あの日さがし。
爽
第1話 いつもの日常
──もしもう一度会う時がきたら、また──
桜が咲き乱れていて、道端に流れる川は木から舞った桜の花びらで覆われていて、まるで絨毯のようだった。そして、目の前にはどこか寂しそうな表情の少女がひとり。春風で桜の花びらが舞い、彼女の髪がゆらゆらと靡く。そして彼女は笑顔を見せ、遠くに去っていく。
「待って、行かないで。」
僕は無意識にそう言って、手を伸ばした。まるで引きとめようとするように────
「修、バス乗り遅れるわよー。」
母さんが僕の部屋のドアをノックしながら言った。起きてはいるが、頭の中はさっきの夢のせいでぼんやりとしていた。
「ヘンな夢・・・」
自分の体験談という訳でもなく、昨日見たドラマのワンシーンでもなかった。というか、夢自体もうずっと前から見てなかった。いつ以来だろうか。そんなことを考えながら僕は制服を着て、机に置いてある教科書をカバンの中に入れ部屋を出た。
「おはよう。今日お母さん夕方まで仕事だから、よろしくね。」
「うん。行ってらっしゃい。」
家事を済ませ、スーツ姿に着替えた母さんを見送る。テーブルにおいてあった食パンを咥えながらテレビをつけてニュースを見る。
『今日は一日中晴れ。すごしやすい一日になるでしょう。 』
そろそろ五月も終わる季節だ。だんだんと夏に近づいてきて、日差しも強くなってくる。
『続いて星座占いのコーナー。11位は── 』
番組も終盤に差し掛かり星座占いが始まる。僕は占いを過信はしないが、順位がいい日なんかは、ついいいことを期待してしまう。
『お次は第3位、てんびん座のあなた。』
3位か、まあまあ上位だったので、少しほっとした。
『今日は友達と積極的に話しましょう。より仲が良くなること間違えなし!ただし、おひつじ座の人とは要注意。なにか良くないことが起こる予感。』
「おひつじ座か・・・」
星座の結果は頭の片隅にいれておいて、ローファーを履き、家を出る。
「行ってきます。」
家には誰もいないので返事がかえってくるはずもないのにそう言って玄関のドアを開けた。
外は雲ひとつない快晴だった。家からバス停までは徒歩で五分くらい。そこからバスで30分かけて学校に行く。途中で通る公園には、ピンク色の美しい花弁を落とし、夏への移行準備に入った桜の木が数本立っている。
──それにしても、夢で見た桜の道はとても綺麗だったな。
そう思いながらその公園を通り過ぎた。行ったこともないはずなのに、やけに鮮明にあの情景が思い出せる。
バス停の手前で、クラスメイトの蓮と合流した。僕より少し背の高い、人当たりがいい奴だ。
「よう。今日は朝練ないの?」
「おぉ、修。来週からテストあるから朝練は休み。」
蓮はサッカー部に入っていて、普段は朝練があるが、今日からテスト1週間前だから部活は休みらしい。僕の通う学校のサッカー部はそこそこ有名で、何度か全国大会に出場したことがある。
「そっか。もうそんな時期か。」
「どうした?わかんないところあるんなら俺が教えてやろうか?」
「それはこっちのセリフだ。」
「ははっ。まあお前頭いいもんな。」
自慢できるほどでもないが、僕は勉強ができる方だ。家に帰ってもゲームをしたり本を読んだりしてるだけで、退屈しのぎに勉強をしたりする。だからあまり勉強は苦ではない。
そんなことを話しているうちにバスがきた。僕と蓮はバスに乗り、吊り革を掴む。
「なあ、蓮って何座?」
特に話すこともなかったので、朝の星座占いの話題を出してみる。
「安心しろ、俺はおひつじ座じゃないぞ。」
「ならよかった。」
蓮も同じ星座占いをみていたのか、そんな答えがかえってきた。
「そういえば、今日じゃね?」
「何が?」
「ほら、前にセンセーが言ってた、うちのクラスに転校生が来るって話だよ!」
「あぁ。一週間くらい前の?」
「そ。噂では女子らしいぞ?」
「それは楽しみだな。」
こんな時期に転校生は珍しい。夏休みの終わりとかならよくある話だが、新学期になって1ヶ月弱が経った今くるのはあまりないケースだ。
『次は宇海高校前。宇海高校前。』
バス内にアナウンスが入り、制服を着た人達は降車の準備をする。
いつもの日常の始まり。この時の僕は、まだそう思っていた。
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