第5話 告白

リハビリも順調に進み、日常生活では支障ないところまで回復した。あとは週一で病院に通ってのリハビリでいいとの事で、僕は初めて我が家に帰ることになった。


「退院おめでとう。修。」

「ありがとう母さん。母さんも、今まで付き添ってくれてありがとう。」

「いいのよ。とにかく無事でよかったわ。」


『自分の口から話しなさい。退院してからでもいい。』


あの時父さんに言われた言葉がよぎる。やはり、今言うべきなのか。戸惑いながらロビーの椅子に腰かける。しばらくすると、車で迎えにきた父さんが来た。


僕は助手席に乗って景色をみながら、母さんにいつ話そうか考えていた。母さんはずっと看病してくれたからか車に乗ってすぐ眠っていた。


「退院おめでとう。そしてこれから初めての我が家だな。」

「うん・・・母さんに、いつ言えばいいかな。」

「お前のタイミングでいいさ。」


父さんはただそれだけ言って、赤信号で止まっていた車を再び走らせる。



いつの間に眠ってしまったのか、父さんに起こされて車から降りる。目の前にはごく普通の家が立っている。


「ここが僕の・・・」


ドアの鍵を開けて、周りを見渡す。初めて入ったはずなのに、どこか懐かしさを感じた。


「ただいま。」

「おかえりなさい。」


無意識にそう呟いていた僕に、後ろから笑顔の母さんが言葉をかえす。きっと今しかない。そう決心した僕は母さんを呼び止める。


「母さん・・・話があるんだ。」

「ん?どうしたの?」


『そういうこともしっかりと受け止めるのが、親ってもんだ。』

父さんの言葉を思いだす。そして信じる。


「僕は・・・実はあの時から記憶を失ってるんだ。」

「なんとなく分かっていたわ。」


意外な言葉がかえってきて驚いた反面、少しほっとした。


「どうして・・・」

「前のあなたと少し様子が違ったもの。もしかしたらと思って。」


『赤ん坊の頃から見てきたからこそ分かる、自分の子の癖ってもんがあるんだよ。』


そっか。最初から母さんは分かっていたのか。親のすごさを実感した僕は、胸の中にあったモヤモヤがスッと晴れたのを感じた。


しばらくして学校に登校することになったが、やはり覚えている人は一人もいなくて、まるで転校してきた気分だった。そんな時に最初に話しかけてくれたのが蓮だ。そうして一からだけど友達付き合いも順調に行き、高校も無事受かって、僕はだんだんと記憶を失ったことを忘れていった。


そして、今日桜崎さんと出会った。


「だから僕は桜崎さんのことも、約束のことも思い出せなかったんだ。」


桜崎さんに過去のことを全て話した僕は、彼女がきちんとこのことを受け止めてくれるのか心配だった。


「そうだったんだ・・・」


真剣に聞いていた彼女は、その一言を言って涙を浮かべる。


「でも、また出会えてよかった。私のことを覚えてなくても、約束のことを覚えてなくても、修くんが無事でよかった。」

「でも僕はなにも覚えてない。」

「ううん。いいの。修くんが生きてくれているから。またやり直せばいいだけだよ。」


生きてくれている。その言葉を聞いた僕は涙を流していた。


「もしかしたら、一緒にいたら全部思い出して、約束も思いだすかもしれないでしょ?」

彼女は笑顔でそう呟く。



「だからもう一度、私と付き合ってください。」



「・・・でも僕は、君といても何も思い出せないかもしれない。」

「いいの。」

「約束も・・・思い出せないかもしれない・・・」

「いいの。私は修くんとまた出会えただけで嬉しいんだから。何も思い出せなくっても、それでもいい。」


夕日に照らされて彼女の笑顔が輝く。


「それより、さっきの私の告白の返事は?」


そうせがんできた彼女に、僕は涙を拭って告白の返事を返す。


「今の僕でも良ければ。」



「もちろん!前も今も、修くんは修くんだから。」

「じゃあ、こちらこそよろしくお願いします。」

「・・・はい!」



────こうして、僕と桜崎さんはもう一度一緒に歩み寄る。これは、記憶を失ってしまった少年が、少女と「あの日」に交わした約束を思い出すため、また寄り添い何気ない日々を共に過ごす物語────

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