Ⅱ
「君、アラン島の爆発事件を知っているかい?」
「はい…たしか、マナが化学反応を起こしたって…」
「うん、それのこと。でもね、マナが化学反応を起こすことなんてあり得ないんだ。マナはそもそも物質じゃあ無いからね。」
マナは物質じゃない…
「アラン島で起こったのは化学反応じゃない。…もっとひどいことだったんだよ。僕たちはこう呼んでる…『命の叫び』って。」
命の…叫び…
「『命の叫び』は莫大なエネルギーの四散なんだよ。それを化学反応だなんて、政府も考えが甘すぎる。まあ、それ以外の言い訳が思いつかなかったんだろうけど。」
ダメだ…分らないことが多すぎる。
「えっと…つまり…」
「ああ、ゴメンゴメン。要は『マナは危険』ってこと。ここまでいい?」
はい、と、僕は頷く。
「じゃあここからは昔話だと思って聞いてくれ。一人の英雄のお話。」
*
「あるところに、代替医療の研究を生業とする大学教授がいたんだ。彼は主に義手や義足の研究をしていたんだけどね、そのかたわらマナの研究もしていたんだよ。そしてある日、本当に偶然だったんだ、彼はマナの正体を知ってしまった。そして政府がマナのため、いや、上流階級の人々がマナを使うために何をしているのかを知ってしまった。彼は心を痛めた。こんな社会は間違っていると、こんな時代は来るべきではないと。そして彼は動いた。間違ったマナの時代を終わらせるために。でも、それを政府は見逃さなかった。彼にありもしない罪を着せ、犯罪者としてつるし上げた。彼は国賊として報道され、居場所を失った。自分が捕まればどうなるかを悟っていたんだろう。彼は、手に入れた情報とたった一人の娘を、自身の研究室のメンバーにたくし、その後、政府に連行された。僕たちは先生の残した資料に目を通して驚愕した。あまりにも現実離れしていて、理解が追いつかなかった。でもそれを信じるしか無かった。」
彼は続ける。
「僕たちの元に残されたのは、先生の残した情報と、彼の形見である一人娘だった。僕たちは思った。先生の形見である彼女を僕たちで守ろうと。この子は、何も知らずに幸せに生きて欲しいと。でも、それはうまくいかなかった。どうやったかは未だに分らないけど、彼女は知ってしまったんだ。マナのことも、父親のことも。そして彼女は世界を憎んだ。そして彼女、アリス・ホワイトは、『革命軍』を作った。父親を奪った政府に復讐をするために。世界をマナから解放するために。」
じゃあ、つまり…
「ここにいる革命軍のメンバーは、ホワイト君の父親の研究室にいたメンバーなんだよ。僕も含めてね。」
「ホワイトは…父親を政府から救い出すために…」
「まあ、でも。政府に捕まった時点で…いや、ホワイト君が諦めていないんだ。僕たちも彼の生存を信じないとね。」
彼はどこか悲しそうにつぶやいた。
「僕らにとって、先生はもう一人の親みたいなものだから…」
彼の話を思い出す。
マナの正体に気づいたホワイトの父親。情報を託された研究室のメンバー。復讐を誓うホワイト。
彼女にそんな過去があったのか…
「まあ、昔話はこんなものかな。長くてゴメンね。」
「いえ…ありがとうございます。」
しかし、まだ疑問が残る。いや、疑問にならざるをおえない。彼は最初から『マナの正体』について濁している。
「…マナって、何なんですか?」
僕は彼に向かって聞く。彼は、目を戦車に向けたまま答えた。
「僕が話せるのはここまで。後は、ホワイト君の口から聞くべきだよ。」
彼はそう言うと、足を出口に向けた。
「今日は手伝ってくれてありがとうね。」
僕は部屋の真ん中で立ち尽くしていた。
*
翌日。
集会所に集まった僕に、ホワイトは言った。
「新しい仕事よ。私と一緒にマンチェスターに行くわよ。」
冒険の始まりが告げられた。
4話 完
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