままで下着姿の桜崎さんがいた。みるみるうちに桜崎さんの顔が赤く染っていき、呆然としていた僕はようやくこの状況が理解出来て、急いでドアを閉めた。


「ご、ごめん!」

「い、いや、こっちこそゴメンね。すぐ髪乾かすから・・・」

「あ、えっと、そうじゃなくて、トイレと間違えて・・・」

「トイレは向かい側だよ・・・」


ドア越しでも分かる少し震えた声がかえってくる。もしかして怒らせてしまったのかな。


「ホントごめん・・・怒ってる?」

「まさか。ただ少しびっくりしちゃっただけ・・・」


僕はさっきの桜崎さんの姿が頭からなかなか離れなかった。可愛らしいけどどこか色っぽくて華奢な体。朝から心拍数が上がり、頬は少しだけ熱を帯びていた。


(弁当作り、大丈夫かな・・・)

今は桜崎さんと顔を合わせられる気がしない。ソファにだれていると、髪を下ろしている桜崎さんがきた。髪を下ろしていると雰囲気が違って、少し子どもっぽく見える。


「おはよう修くん。じ、じゃあ初めよっか。」

「う、うん。」

2人でキッチンへ向かい、桜崎さんは髪を結ってエプロンを付ける。


「私は卵焼きを作るから、修くんはそこの野菜切ってくれる?」

「わかった。」


野菜炒めを作るらしいから火が通るように薄く切っていく。料理をするのは結構好きな方で、母さんの手伝いとかもよくしている。


「修くん。」

「ん?」

「はい、あーん。」

「え・・・」

「いいから。」

彼女ができたての卵焼きをこちらに差し出す。恥ずかしながらも口を開けると、彼女は卵焼きを僕の口の中に置く。


「美味しい?」

「う、うん・・・」


正直恥ずかしくて味見どころではなかった。朝からドキドキしっぱなしだ。


少しして野菜炒めができ上がったので、僕も桜崎さんに味見させよう。


「桜崎さん、味見して?」

「うん、いいよ。箸貸して。」

「いやいいよ。ほら、さっきのお返し」


そう言って僕は箸で掴んだ野菜炒めを桜崎さんの方に向ける。


「ああ・・・えっと・・・」

「ほら、遠慮せずに。」

また桜崎さんの顔が赤くなる。


「・・・いじわる。」

上目遣いでそう呟いて、パクっと口の中に入れた。


「どう?」

「・・・おいしい。」


照れながら味の感想を言って、彼女は頬を赤くしながらお弁当に具を盛り合わせる。こうして二人のお弁当ができて、時計を見たらもう7時を過ぎていたので僕達は登校の準備をする。


僕は少し早く準備が終わったので、リビングでいつものテレビ番組を見ていた。この番組の星座占いを見てから学校に行くのが僕のルーティーンと化していた。


「おまたせ。」

制服姿に着替えた桜崎さんがリビングにきた。


「星座占い?」

「うん。桜崎さんって何座?」

「私はおひつじ座。」


おひつじ座だったのか。そういえば昨日の占いの僕の結果は「おひつじ座の人とは良くないことが起こるかも」だったけど、おひつじ座の桜崎さんとは逆にいいことが起きたな。


『第十位は、おひつじ座のあなた。今日はいやなことがある予感。慎重に行動しましょう。ラッキーカラーはピンク』


この番組では、順位が下位だったらラッキーアイテムなどを紹介してくれる。あれ?ピンクって・・・


「嫌なことか・・・あ!今日の国語って確か・・・」

「今日は小テストだと思うよ。」

「きっと嫌なことってそれだ・・・」

「そんなに国語苦手だったんだ。」

「国語はちょっとね・・・」


まあでもラッキーカラーがある。そして彼女はもうラッキーカラーのものを身につけている。それを知ったのは朝のできごとだ。まだ鮮明に覚えている。だからきっと小テストは上手くいくだろう。


僕の星座は6位で、普通のことが書かれていた。


「じゃ、そろそろ行こっか。はい!」

そう言って桜崎さんは僕にお弁当を渡す。


「ありがとう。」

僕はそれを受け取ってカバンの中に慎重に入れる。


「「行ってきます」」


二人で玄関をでて駅へ向かう。少しいつもとは違う日の始まりだ。

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